「こじま、たべんのおそない?もらってええ?」
幼い誠也が、自分の分のプリンを食べきって、
向かい側にいるスプーンが止まっている小さい小島に声をかけた。
小島を膝の上に乗せていた正門が、
「せーやくん、今、こじけんの食べたらアカンよ、さすがに。伝染るかもしれへん」
と誠也を制止した。
それから、
「大丈夫か?やっぱ食欲ないん?」
正門が心配そうに、膝の上の小島の顔を覗き込む。
胃腸炎で病院に行ってきたとはいえ、
まだまだ回復途中。
下を向いていた小島は、
「…ちゃうねん、たべたい…でもおなかいたいねん…」
と小さな声で言った。
「まだそんな食べられへんでもええって。残しとき?とっとくから」
正門がそう言い終わるのとほぼ同時に、
幼い声で小島が「…アカン、おなかいたい…!」
と言って慌てて膝の上からスルリと下りて、
トイレのほうに走っていく。
正門は、
「大丈夫なんか…」
と呟いて、
お腹がすいてしまって食べたい気持ちもわかるけれど、
少量食べてすぐトイレに駆け込む姿を見て、
心配そうに、席を立った。
正門も小島も席を立ってしまってから、
小さい誠也は、椅子の座面の上に立って、
残っていた小島のプリンの皿と自分のプリンの皿をスプーンごと交換して置いて、
残っていた分をペロリと全部食べてしまって
「ごちそうさまでしたー」
と何食わぬ顔で言って、
「さのー、おろしてー」
と晶哉を呼んで子供用椅子から下ろしてもらった。
その夜、晶哉の部屋で一度眠ってから、1時間もしないうちに目を覚ました幼い誠也は、
急激な腹痛に布団の上で体を丸めていた。
すぐに晶哉に助けを求めようと思ったが、
ベッドの上にいない。
お腹を押さえて丸くなっていると、
部屋のドアが開いた。
ドアの開く音だけを聞いて、
「…さのー…」
と弱々しい幼い声で呼ぶ。
「ん?せーやくん起きたん?」
寝ていると思って静かに入ってきた晶哉は、驚いて声をかけた。
「…おなかいたい…」
「え…!お腹痛なって起きたんっ?」
「んぅ…めっちゃいたい…」
「大丈夫なん…?」
晶哉が慌てながら、布団に横たわる誠也の横に駆け寄る。
「…トイレいきたい…」
そうは言いながらも誠也はお腹が痛くて自分では立ち上がらない。
「行こ行こ」
晶哉が優しくも急いで両手で抱っこして、
トイレに連れて行った。
ドアの外から晶哉が心配して何度か声をかけて、
しばらく経ってからようやく、
小さな手でお腹を押さえた幼い誠也がトイレから出てきたので、
晶哉は目線を下げて様子を見る。
辛すぎて誠也が既に泣いているのを見て、晶哉は
「…大丈夫なん…?」
と心配そうにしている。
「…んぅ…っ…っ」
ひっくひっく泣きじゃくっている誠也を、
抱っこして洗面所に連れて行って手を洗わせる。
「めっちゃお腹くだしたやんな?」
「んぅ…おなか…っいたい…っ」
幼く泣いている誠也の手をタオルで拭いてあげて、
部屋に戻るために、手を引いて明るいリビングを通る。
「痛いやんな?可哀想に…」
晶哉は、足が止まった誠也に合わせて
その場にしゃがんで、誠也のお腹をさすった。
「急に寒なったからお腹冷えたんかな?湯たんぽいる?寒いやんな?」
心配している晶哉に、
小さい誠也が泣きながら
「…ちがう…っ…ごめんなさい…っ」
と言っている。
「謝らんでもええんよ?お腹痛いことぐらいあるやんな?」
晶哉が優しく、あいている左手で頭を撫でて言う。
「…ごめんなさい…っ…っプリンっ…っ2こっ…たべてん…っ」
泣きじゃくる誠也がそう言う。
昼間に、小島の残したプリンを食べたからこうなった…
と思って誠也は罪悪感に苛まれて泣いている。
「2個食べたん?2個食べたぐらいでお腹壊すんかな…」
その現場を見ていなかった晶哉が、
普通にあのあともう1個食べたんやな、と思い、不思議そうにしていると、
急に、「ぅっ…」
と不自然な動きをして誠也が吐いた。
それを見て晶哉が慌てる。
「わーっっ…大丈夫なんっ?吐いた?気持ち悪なった?」
慌てながらも小さな背中をさする。
「…ぇっ…ぅっ…っ…っごめっ…なさいぃ…っ」
「泣かんでええよ、大丈夫やから」
慌てながらも晶哉が小さな背中をさすっていると、
リチャが、騒がしい声を聞いて部屋から出てきた。
「どしたん?」
「せーやくん吐いてもて……さっきお腹痛い言うてお腹くだしたばっかです…」
「…ぅっ……っ…」
泣いている幼い誠也と、その目の前の光景を見て、
リチャは
「大丈夫かいな」
と言いながら、「とりあえず片付け手伝うで」
とテキパキと動いて、
すぐにキッチンから、また誠也が吐いたときに受け止めるための袋を持ってきて、
晶哉に渡した。
片付けを手伝おうとする晶哉に、リチャが言う。
「素手で触らんとき?俺がやっとくから末澤頼むわ」
そして、「ちょっと寒いけど窓開けんで」
と、換気のために窓を開けた。
そうやって大騒ぎしていると、
正門もそっとドアを開けて音を立てないように部屋から出てきた。
バタバタした雰囲気を見て、
「どうしたんですか?」
と尋ねる。
「末澤吐いてもて、お腹痛いんやって」
リチャがそう言っているそばから、
誠也が「…ごめっ…なさいぃ…っ…」
と泣いている。
「ごめんなさいはええて。」
手袋をして、塩素系漂白剤も持って片付けをしてくれているリチャが、可哀想に思いながら言う。
