第57話

56話   やっと
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2026/04/15 07:00 更新
あなた
夜蛾さん、どうして私を助けてくれたの?
夜蛾 正道
…どうして、か



  夜蛾さんは壁によりかかって、

  腕を組んで考えている


夜蛾 正道
…腕を見せてみろ
あなた
腕? はい



  右腕を夜蛾さんの前に出すと、

  夜蛾さんは制服の袖を無理やり捲った


あなた
あらびっくり
夜蛾 正道
……



  無理やり袖を捲られたことで

  腕に擦れてしまって、肌が少しだけヒリヒリする


あなた
…夜蛾さん?



  夜蛾さんは何も言わず、静かに腕を見ていた


夜蛾 正道
…痣は無くなったな
あなた
…あざ?
夜蛾 正道
…ケンタとソウスケに付けられた傷だ
あなた
……



  懐かしい


  そんなこともあったっけ


夜蛾 正道
……
夜蛾 正道
ここは、一つ教師らしいことをさせてもらおう



  夜蛾さんは足を大きく広げて、

  深く椅子に座って私に体を向けた


あなた
教師らしいこと?
夜蛾 正道
お前にとっては残酷なことだと思うがな
あなた
…いいわ、別に
夜蛾 正道
あなた、お前は「先生」が死んだことを、今でも自分のせいだと思っているか?
あなた
あら、本当に残酷なことを聞くわねぇ
夜蛾 正道
言っただろ
あなた
うーん…そうねぇ…



  私は右手で頬を包んで、しばし考える


あなた
うーん…
























































タエ子
『一緒に死ぬか?』


















































あなた
今はあんまり…?
夜蛾 正道
…そうか



  本当に死ぬかもしれないと思った

  あれほどまでの恐怖を抱いたことはない



  それに比べてしまったら……


あなた
…ねぇ、夜蛾さん
夜蛾 正道
ん?
あなた
あなたは私が死んだら、悲しい?



  後ろで手を組んで、首を傾げて聞いた


夜蛾 正道
…そりゃあ、まぁ
夜蛾 正道
お前は教え子だからな、教師としてお前を守る義務もある
あなた
まぁ3日ほど居なくなっているけれどね
夜蛾 正道
だからどこに行くかくらい話したらどうなんだ!



  机をドン! と殴りながら、

  いきなり説教モードが始まった


あなた
えぇーっと…



  戦国時代に行ってるなんて言えば、

  多分「ふざけるな」とか言われると思う



  だって普通無理でしょ?

  時代移動してるなんて思えないじゃない?


あなた
…1年ほど前にねぇ、新しいお友達ができたのよ
夜蛾 正道
ほう
あなた
タエ子さんっていう女の子でねぇ
夜蛾 正道
随分古風な名前だな



  夜蛾さんは足と腕を組んで背もたれに寄りかかった

  なんだか偉そうな座り方


あなた
とても明るくて、真っ直ぐで、強かな人なのよ
夜蛾 正道
……
あなた
タエ子さんの作るご飯は、とっても美味しいのよ〜
あなた
夜蛾さんにも一度食べてもらいたいわ
夜蛾 正道
…そうか、いい友人ができたのか
あなた
えぇ
あなた
…とてもいい出会いをしたわ



  きっとこの一年以上私を放っておいたのは、

  私が変化していく様を見ていたかったから


夜蛾 正道
…なんでお前を助けたか、か
あなた
そう、どうして?
夜蛾 正道
…どうしてだろうな
夜蛾 正道
ただ、呪霊が見える才能を潰したくなかっただけかもしれない
あなた
あぁ〜、確かに少ないものねぇ



  合理主義な夜蛾さんらしい回答


  少しガッカリしてしまったかもしれない


あなた
でも、そのおかげで…
夜蛾 正道
まぁもしかしたら…
あなた
夜蛾 正道
放っておけなかったんだろうな
あなた
……



  あの合理主義な夜蛾さんが、情を理由にした

  情けをかけて私を助けた



  その事実がどうしようもなく、私の感情を昂らせた


あなた
…そのおかげで、私は助かったわ
夜蛾 正道
あぁ、間違った選択はしていない
夜蛾 正道
お前は一級呪術師として活躍しているしな
あなた
うふふっ、そうねぇ
あなた
全てが正解だったわ
あなた
あなたの行動も、言動も、選択も…



  声が裏返るのを我慢できない


  目の奥が熱くなっていく


夜蛾 正道
…?



  視界がぼやけて夜蛾さんがよく見えない


  ようやく見えたかと思えば、頬が濡れた


あなた
お陰で今、私は生きてる…
あなた
私を助けてくれて、ありがとうございました・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・



















































































































































































































夜蛾 正道
…あなた
あなた
うふふっ、あぁ…やっと…
あなた
やっと呼べたわ…!



  先生を失っても涙を流せなかった私は、

  ようやく涙を流すことができた

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