少年はほんの数十秒で風呂場から出てきた。
少年は顔を顰めてキッパリと言った。
その表情からは不快だ、
と思っていることが直に伝わってくる。
私は新しいタオルと買ってきた服を少年に手渡す。
今日はタオルの消費量が凄まじい。
ハーブのような匂いが鼻を掠める。
風呂場にある石鹸の匂いだ。
彼はせかせかと着替え始めた。
ふと彼が今裸であることを再確認し、
少年から少し目線を外す。
正直もうその行動に意味はないけれど。
嬉しげな少年の声が聞こえてきた。
どうやら着替え終わったらしい彼を見つめる。
今着用している黒いロングTシャツと白いズボンは、
どちらも袖が余っていた。
少年は遠慮がちにそう言った。
けれど少し動きづらいのではないだろうか。
彼はまたもやせかせかとしながら袖を捲る。
どうも彼は落ち着きが無い。
ふとこのタイミングではみがきもさせておこうと思い、
棚から適当に一つ選んで彼に差し出した。
そう言って少年は洗面台に向かう。
が、子供である彼には少し高さがあり、
背伸びをしても届かない。
彼は目の前で手を伸ばしながら蛇口と格闘している。
その姿になぜか保護欲が湧いてしまう。
私は彼の脇の下辺りに手を入れ、ひょいと持ち上げた。
どこか嬉しそうに蛇口を捻る。
少年の体へと意識を向ける。
骨のよう…という訳でもないが、
平均より細く力を入れすぎると折れそうだ。
食事は少し多めにとらせよう。
あと、洗面台に脚立を置いておくとしよう。
と言っても、彼は一時的な滞在をしているだけだが。
少年と共に脱衣所から出る。
廊下にある窓の外は暗く、
月の柔らかい光だけが射し込んだ。
はみがきを終えた頃には、
少年はうとうとと船を漕いでいた。
私は客室の方向へ歩き出す。
だが、服の裾を握られそれを阻止された。
彼はすぐに裾から手を離す。
まだ精神が不安定なのだろうか。
口をモゴモゴとさせている少年を見つめる。
もう一度、客室へと歩き出す。
今度は引き留められることはなかった。
客室に着くと少年は真っ先にベッドへと向かう。
遠慮がちに布団の中に入ると、私をじっと見つめてくる。
まだ風呂にも入っていないが、
もう考える気力もないので布団の中に入る。
逃げてほしくないのだろうか。
少年は小さな手で私の右手を握った。
無意識に私はその手を握り返す。
久しぶりに感じた温もりに、
どこか安心しきってしまった私は、
強烈な眠気を覚えた。
今後のことを考えるのは明日にしよう。
目を瞑った少年を視界に入れたのを最後に、
私は彼より早く眠りについてしまった。












編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。