「急に具合悪なったんはしゃーないから、気にせんでええ」
「…ちがっ…っ」
誠也は泣きじゃくりながら、
「…プリン…っ2こ…ったべてんっ……っごめんなさいぃっ…」
とまた言っている。
「何?プリン?」
何のことかわからないリチャと、
「あ…!え?そういうことなん?」
と何か合点がいったような正門の反応。
「小島のプリン食べたいうことですか??」
昼間に、お腹が痛くなった小さい小島が
トイレに行ったあと、
戻ってきて、
お皿の上のプリンがなくなっていることに
しばらくしてから正門は気づいたけれど、
小島が食べたのかと思っていた。
よう考えたら小島が食べる暇なかったわ…と正門も今さら気づく。
幼い誠也が泣きながら頷き、
「ごめんなさいぃ…っ…」
と言っている。
「何の話?」
リチャが戸惑いながら片付けを進めていると、
正門が「小島の食べかけのプリンを、
せーやくんが食べたいうことやと思います」
と説明した。
「あっ、そのせいでお腹痛なるし気持ち悪なったて言いたかったんですか」
やっと晶哉も納得。
「ずっと“プリン2個食べた”て泣きながら言うんで、何のことやと思ってました」
「…たべたアカ…っン…て…っ…っいわれっ…ぁっけどっ…っ…」
泣きじゃくりながら必死に喋ろうとする幼い誠也を見て、
正門が「俺が、伝染るかもしれんから小島の食べたアカンよて言うたけど、
せーやくん食べたからお腹痛なったと思ったんやな?」
と優しく言って、
「ここ寒いから、とりあえず晶哉の部屋入ったほうがええな?」
と晶哉にも言う。
もう何が原因かなんてわからないし、
とりあえず温かいところで泣き止ませるのを優先した。
「そうですね」
晶哉が誠也をそっと部屋に連れて行くのを見て、
正門は、たぶんまた吐いてしまうであろう誠也のために、
風呂の手持ち桶に紙おむつをセットして受け皿を作り、
晶哉の部屋に持って行った。
案の定、ちょうど持って行ったところで誠也はまた吐いてしまって、
医者からは同じ3歳ぐらいとは言われているけれど
小島よりはなんとなくだいぶ幼くて
自分で持って受け止められそうにない誠也のために、
口元に持っていって受け止める。
「それ何ですか?」
「これやと、片付けしやすいし急に吐いてもうても受け止めやすいんやて。リチャくんが教えてくれてん」
泣いている誠也に、正門が
「そんな泣いたらしんどいやろ?
泣かんでええから落ち着き?」
と言って、指で涙を拭う。
晶哉が誠也の小さな背中をさすってあげている。
「座ったほうが楽?」
晶哉が、壁際にクッションを置いて、
そっと小さい誠也を抱き上げて座らせた。
「…ごめっ…なさっ…」
幼い誠也が痛いお腹を押さえてそう言って泣いているのを見て、
「もうごめんなさいはええから」
と正門が眉尻を下げて心配そうに言う。
「晶哉、窓開けとき?換気せなみんな伝染んで」
片付けを終えたリチャが、
開けっぱなしになっていた部屋のドアから声をかけた。
「寒いやろ、あったかいパジャマ持ってきた」
リチャはそう言って、
泣いている誠也を立たせて着替えさせ始める。
膝を着いて座っているリチャの肩に
幼い誠也が額を乗せて寄りかかって、
着替えさせてもらっていると、
ズボンを替えてくれるときに、
スルッといつの間にかパンツも下ろされていて、
でも間違えたんかなと幼い誠也が思っていると、
お尻を広げられていきなり坐薬をグイッと押し込まれた。急な痛みに、
「や゛ぁぁぁぁぁっっっ!!」
と目の前のリチャにしがみついて大泣きした。
「いたいぃぃぃぃっっ」
うわぁぁぁぁぁぁぁんっっ
と大泣きしながら、「やめてやぁぁっ」
と小さな右手を後ろに伸ばしてリチャの手を避けようとする。
それでも、グイと中までしっかり坐薬を挿れられて、
甲高い泣き声で
「っっ!?いたぁぁいっっっ!!いやぁぁぁぁぁぁぁっっ!!」
と叫んで足をドタドタ鳴らす。
もうそのときには挿れ終わっていて
「リチャが…っっ…“いたいざやく”いれたぁぁぁっっ」
と指をさして、目が合った正門に訴えて
うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁんっっ
と天を仰いで泣いている。
「“痛い坐薬”て何やねん。ずっと吐いとったら
どーせ眠れへんねんから、挿れといたほうがええやろ」
吐き気止めの坐薬をこっそり持ってきて
あっという間に入れたリチャが呆れながら言う。
今までベビーオイルを付けて痛くないように
坐薬を挿れられたことしかなかったから、
“痛くない坐薬”だったのに、
今回のは“痛い坐薬”と思ったのだろうと
察しがつく正門は
「“痛い坐薬”やってんな?もう終わったから安心やな」
と苦笑しながらも慰める。
「なんでいたいのいれるんっ!?ほんまにいたかったぁぁぁっっ」
ギャンギャン泣きながら文句を言う誠也に、
リチャが呆れながら言う。
「さっきまで“ごめんなさい”言うてたやん。
アカンことしたんやったら坐薬痛いんもええ薬やろ」
「…っ」
幼い顔で、むーっと拗ねながらも、
「…っ…っ…」
また、「食べたらアカン」と言われたものを食べて
伝染った罪悪感が蘇って黙る幼い誠也に、
ちょうど小さなお尻が出ていたので
リチャが、大きな手で
パァンッッ!!
