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第1話

それは酷く鮮明だった
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2025/01/19 19:00 更新
「死ぬまでずうっと、ずーーっと一緒だよ!」



そういって無邪気に笑った彼女の姿は
どこへ消えてしまったのだろうか







秋が過ぎ冬が来る日本には四季と呼ばれる一年の間に移り行く春・夏・秋・冬の四つの季節が存在する
そんな四季の中でも僕は冬が1番好きだ
段々と空気が澄んでいく日々に期待と待ち遠しさを胸に抱く

12月
それは本格的な冬の始まりと言っても過言では無いだろう
ある地域では既に雪が降り積もり始めたらしい、が…
あいにく僕が住んでいる地域にはみぞれとも言い難い申し訳程度に降る雨同然の雪しか拝むことはできない
そして傘を刺さずに体を冷やしながら散歩するのが僕の趣味


「う〜…さむーい…」


“寒い寒い”と同じ言葉ばかりを連呼しながら淡い桃色のマフラーに顔を埋めるのは長い時を共にすごしている友人の李冬リトウ
名前には冬という文字が入っているが自身の名とは裏腹に彼女の最も苦手とする四季はどうやら冬らしい。


春斗ハルト ーあっためてー」


ぴたりと僕に体をくっつけ人目を気にせず擦り寄ってくる彼女のことはどうしても僕が昔飼っていた猫、コハクに見えてしまいついつい甘やかしてしまう
頭を撫でると嬉しそうに瞳を細める姿がどことなく似ているのだ


「…僕、湯たんぽじゃないんだけど?」


ほんのりと赤く染った李冬の手をぎゅっと握る


「わかってるよ〜、でも春斗、年中暖かいじゃん !
つまり人間ホッカイロ」


んふふ、と笑いながら自慢げな表情をする彼女は常に僕の傍から離れない
365日14時間くらい一緒にいるのではないだろうかそれくらいずっと傍にいる
24時間ではないのか?
それは最早同棲しているだろう?
僕らは学生だよ。


「あーはいはい、いい加減カイロ持ち歩けば?」

「やだ!買いに行くのも面倒!」


ぷくっと頬を膨らませる姿が本当に可愛い。
…1つ誤解しないでほしいのは、李冬と僕は恋人関係ではないということ。
それだけは理解しておいてくれ、わかったね?

うんうん、と頷く僕をみて気味悪そうにする李冬
そしてひたすら頷いている僕ただの変人だ。


「…ねー、春斗ったら。」

「え?ああ、何?」

「教室ついたらあっためてー」


あっためて、というのはつまり、抱きしめろということ
元々スキンシップは多い方だが冬になると通常時の倍以上人の体温を求める彼女は恒温動物なのだろうか
“はいはい”と適当な返事をしながらいつも思うことを今日も感じた




(以下中略)




「…春斗はさあ…、李冬が死んじゃったら悲し?」


突然振られた話題に口にしていたポテトを噛まずに飲み込んでしまう
ごふっと思い切りむせてしまい周囲の人からの視線を一身に受け止めた


「んだよ急に…」


喉に詰まったフライドポテトは思っていたよりも頑固でなかなか胃の中には落ちてくれない
そんな僕を見ても尚お構い無しに話を続ける


「ふと気になっちゃってさ〜
  ほら、春斗って基本塩じゃない?だから」

 「あ?あー…そう、だな…」


なんと返すの正解?
考え事をする時に右斜め上をみてしまうのは人間の心理的現象らしい
僕は今まさにそれをしている


「悲しいのは当然、ずっと一緒にいる友達だし」


これでどうだ!
飲み物を飲むついでに表情を伺う…と、あほらしく口を開ける李冬の姿が目に映る


「え、何、僕が『全然悲しくないね』とか言うと思ってたわけ?」

「思ってた!めちゃくちゃ!」


声を張り上げる様子をみるからに余程驚いたのだろう
いや、普通の返答しただけなんだけど。
にしても失礼ではないか?


