第74話

続き
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2026/02/19 13:44 更新
カイ side

リョウガ
……医務室から、薬もらってくる


ぽつりとそう言って、リョウガは楽屋を出ていった。
一瞬だけ見えた目が、少し潤んでいた気がした。


ライブ本番ですら滅多に泣かない人だ。
その違和感が、妙に胸に引っかかる。


さっきまで一時間近く、あれだけ激しいダンスナンバーを踊っていたのに、
リョウガはほとんど汗をかいていなかった。


最初は「さすがだな」と思った。
でも今になって、それが不自然に思えてくる。


息は荒いのに、顔色は白いまま。
視線もどこか定まっていなかった。
嫌な予感がして反射的に立ち上がり、楽屋のドアへ向かう。

ユーキ
待って
かい
え?


振り返ると、ユーキが真剣な顔でこちらを見ていた。
その手にはペットボトルの水。

ユーキ
リョウガ、多分体調悪い。さっきから足元ふらついてた
かい
.....


気づいてたのか。

ユーキ
水、持ってって。あいつ多分、限界ギリギリまで我慢してる


そう言って、無言でペットボトルを押し付けてくる。

かい
……ありがとう


ユーキは小さく頷くだけだった。
“頼んだ”とでも言うみたいに。


俺は水を握りしめ、楽屋を飛び出した。
廊下は静かだった。
レッスンスタジオから離れると、さっきまでの音楽が嘘みたいに遠い。

かい
リョウガ!


返事はない。


医務室の方向へ急ぐ。
その途中、何かが擦れるような音がして足を止めた。


角を曲がる。

かい
……っ


リョウガが、壁にもたれかかるように座り込んでいた。


呼吸が荒い。
肩が小刻みに上下している。
それでも、汗はほとんど出ていない。

かい
リョウガ!
リョウガ
……あれ、カイ。なんで
かい
なんで、じゃないでしょ。これ、水


ペットボトルを差し出すと、少しだけ迷ってから受け取った。

リョウガ
……大丈夫。ちょっと立ちくらみ
かい
大丈夫な人は、そんな顔しない


言った瞬間、リョウガの目が揺れた。


ほんの一瞬だけ。
助けを求めるみたいに。


でもすぐに逸らす。

リョウガ
……行かなきゃ


立ち上がろうとして、ぐらりと体が傾く。

かい
ダメだって!


咄嗟に肩を支える。
思っていたより、ずっと軽かった。

かい
今は、あんたが無理する番じゃない
リョウガ
でも、俺リーダーだし……


声に力がない。
そのとき、足音が近づく。

ユーキ
... 顔色悪すぎ


短い一言。
でも、その目は真剣だった。

リョウガ
.....
ユーキ
なんで言わないの


責めるようでいて、責めていない声。

リョウガ
言ったら、休まされる...
ユーキ
当たり前だろ
かい
今日9人揃う日だから、とか思ってるんでしょ


リョウガは、怒られてる時の子供のように目を伏せる。
図星なんだろう。

ユーキ
お前いなくても、俺らはやれる


静かな廊下に、その言葉だけが残る。
リョウガの肩が、わずかに震えた。
カイはそっと支える腕に力を込める。


リョウガは何か言おうとして、
でも言葉が出ない。


その目が、今度こそちゃんと揺れた。

かい
休もう。リーダー

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