とお尻を叩いた。
突然の痛みに幼い誠也が
「っっっっいたいぃぃぃっっ!!うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁんっっ」
と大泣きしながら小さな両手でお尻を押さえて跳び上がった。
「ごめんなさいぃぃぃっっ」
叩かれたお尻がジンジンしているし、
お尻の中に留まっている坐薬も気になるし、
こんな痛い思いをするとは思っていなかった。
わんわん泣いている誠也を見て、
驚いている晶哉とは違って、
「もう痛い思いしてんから、ごめんなさいは終わり!
泣き止んで早よ寝えよ?」
と言ってリチャが部屋を出ていった。
「わぁぁぁぁぁんっ」
甘え泣きに変わった誠也が
「リチャがおしりぺんしたぁぁ…っっ…」
と正門と晶哉に訴えて泣く。
「痛かったな?お尻ぺんされる思てへんかったやんな?」
正門が苦笑いで慰めながら優しく背中をとんとんして、
「早よズボン穿き?冷えてまたお腹痛なるで」
と、そっとパンツとズボンを穿かせる。
「…っんぅ…っ…」
誠也は泣きやみながらも頷いて、素直に穿かせてもらっている。
もう充分わかっているだろうから言い聞かせるのはやめて、
小さな背中を、そっとポンポン、と優しくたたいた。
そうしていると、
リビングから、
「……まっさんどこ〜?…」
と頼りない幼い声が聞こえて、
あ、あっちで呼んどる…
と正門が立ち上がって、
「せーやくん、ゆっくり寝れるとええな」
と声をかけて頭を撫でて、
晶哉の耳元で「たぶんこのあと熱上がるかもしれへんで」と伝えてから、
部屋を出ていった。
正門が部屋を出ていくと、くるりと向きを変えた泣き顔の幼い誠也が、
座っていた晶哉にぎゅっと抱きついてきた。
「せーちゃん、お尻痛かったな?」
優しく話しかけて、
背中をとんとん…とゆっくりと優しくたたく。
「んぅ…っ」
素直に頷いた誠也は、
晶哉の膝の上にちょこん、と座ってぎゅ、と抱きつき直す。
大きな温かい腕に包まれて、安心感で、
鼻をすすってぐずぐずしながらも心地よく落ち着いていく。
晶哉は近くの毛布を手にとって、
小さな誠也を包み込むように掛けた。
それがまた温かくて、
安心して「…さっきざやくいたかったぁ…っ」
とぐずぐず言い始める。
自然と、小さい子に向けた優しい口調になる。
「痛かったやんな?でももう終わったからな?」
そっと、毛布の中で小さな背中をさする。
「んぅ…っ…っ…」
「早よ効いてゲーゲーならんようになるとええな」
晶哉の優しい言葉に頷いて、
「んぅ…っ」
ホッとしている小さい背中。
泣きながら謝られ続けるよりもこのほうがまだマシ
とこちらも少し安心した晶哉が、
「大丈夫?また吐きそう?」
自分では予告できないし準備できない幼い誠也に、
晶哉が察して受け皿を用意してやる。
また少し吐いて、
「…しんどい…」
と涙目になる誠也の小さな背中をさする。
「しんどいやんな、早よ薬効くとええな」
「んぅ…っ」
もうすっかり甘えて素直に引っ付いているけれど、
幼い姿で体調を崩されると
とても心配になる。
そうしてようやく眠らせてから、
明け方に、「…さのー……っさのー…っ」
と幼い泣き声で起こされる。
晶哉がまだ寝ている自分の体をなんとか起こして電気を点けると、
布団の上で、
少し捲れた掛け布団の横で丸まっている幼い誠也が見える。
眠い目をこすりながら、
「どうしたん…?」
と尋ねると、
「いたい……っ…ここも…っ…ここもいたいぃ…っ」
と、小さな腕や足を指して泣かれる。
「痛いん?大丈夫?」
晶哉は、ようやくベッドから下りて、
布団の脇に座って、小さな手足をさすった。手足が熱い。
掛け布団を避けると、
やはり布団も、誠也のパジャマのお尻も濡れている。
「…っさむい…っ…いたいぃ…っ」
と幼く泣いているのを見て、
「寒いやんな?」
と体温計を挟ませて、
鳴るのを待っている間、小さな背中をさする。
「…さのー…っいたいぃ…っさむいぃっ…」
ふぇぇぇぇん…と力なく泣きながら涙の溢れる目で助けを求めてくる様子が、
とても幼くて、可哀想だ。
体温計が鳴って取り出すと、39℃を超えている。
「とりあえず着替えよ?な?」
優しく、小さい誠也に声をかけて、
濡れているパジャマのズボンとパンツを脱がせて、
小さなタオルをあてて、