「そっか〜!うんうん!」


…まあ、満足気だし細かいことは置いておこう。

 「なんで急にそんなこときいたの?意味わかんねえんだけど」

…あ、ポテト追加注文しようかな
くだらないことを考えながら自然と問いかける


「いやー?純粋に気になっただけだってば!
  ずっと友達でいてくれるんでしょ?」


頬杖をついて嬉々と質問を質問で返してきた


「お前いなかったらモグドナルド寄り道とかできねえし…」

「だよねぇ〜!春斗、友達いないもんね!虚しい男!」

「っとにお前さあ…」

“注文追加する?帰る?”と聞こうと思い僕が口を開きかけると、それを遮るようにいつもの調子でとんでもないことを吐かれた


「私死のうと思ってるんだ!」


と。
その瞬間だけ時空が歪んた気がした
そう感じるくらい酷く鮮明に嘘だと信じたい言葉が僕の耳に届いたのだ


「…理由は?」


反応に困る
一先ず理由を聞いてみることにした


「いっぱいあるけど一番の理由は疲れちゃったから!全部言ってこうか?まずクラスの子たちから嫌われていじめられちゃってるでしょー?で、次にお母さんとお父さん離婚する予定らしくて私がどっちに着いてくか決めなきゃ行けなくなって決断迫られてー、?あとはあとはー…」

「李冬」

「何言ってんだーって思うかもだけど!最近眠っても嫌な夢ばっかみるんだよね!それが嫌!あとね〜」

「李冬!」


止まらない言葉を半ば強制的に切断する
だって…


「お前、泣いてること気づいてんの?」


陶器のような綺麗な肌を何度も滑り落ちる透明
僕はそれを見るに堪えなかった


「あっれぇ、おかしーな、涙なんて…」


ぼろぼろと零れる雫を必死に拾い上げる李冬の姿
当然周りの目も自然と集まる
これ以上はお互いの精神衛生によくないと判断し食べたものの片付けだけをして店を出た
それから誰もいない“僕らの出会いの場”へと向かった



(中略)



「…落ち着いた?」

もう何十分抱きしめていたかわからない
背中をさすりながら泣いて体温が上昇した彼女を抱きしめる
僕にできるのは所詮この程度
それ以上のことは思いつかないし、思いついても実行できるとは思えない
浅い呼吸を繰り返す李冬は苦しそうで、見ているだけの僕まで苦しくなってしまった
これが感情移入、というものだろうか

彼女が時折弱った姿をみせることは何度かあった
だがここまで深刻化しているとは思わなかった
最近はそういった様子を見せないとは思っていたけどきっと全て抱え込んでいたのだろう


「…ごめん、ね、…めーわく、かけちゃって…っ…」


そう声に出すと綺麗とは程遠い、乱れた笑みをみせた


「迷惑なんてかかってねえよ…」


ぎゅう、っと強く
さらに強く抱きしめる
これ以上触れてしまえば折れて、粉々になってしまいそうだけれど僕はそうする気で抱きしめていた


「…迷惑くらい掛けていいから、もっと頼れよ」


声が震えた
これが僕の本音だ
迷惑くらいいくらでも掛けていいだから
抱え込まないで一緒に背負わせてほしい
本当に、これが本音。
“いいの…?”と肩をびくっと震えさせる彼女の頭を優しく撫でながら僕は静かに頷いた
脳死で頷いたわけではなくて、しっかりと意志を持って。
そこにはいつもの無邪気な笑顔を貼り付けた李冬の姿はなく、1人の弱い女の子がいた
僕の胸の中で啜り泣く少女
それがきっと、李冬の本当の姿


「…はる、と、は」

「ずうっ、と、ずうーっ、と、一緒にいてくれる?」


僕の肩を強く掴んだままそう問われた
そして僕の出す答えはただ1つ



「李冬がいる限りは、僕もいるよ。」



ただ、それだけ。

その言葉に安心したのかさらに涙を流し嗚咽を繰り返す少女は儚くて脆くて触れたら火傷してしまいそうなほど柔い存在だった
彼女が抱える希死念慮や不安はきっと僕なんかには取り除くことは出来ない。
でも、緩和させることならできる。
独善でしかないかもしれない
だがそれでいい
僕はずっとそれでいい
彼女が居てくれるのであればそれでいい
嫌われたっていい





それは酷く鮮明な
僕が見た夢の中の話だった。

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