第5話

5.理解度
81
2026/01/11 09:00 更新
私は慌ただしく家の扉を開けた。
もう家を出て2時間弱は経過している。
まさかそんなに長風呂なわけが無い。
少年の精神が案外安定していることを祈る。
先程購入した服を持ちながら、風呂場へと足を急がせた。
なぜか廊下の一部が少しだけ湿っている。
脱衣所の扉の前まで行くと、小さな泣き声が耳に入る。
柄にもなく焦っていたせいか、勢いに任せて扉を押した。
sik
!おねー…、さん゙…。
そこには、ぺたりと座り込んでいる少年がいた。
顔タオルを押し当てているが、
涙は零れ落ちているし、泣き声だって聞こえている。
また涙が溢れそうな目が、タオルから此方を覗いている。
少年はもちろん全裸だが、
とりあえず泣き止ませないといけない。
彼の尊厳は一旦無視させてもらう。
あなた
…どうした。
sik
……あ
まだ涙は止まっておらず、
切羽詰まりながら少年は声を出す。
しどろもどろになっていて、一向に言葉が出てこない。
私はその様子を見て、棚からタオルを取り出した。
そして少年の髪に目を向ける。
あなた
…触るぞ。
それだけ言って私はタオルで髪を拭いた。
タオル越しにも冷たく湿っていることがわかる。
これでは風呂に入れた意味がないのではないだろうか。
少年は目を大きく見開いた。
未だに涙は止まらない。
彼の中の水分はまだ残っているのだろうか。
すると少年はタオルから手を離し、
私の服をキュッと握った。
sik
…怖かった、でず…。
あなた
…。
sik
家の中、おねーさんが、いなくて……。
sik
独りで、怖くて、落ち着かなくて…。
途切れ途切れになりながら、
一つ一つ言葉を紡いでいく。
その言葉を言えば言うほど、
少年の涙も増えていく。
sik
離れちゃ、やだ…ッ。
涙と鼻水で再びグチャグチャになった顔を、
今一度見つめてみる。
あなた
…そうか。
情緒を激しく乱してまでも、
お前は私を求めるのか。
あなた
とりあえず謝っておく。
あなた
申し訳ない。
頼れる人が周りにいなくなって、
何かで孤独を埋めたいだけだろう。
分かっている。
あなた
…お前の服を数着、買いに行っていたんだ。
わかっているけど。
私を欲するような顔に、
私のせいで醜くなったその顔に、
酷く気分が昂った。
あなた
お前が離れない限りは、
あなた
離れない。
sik
…。
少年は黙って頷いた。
あなた
…顔だけもう一回洗ってこい。
sik
やだ。
あなた
…脱衣所で待っておく。
sik
…ん。
そう言うと少年は渋々頷いた。
黙ってもう一度風呂場へと入っていく。
あなた
はぁ…。
私はため息をついてその場に座り込んだ。
彼が掴んでいた服の皺を見つめる。
どこかくすぐったい心に、
思わず自分の口をすぼめた。
人間はおろか、自分への理解も見失った気がしたのだ。

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