ひょいっと軽々抱っこして、
部屋を出た。
体を拭くための濡れタオルを、
台所で、なんとか用意してから、
晶哉がふと思い立って冷蔵庫を開ける。
そこから薬の袋を取り出すと、
それまでおとなしく、晶哉の肩にぺたん、と
寄りかかって抱かれていた誠也が、
小さな足をパタパタ動かして、
「…それイヤや…っっ!」
と小さな手で袋を押し返そうとする。
「ざやく…っ!?…ざやくいれるん…っ!?」
急に怯えた顔になって問いながらも、
晶哉の返事を待たずに「…ぜったいいやや…っ!」
と泣きながら、薬袋を持った晶哉の手ごと押して遠ざける。
「嫌なんはわかってるけど…」
晶哉も、明け方で眠いから
「でも痛くて眠れへんでしょ?」
ととりあえず、力ではまったく問題ないのでそのまま冷蔵庫のところを離れようとする。
「いややぁっっ…っ」
誠也は大きな声で泣き出して、
「ぜったいっっ……いややぁぁぁっっ」
と叫んで、うわぁぁぁぁぁぁぁんっっ
と大泣き。
どこまでも幼くなっている誠也に、
「そんな泣いたらみんな起きますって」
と晶哉が困りながらも言っても、
「でも…っ…でもっ…っ……ざやくはイヤやぁぁっっ」
とびーびー泣いて、
抱っこされているのに小さな足をパタパタ動かしている。
そうしていると案の定、
「せーやくん?どうしたん、そんな泣いて」
と低い声が聞こえて、
台所の入口に正門が立っている。
「…さの…っが…っ…ざやっ…ぅ…っ…いれるっ…っ…てぇ…っ…っ」
幼い誠也は激しく泣きじゃくりながら喋り、
小さな手を丸めて手の甲で涙を拭っている。
こんだけ泣いても吐いたりしてへんてことは、
そっちは一旦落ち着いたんやなと、
正門はそっちは安心しつつ、
「それが嫌で泣いててんな?大丈夫やから、こっちおいで」
と小さい子に言うように優しく言って、
晶哉の腕から、両手で小さな誠也を抱き上げて、
抱っこし直した。
「んぅ…っ…っ……」
泣きじゃくる誠也を連れて、
晶哉のあとに続いて、晶哉の部屋に戻る。
「熱は?」
「39℃超えとって、痛い言うてて…」
「それはしんどいな」
布団の敷きパッドやら何やらを晶哉が替えてくれている間、
幼い誠也の体を拭いてあげて、
替え終わった布団に誠也をころん、と寝かせると、
「やっぱざやく…っ…いれるん…っ?」
と泣いて丸まっている。
それもそのはず、パンツは穿かせてもらえなかったから。
「ぜったい…っいややぁぁ…っ」
ぐずぐず泣いて横向きに丸まっている誠也に、
正門は、もはや布団の外に落ちていたまだ温かい湯たんぽを、
ふわふわのカバーを直しながら、渡した。
「これ、抱っこしとき?寒いやろ」
正門が優しくそう言うと、
「んぅ…っ…」
幼い誠也は素直に、
ふわふわの湯たんぽを抱いて丸くなっている。
ちょうど小さなお尻が横に突き出ているそこに、
正門が、ベビーオイルの付いた坐薬をいきなり挿れて、
冷たい手がお尻に触れた感覚に
「ヒィっっっ」
と幼い誠也が甲高い悲鳴を上げて膝を伸ばしたけれど、
すんなり、坐薬を入れ終えて、
パンツもズボンも穿かせ始めると、
「…ざやく…っいれたん…っ?」
と目に涙を溢れさせて見上げられる。
お尻の違和感に、小さな足をもぞもぞさせて
見上げられても、
「痛なかったやんな?」
と正門がまるで普段通りと言わんばかりに答える。
「…っなん…っで…っ…いややって…っ…ゆーたのにっ…っ」
機嫌を損ねてぐずぐず泣きじゃくる誠也を、
正門が抱っこして、
「そんな泣かんでええやろ、もう終わったって」
と優しく小さな背中をとんとんする。
熱も相俟ってぐずぐずの小さい子供でしかない誠也を
なだめるのももう慣れてきた。
「…ざやっ…く…っ…いたっ…からっっ…っいややっ…っ…」
「おん、そうやんな」
「なんっ…で…っっ…いたい…っの…っ…いれるんっっ…?」
幼く泣きじゃくって見上げられているところで、
洗面所に洗濯物を持っていっていた晶哉が戻ってきて、
「え…もう坐薬終わったんですか?」
と驚いている。
「終わった終わった」
答えるのとほぼ同時に
「…いややって…っっ…ゆーた…っっにぃぃ…っっ」
ふぇぇぇぇんっっ
と幼い誠也に泣かれて、
「ずっと熱あって痛いの嫌やろ?」
と正門が小さい子に言うように優しく言って、
背中を撫でている。
「んぅ…っっ…でも…っっ…」
