第99話

3号車 リョウガ 【トラウマ】rq
2,023
2026/05/24 14:40 更新
" ピンクだるま "さんのリクエスト
3号車リョウガ💜💀 【トラウマ】
リョウガ side

ツアーも終盤に差しかかっていた。
今日の会場は、特効演出にいくつか制限がかかっているらしい。

スタッフ
炎も銀テープも、安全確認の都合で一部カットになります


リハーサル中にそうスタッフから説明を受けたことで、俺は珍しく少しだけ安心していた。


昔のステージ事故の影響で、炎や発射音を伴う演出は今でも少し苦手だった。
けど、事前に分かっていれば心の準備はできるし、普段はそこまで大きく取り乱すこともない。


ただ、“来ないと思っていたものが突然来る”という状況だけは、どうしても駄目だった。
本番が始まってしまえば、そんなことを考えている暇なんて当然なく、九人でステージを駆け回って、煽って、踊って、気づけばライブはあっという間に最後の挨拶まで辿り着いていた。

タカシ
今日はほんまありがとうございました!


客席から大きな歓声が沸く。
アロハはいつも通り「最高ーー!!」と叫びながら大きく手を振り、
ハルもハイテンションで「楽しかった人ー!?」なんて客席に問いかけてる。


一方その横では...

シューヤ
マサ、汗やば
マサヒロ
えー、拭いてくれるのー
シューヤ
うわ、近寄んな暑ぃ
マサヒロ
いや、え?(笑)そっちから来たんじゃん(笑)


……はぁ、“チャーはん”の世界観には入らないのが安全だわ。
なんて、絡まれないように少し距離を開けたりしてた。


そんな騒がしくて平和な光景を見ながら、俺はふっと肩の力を抜いた。
今日も無事走り切れそうだと、本当にそう思った、その瞬間だった。



——ボォッ!!



視界の端で、突然炎が上がった。

りょうが
……は?


思考が止まる。


いや待って。
今日、炎無しって聞いてたんだけど???


理解が追いつく前に、今度は銀テープの発射音が会場に響いた。



——パンッ!!



その音を聞いた瞬間、身体が勝手に強張り、心臓が嫌な跳ね方をした。
頭の奥で、昔の記憶が一気に引きずり起こされる。


別のステージ。
ユーキと立っていた頃のライブ。

" 機材トラブル。炎。破裂音。悲鳴。止まる音楽。混乱するステージ。 "

——あの日の空気。

りょうが
……っ


視界が揺れ、うまく息が吸えない。
頭では“違う”って分かってる。
今は事故なんか起きてないし、誰も怪我なんかしてない。


でも、“無いと思っていた演出が急に来た”という事実が、完全に心の準備を奪っていた。
予測していなかったからこそ、身体が反応に追いつかなかった。


しかも今はステージの上で、目の前には8号車がいて、逃げ場なんてどこにもない。
なんとか笑おうとするけれど、多分かなり引きつっていたと思う。
その異変に一番最初に気づいたのは、やっぱりユーキだった。

ユーキ
……リョウガ?


返事をしなきゃと思うのに、喉が上手く動かない。
さらにもう一度、炎が上がる気配を感じた瞬間、肩がびくりと大きく跳ねた。

ハル
リョウガくん?


あ、終わった。
ハルに気づかれた。
こいつ顔に出るタイプだから、多分今、「え!? リョウガくんヤバい!?」って顔してる。
ハルの隣にいるアロハまでめちゃくちゃ困った顔でこっちを見ていた。
やめろ、そんな“迷子の大型犬”みたいな目で見るな、とツッコミたくなる余裕だけが変に残っていた。


その時、隣にいたユーキが、客席から見ればただ肩を組んでわちゃわちゃしているようにしか見えないくらい自然な動きで、そっと俺の腕を掴んだ。

ユーキ
大丈夫。俺いるから


その一言で、ギリギリ意識が“今”に引き戻される。
完全には無理だった。
怖いもんは普通に怖いし、心臓もまだバグってる。


それでも、“ユーキがいる”という事実だけで、なんとか立っていられた。
すると、こっちの異変を察したカイが、さりげなく前に出てきてくれた。

カイ
なんか今日のリョウガさん、ユーキに引っ付いてる(笑)


いつもの調子で笑いながら空気を変え、客席から黄色い歓声が上がる。
……いや、ピンクか?

どっちでもいいけど、とにかく助かる。
めちゃくちゃ助かる。

りょうが
……たまには、いいだろ


掠れた声でなんとか返すと、すかさずタクヤが返してくる。

タクヤ
きも(笑)
ユーキ
おぉい! 俺のリョウガにきもいとか言うな!!


ユーキが乗っかれば、8号車から悲鳴みたいな歓声が飛んできた。

カイ
タカシー、ユーキにリョウガさん取られたー
タカシ
あらぁ、よしよし
8号車
ぎゃぁーー!!!
アロハ
みんな8号車叫びすぎて死にそうだから(笑)


みんな、気づいてる。
気づいてるけど、“ いつもの空気 ”を崩さないようにしてくれている。
その優しさが、逆にちょっと泣きそうだった。
ユーキは腕を掴んだまま、小さく呟く。

ユーキ
あとちょっと頑張るよ


その声に、俺は小さく頷いた。

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