「坐薬も嫌やってんな?わかっとるよ?」
「んぅ…っ…いややってん…っ…」
優しくされてやっと落ち着いてきて、
ぺたん、と寄りかかる小さな頭を撫でる。
やはり触った感じの熱さで、熱がだいぶ高いのがわかる。
ひっくひっく泣きじゃくっている、
右手に収まりそうな小さな背中が揺れて、今度は
「……いたい…っ」
と、
もはやお腹が痛いのか節々が痛いのかわからなくなっている幼い声に、
「痛いやんな」
と優しく言って背中を撫でる。
「んぅ…っ…いたいぃ…っ」
横から晶哉も、そっと小さな腕をさすって
「大丈夫、大丈夫やから、もうすぐ痛ないようになるからな?」
と声をかけている。
布団に下ろそうとすると
ギュッとしがみついて下りようとしない誠也を
眠るまで正門が抱っこしてから、
そっと布団に寝かせた。
長くこちらに居てくれた正門に、晶哉が
「あっちの2人は大丈夫ですか?」
と小声で聞く。
「2人とも1回起きてさっき寝たとこやってん。
たぶん朝まで起きんから大丈夫」
「あぁ、それなら」
と晶哉も納得して、
「晶哉も寝れるとき寝えよ」
と正門が言って部屋を出ていった。
小島も、そして誠也も、すっかり元気になった頃のある日、
子どものままの2人が、
庭に出て遊び始めた。
「ちょっ…まって!?そんなおもいっきり蹴らんといて!?」
幼い声で小島が、
誠也の蹴った青いボールを、体を横向きにして両手を前に出して避けながら言った。
最初は生け垣のほうを背にしていた小島が、
だんだん逃げて、
縁側を背にすると、
幼い小島が受けきれなかったボールが、
バンッと窓に当たり、
大晴が「もうやめてや。また窓割れたらさすがにアカンて」
と、少し開いている窓の間に来て
小さい2人に言った。
この2人調子乗ったら何するかわからん
と内心思って少し焦りながら。
今は、正門は防音室に籠もっていて、
他の2人も自室にそれぞれいるから、
大晴が1人で2人を見ていた。
大晴の「窓割れたらアカン」の言葉に、
何を思ったか誠也がもう一度ボールを蹴って
窓にぶつける。
「今アカンて言うたやん!俺の話聞いてました!?」
大晴が焦りつつもそう言うと、
幼い誠也が生意気な顔で
「われへんやん。こんなんでわれへんもん」
とニヤリとして言う。
「こっちやったらわれるんとちゃう?」
小さい誠也が、庭に出しっぱなしになっていた硬い野球ボールを拾って、
至近距離で窓に投げた。
パリンっと音がして窓にヒビが入る。
「ほら、これでもわれへんやん」
いたずらっこの楽しそうな顔をしているが、
大晴は慌てて、
「割れてるって!!」
とサンダルを履いて庭に出て止めようとした。
「危ない!やめてや!!」
「こじまもやろ?」
誠也は、ニヤリとして小島にもう1個のボールを渡して、
大晴の手を交わした。
小島もニヤリとして楽しそうな顔でかまえて、
「こじけんもやめてや!!!」
と大晴が言うのも聞かずに、
反対サイドの窓に、「せーのっ」
とボールを投げた。
すると、飛散防止にしていなかったそちらの窓2枚が、
ガシャンっっ
と盛大な音を立てて割れた。
そこへ、階段を降りてきた正門が、
「大丈夫か!?」
と駆け寄ってきた。
「ちょっと、この2人アカンわ。
何回とめても聞かへんねん」
大晴が呆れながら、正門に言う。
「2人でボール投げて窓割ってんで?
もう、せーやくんなんか2枚も割った…」
「何してるん?」
正門が、庭に出て、2人を捕まえて、
「危ないから中入り?」
と靴を脱がせて、窓から遠ざけた。
「………2人ともお尻出し?」
「なんでっ?なんでっ!!」
「いややっっ」
まさか、正門に見つかると思わないでやっていた2人は、
抵抗する間もなく、
ズボンもパンツも、すぽんっと足から外されて脱がされて、
小っちゃなお尻丸出しでリビングのソファの上に、
うつ伏せに上半身だけ乗せられた。
小島は正門の左手に腰を押さえられていて、
誠也は、小島の体と正門の体と腕に挟まれて、
2人並んでお尻を突き出す形になって、
「もうせぇへんからぁぁっ」
と誠也はもう泣いているし、
小島は「なんでおれもおしりぺんぺんなんっ…?」
と半べそで見上げている。
「大晴の言うこと聞かんと2人でアカンことしたんやろ」
正門の声が背中から聞こえて、
「2人ともお尻ぺんぺん」
と宣言されて、
パンッ!!
パンッ!!
と順番に小さなお尻の下のほうを大きな手に叩かれる。
小島がびっくりして
「っっ!!いたぁぁぁぁぁっっ」
と大泣きし始めて、
誠也も「いたいぃぃぃぃっっ!」
と足をバタつかせた。
パンッ! パンッ! パンッ!…
パンッ! パンッ! パンッ!…
と続けて大きな手に小さなお尻を包み込むように叩かれると、
もう我慢できない痛さで、
小島は「いたいぃぃぃっいややっっ…いやぁぁぁぁっっ」
と必死に身を捩って逃げようとして
逃げられない痛みにわんわん泣いているし、
誠也は「いたぁぁいっっ!いややっ…もうせぇへんからぁぁっっっ」
とひとり小さな両手でお尻を押さえてソファから沈むように下りて座り込んだ。
「もうせえへんのは当たり前でしょ?何回やるん?」
誠也は正門の両手で持ち上げられてもう一度ソファの上に乗せられながら、
「…っまさかどっ…くると…っおもわへんかってんっ…」
と泣きながら言って、ずるずるとソファから下りて
ペタンと座って抵抗して幼い泣き顔で見上げている。
「……それは、俺が見てへんかったらやってええと思てるん?」
「…ったいせっ…やさしいからおこらへんもんっっ」
「怒られへんくても危ないことしたらアカン」
正門がそう言うのとほぼ同時に、
「俺も怒ってますよ!こんなんされたら!」
と大晴が言った。
小さい2人がびっくりして顔を上げたのを見て、
正門が「そうなんやって」と幼い誠也に言って、
両手で抱き上げて、
「それやったらせーやくん、大晴に怒られて来たらええよ」
穏やかな口調ではあったが、
ひょいっと、小さな誠也を渡されて抱っこした大晴は
え…?俺なん…?
という顔をしている。
正門が、大晴の腕の中でこちらも驚いている幼い誠也に、
「あ、大晴は一番体鍛えてて力も強いからな?
お尻ぺんぺんされたらきっと俺なんかよりずっと痛いで?
今までせんといてくれたのに、残念やな」
とわざと言って追い打ちをかけた。
「…たいせー…っ…おしりぺんぺんするんっ…?」
泣きながら情けない顔で見上げてきた幼い誠也を、
「…とりあえず俺の部屋行こ?」
と大晴は抱っこして連れて行った。
2人がその場からいなくなると、
あっけにとられて見ていた幼い小島を、
正門がソファに座って膝の上にうつ伏せに押さえた。
「小島も、もうやったらアカンよ?」
「なんでっ…もうおしりいややぁぁっっ」
さっきのたった数回のお尻ぺんぺんの痛さを思い出して
「うわぁぁぁぁぁぁぁんっっ」
と泣き出した幼い小島の
小さなお尻を、
大きな手がパンッパンッパンッパンッ…
と続けて叩き始めて、
さっきよりもずっと痛く感じて
あまりの痛さに小さな手足が、バタバタ暴れてソファを蹴った。
「いたいっっイヤぁぁぁぁぁぁぁっっ」
甲高い泣き声をあげて身を捩っても
手は止めてもらえない。
「なんでこんなんするん?アカンてわかってたやんな?」
パンッ!パンッ!パンッ!パンッ!パンッ!…
「いたいっっいたいいたいぃぃぃっこんな…っ
うわぁぁぁぁぁんっっいたいぃぃぃぃぃっっ!!」
お尻の下のほうを大きな手に続けて打たれて、
たまらない痛みに身を捩って逃げようとする。
パンッ!パンッ!パンッ!パンッ!パンッ!…
「せーやくんがっっ…やろって言うたからぁぁぁっっ!っっいたいぃぃっうわぁぁぁぁんっっ」
「せーやくんが言うたら何でもやってええわけやないやんな?」
なおも厳しく大きな手にお尻を叩かれて、
小さなお尻を堪えきれない痛みに震わせて、
顔を真っ赤にして大泣きで喚く。
パンッ!パンッ!パンッ!パンッ!パンッ!…
「イヤやぁぁぁぁぁぁぁっっいたいぃぃぃぃっっ
ごめんなさいっっごめんなさいぃぃぃぃっっ」
やっと手を止めてもらっても、
小さな小島は膝の上でそのまま動けず
「うわぁぁぁぁぁぁぁんっっいたかったぁぁぁっっ」
と大泣き。
「もうせえへん?窓割って遊ぶなんか絶対アカンで?」
「んぅ…っっもうせえへんっっ…」
あまりに痛い代償を味わった小島は、
「…っほんまにいたかったぁぁっっ」
とびーびー泣いている。
そっと膝の上から下ろすと、
ズボンを穿くのも忘れて「いたかったぁぁ…っ…
まっさんこわかったぁぁっっ」
とびーびー泣いて小さな両手で抱きついて、いや、しがみついてくる。
「危ないことするからやろ?」
「…んぅっ…」
優しく背中をさすられて、
痛かったお尻もついでにぽんぽんと触られて、
もう何も言えなくなって、
ぐずぐず泣いているだけになる。
一方、大晴の部屋に連れて行かれた幼い誠也は、
まさかここで叱られるとは思っていない大晴の部屋で、
ベッドに腰掛けた大晴の膝の上にちょこんと
向かい合わせに座って、
「たいせ…っ…おしりぺんぺんせんといて…っ?」
と涙目で見上げる。
「もうせえへんからぁ…っ」
「そんなん言われたら俺できんって」
大晴が困った顔で幼い誠也の顔を見ている。
「なんでさっきとめたとき聞いてくれへんかったん?」
「…それは…っっ…」
「誰にも怒られへんくても、やったらアカンって。窓割ったら危ないやんな?」
「…ちょっとたのしっ…なっててん…っっ」
その言い訳が子どもそのもので、
大晴もどうしたらいいのかわからない。
ドアの向こうから、
大泣きの小島の声も聞こえてくるし、
「楽しなってもやったらアカンて」
と落ち着いて、大晴が目を見て言い聞かせると、
「もうぜったいせえへんっ…」
とぐずぐず泣きながらの幼い返答が来る。
大晴がため息をつきながらも穏やかな声で言う。
「ほんまに?せーやくんの「もうせえへん」俺も何回か聞いたけど」
「!!ほんまにもうせえへんから…っ…!」
「……こじはお尻ぺんぺんされとるけど?せーやくんは?どーするん?」
「もうせえへん…っやくそくするからぁ…っ」
小さな両手をお尻の下に置いて、
まるでさっきの正門からのお尻ぺんぺんを
思い出しているかのように、
ふにゃ、と顔を歪めて泣き顔で見上げてくる。
「せーやくんだけお尻ぺんぺんなしでええの?」
「んぅ……」
下を向きながらも頷く。
「ホンマに?」
もう向こうは終わった気配を感じながら大晴が
もう一度言う。
「んぅ……」
「それやったら向こう行ってみる?」
「んぅ……」
大晴がもう一度誠也を抱っこして部屋を出ると、
「ほら、こんなんなってんねんけど、
どうするん?」
大晴がもう一度、割れっぱなしの窓を
晶哉がなんとかダンボールで補強しようとしているのを見せながら
小さな誠也に尋ねる。
それを見ていた小島が、
「…っずるいやんっ!!ぜったいおしりぺんぺんされてへんやんっせーやくんっっ」
と泣きながら抗議している。
やっとズボンを穿かせてもらっている途中で、
「おれだけまっさんにいっぱいおしりぺんぺんされた…っっ!!
たいせーやさしいもんっ!せーやくんずるいやんっっ」
と幼い小島が本気で怒ってこっちを見ている。
「お尻ぺんぺんなしはアカンやんな?」
正門が苦笑して、小さい小島に言った。
「んぅ…っずるいやん…っ」
幼くぐずぐず鼻をすすりながら頷く。
「…なんでおれだけなん…っ」
「せーやくん、こっち来てお尻ぺんぺんする?」
正門に呼ばれて、
誠也は「!!イヤやったいせーがええっ」
と泣きべそで拒否。
正門が
「大晴がええんやって」
と言うと、
大晴が「そうなん?」
と言って、その場に片膝を着いて、
高いほうの膝の上に誠也をうつ伏せに乗せて
左腕で体を支えた。
頭が急に低くなって小さなお尻が上に突き出される体勢にされて、
「やっぱいややっ…」
と幼い声で誠也が言うのとほぼ同時に、
パァンッッ!
と大きな手に小さなお尻全体が叩かれて
「っっっ!!!!」
声も出ないくらいの痛みに、
瞳いっぱいに涙を溢れさせた。
それを見ただけで、
幼い小島は文句もピタッと止んで、
アカンことなった…
と黙って見ているし、
正門も、痛そうなことなったなぁと思いながら
不慣れな大晴と今にも泣き出す直前の誠也を
見守っている。
次にまた、大きな手にお尻を叩かれたときには、
幼い誠也は
「っっ!い゛たぁ゛ぁぁぁぁぁいっっ!!」
と叫んで足をバタつかせて、
ふぎゃぁぁぁぁっと大きな泣き声を上げた。
手もバタバタ暴れて、イヤイヤと首を横に振って頭も暴れているが、
大晴が「もう絶対やったらアカンよ?」
と声は優しく言って、
もう一度、
パァンッッ!
とお尻を叩いた。
あまりの痛さに足をバタつかせて泣くことしかできない。
「あ゛ぁぁぁぁぁぁんっっ!!いたいぃぃぃっっもうせえへんから゛ぁぁぁっっ」
優しい声の
「ホンマにもうせえへん?」
という言葉とは裏腹に、
突き出した小さなお尻を
パァンッッ!!
とまだ叩かれて、
「い゛たい゛ぃぃぃぃぃぃぃぃっっ!!」
と誠也は涙をボロボロこぼして甲高い声で叫んだ。
「もうせえへんッッッ!ほんまに…っっもうせえへんから゛ぁぁぁっっっ」
予想とはだいぶ違って、
うそやろ…と思うほど
あまりにお尻が痛そうで
小島は自分がお尻を叩かれているみたいに
小さな両手でお尻を押さえてその様子を見つめている。
またもう一発お尻を叩かれて
いたいぃぃぃっっと甲高い泣き声を上げて暴れている誠也を見ても、
そら痛いやんな…と思うほどの様子で、あまりに予想と違って。
「ホンマにもうせえへんやんな?」
大晴に優しい声で聞かれているのに、
お尻全体が痛くて痛くて、
パァンッッ!!
と大きな手が小さなお尻の上に留まると、
「い゛たぁぁぁぁい゛っっっ!もうせえへん…っっ!!もうせえへんからぁぁぁっ…」
と泣き喚くしかない。お尻が痛くてたまらない。
「たいせっ…っっもぉゆるしてやぁぁぁっっ…」
パァンッッ!!
「い゛たい゛ぃぃぃぃっっ…うわぁぁぁぁぁぁぁんっっ!!
たいせー…っっごめんなさいっっ…たいせっもうゆるしてっ…」
小さな手が大晴のお腹のあたりの服を掴んで訴える。
傍から見ると、幼い誠也はもう最初と違って必死で、
もう充分そうだが、
優しい顔だけど大晴が、まだ大きな手で
スナップを利かせて小さなお尻を叩く。
パァンッッ!!
「い゛たい゛ぃぃぃぃっっ!!ほんまにいたいぃ…っ
!っもうっ…せえへんっっ言うこときかんでごめんなさいっっっっ!たいせぇぇぇ…っっ」
パァンッッ!!
「い゛たい゛よぉぉぉっったいせー…っっ!たいせ…っ!ごめんなさいぃぃっっごめんなさいぃぃぃぃっっ!!」
大晴は手を止めて「もう絶対窓割って遊んだらアカンで?わかった?」
と口調は優しく、
激しく泣いている誠也の顔を覗き込んだ。
「んぅっ…」
誠也はひっくひっく泣きじゃくりながら
「ごめっ…なさいぃっ…もうっ…っせえへんっっ」
と必死に言う。
そこまでいってから、
大晴は顔を上げて、
「これぐらいでおんなじぐらい?ずるないやんな?」
と幼い小島のほうを見た。
想像よりむしろずっとこわいことになったのを目の当たりにして小島は何も言えずに、
うんうんうんうんっ
と首だけ頷いている。
大晴がすぐに、
泣いている誠也をひょいっと抱き上げると、
抱っこされた誠也は、
ふにゃ、とした泣き顔で大晴の顔を見たかと思うと、
安心して、
「うわぁぁぁぁぁぁぁんっっ」
と大きな声で泣き出した。
「何?どしたんっ?」
少し慌てる大晴に、
幼い誠也は
「…たいせっ……っ……っ…っいたかったぁぁっっ」
と甘えた声で泣いて、
小さな両手でぎゅっとしがみついて顔を隠して声を上げて泣いている。
正門が苦笑いでこちらを見て、
「言うたやん?大晴にお尻ぺんぺんされたら痛いでって」
と泣いている誠也に向けて言う。
「んぅっ…っ」
誠也はひっくひっく泣きじゃくりながら
「でもっ…っ……」
とその先が続かない。
「大晴は怒らへんやろと思てたんでしょ?
でも危ないことしたら怒るよ」
「んぅっ…っ…」
それを傍で聞いていた小島が
「……あんなんなるんやったら、おれ、まっさんからでよかった……」
とボソッと言った。
「そんなに?そんなしたつもりないねんけど」
当の本人の大晴は困惑しながら小島を見る。
「そんないっぱいお尻ぺんぺんしてへんやんな?」
小島が
「……なんかいとかやない」
と言っていると、
「いや、こんなんやっといてあれぐらいで済んだら
まだええほうでしょ」
と、まだ後片付けをしている途中の晶哉が言い、
正門が「そーゆーことやって、せーやくん」
と言っている。
幼い誠也はぐずぐず泣いて顔を伏せたまま言う。
「…たいせー…っ…やさしいままでっ…っおってやぁ…っっ」
「お、おん…。そんな優しなかった?」
「…っ…たいせーにおしりぺんぺんされるん…っやっぱいややぁ…っ…」
「それやったらもう危ないことせんといて?たまには俺の言うことも聞いてな?」
大晴から、小さい子に言うように
相変わらず口調は優しく言われて、
充分懲りた誠也は
「んぅ…っ…もうぜったい…っせーへんっ…」
と自分に誓うようにボソッと言っている。
さっきまで信じられないほど痛かったお尻も
温かい腕に支えられていて、
小さな背中は大晴の大きな手にゆっくりとさすってもらっていて、
やっと落ち着いてきた誠也は
「……ごめんなさい…っ」
と胸に伏せた声で、とても小さい声で言っている。
「そんな何回も謝らんでええよ、もうせえへんのやったら」
そっと優しく背中をさすられて、
ほっとして、身を預ける。
「そろそろお尻隠さんと恥ずかしいやろ?」
大晴にそう言われて、
抱っこから下ろされそうになっても、
ぎゅっと小さな手でしがみついて離れない。
「何?今は抱っこのほうがええの?」
その問いに答えずにぐずぐずしていても、
「甘えん坊さんやなぁ」
と優しく言って抱っこしてくれていて、
背中も引っ付いている体もあったかくて、
安心しきって甘えている。
それから、2〜3日は
幼い誠也が言うことを聞かなくなっても
「大晴もおるけど呼んでくる?」
とひとこと言うと、
「ごめんなさいっったいせーに言わんといて…?」
とすぐいたずらをやめてくれる日が
少しだけあったのは、
もちろん大晴も知らない。











編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。