正門に抱っこされて1階に連れて行かれた大晴は、
大慌て。
1階のテーブルの近くは、
既に片付け終えたあとらしく、
割れたコップの破片は、
二重にしたビニール袋に入っている。
「大晴っ、コップ割ったらすぐ言い?危ないやろ」
大晴を叱る誠也の隣には、
幼い姿の晶哉。誠也の足の横にぴったりくっついて成り行きを見守っている。
抱っこから下ろされた大晴は、
「まさやっ…言うなやっ」
と苦し紛れに晶哉に文句を言っている。
「「言うな」ちゃうやろ。あんなバラバラに破片落ちとったら、怪我するで」
「…おれがわるいんやない…です…」
大晴は声が小さくなって下を向いた。
「ボール投げてて割ったんやんな?」
下を向きながらも大晴が頷く。
「大晴は怪我してへん?」
「してないです…」
ボソボソ答えたあと、
「…おれがわるいんやないです…そこにコップあったからぶつかっただけ……」
と唇を尖らして不満そう。
誠也が大晴の前にしゃがんで目線の高さを合わせた。
「部屋ん中でボール遊びしたアカンやんな?」
「……。。。」
「大晴?」
「だって……おれがわるいんとちゃうもん…」
目線をそらして言いながらも泣きそう。
唇を歪めて涙が今にも溢れそうなのをぐっと堪えている。
「そうなん?」
誠也が泣きそうな大晴の顔を覗き込んで
目を合わせたら、大晴の大っきな目から
涙がこぼれた。
「うっ…っ…」
「なんで泣くん」
呆れたように優しく笑って、
目を逸らさないで涙も拭わず泣く大晴の
目から溢れ出てきた涙を親指でそっと拭った。
「…っおしりぺんぺん…っするんっ…?」
「それで泣いてるんちゃうやろ、大晴?」
「…っ…っこっぷわれるて…っおもわへんかったっ…っからぁっ…っ…」
「おう」
「それっ…っやかっ…っ……っ…」
「うん?それでどしたん?」
「…っ割れてこわなったぁぁっっ…っ……っ」
泣きながら幼い声で心の中のもやもやを
やっと言葉にして吐き出す大晴。
「っ…っ…まさやけがしてな…っい…っですか…っ?」
「してへん。すぐ片付けたから」
「うっ…っ…う…っ」
涙でべそべその大晴と、
その話を聞いている誠也。
その横にぴったり引っ付いている晶哉を
「晶哉も、水遊びしよかー」
と正門が呼び寄せた。
「みずあそびっ!?」
晶哉と小島が目を輝かせて付いて行った。
「佐野が怪我してへんか今になって心配で怖なったん?」
幼い大晴がひっくひっく泣きじゃくりながら頷いた。
「そんなんなるんやったら、
最初からすぐ言い?」
罪悪感と不安で泣くことになった大晴の
小さな頭を誠也の手がぽんぽん、とした。
「…はい…っ…」
「でも部屋の中でボール投げたアカン。わかってるな?」
その言葉に、
「っっっでもぉっ…っ…っ……まさやとあそびたかって…っ」
急に弱気な顔になって目線を合わせて
苦し紛れの言い訳をする。
これから自分がどうなるかわかっているから、
小さな両手でお尻を隠して。
「遊びたかったら庭でやり。家の中ではアカン。
お尻ぺんぺんやな。」
「イヤやっ…っっ!!」
大晴が一歩下がって逃げようとしたが
一足遅く、
誠也の膝の上にひょいっと乗せられた。
「イヤっ…おしりぺんぺんイヤやぁぁぁっっ」
必死にズボンの腰のところを小っちゃな手で押さえて、下げられないようにしているけど、
簡単に手を避けられてズボンもパンツも
一気に下ろされてしまった。
「あぁぁっっ…!」
必死に膝の上から逃れようと
体を引こうとする大晴。
「せーやくんっ…」
でも、簡単に腰を抱えるようにグッと
押さえられて、
大きな手がお尻の真ん中を打った。
パンッッ!
「っっうわぁぁぁんっっいたいぃぃぃっっ!!」
甲高い声を上げて腰を右に左に捩って
逃げようとする。
お尻全体を覆うような手で
パンッ!と小っちゃいお尻を打たれるのは
堪えられなくて。
「いたいよぉぉっイヤっ…イヤぁぁっっ」
「嫌ちゃうで。部屋ん中でボール遊びしたアカン。」
パンッッ!
「うわぁぁぁぁぁんっっもうしません…っ」
パンッッ!
「いたいぃぃぃっっせーやくんっ…っ痛すぎるぅぅっっ」
幼い声で泣いて、
右手をお尻に伸ばした。
「…っもうおわり…っしてっ…っ」
「まだアカン。」
簡単に右手を掴まれて避けられて、
パンッッ!
と手の届かないお尻の下部を叩かれた。
「ふぎゃぁぁっっごめんなさいぃぃぃぃっっっ」
その痛みに大晴は小っちゃな足をバタつかせた。
パンッッ!
「いたいよぉぉっごめんなさいっ…せーやくんっ…せーやくんゆるして…っ」
パンッッ!
「いだぁぁぁっっごめんなさいっもうしませんっっ…っも…っ…へやんなかでっ…やらへんっっ」
背中をそらしてヒリヒリの痛みにもがく。
パンッッ!
「あぁぁぁぁっっごめんなさいっ…せーやくん〜っっ」
パンッッ!
「いたいぃぃぃっっ!!うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁんっっ」
小っちゃなお尻が赤くなって、
だんだんいつもどおり元気にもがいて
泣き喚く。
「もう…っゆるしてくれてもええのにぃぃぃっっ…もういたいぃぃぃっ」
パンッッ!
「ぎゃぁぁっっいたいっっっ!!せーやくんオニやぁぁぁっっ」
悪態をつく元気も出てきた。
「誰が鬼や。もっとお尻痛くしたろか?」
パンッッ!
「いやっっ…いたいぃぃぃっっ!!イヤやぁぁぁっっうわぁぁぁんっっごめんなさいぃぃぃっっ」
パンッッ!
「ごめんなさいっっもうしません〜っっ!うわぁぁぁぁぁぁぁぁんっっ!!」
小っちゃい赤いお尻に手を乗せたまま問う。
「もう部屋ん中でボール投げへん?」
「っっな…っなげへんっ…っっ」
「ホンマに?大晴、何回目や」
「…っっほんまにもうせえへんっ…からぁぁっっ…せーやくん〜っっっ」
涙が溢れている幼い泣き顔で振り返って
子どもらしい赤い頬で懇願するような顔で
見つめてくる。
「約束やで。」
「うっ…やくそくっ…する…っ…」
泣きじゃくって、赤いお尻を右側左側と
もじもじさせてひりひりを紛らわせながら言う。
パンッッ!
不意打ちに「ぎゃぁぁっっごめんなさいぃぃぃぃっっ!!」と大晴は大泣き。
「許したる。」
「っっうわぁぁぁぁぁんっっいたかったぁぁぁっっいっぱい痛…っしたぁぁっ…」
ずるずると膝から落ちてへたり込んで、甘えた顔で見上げてくる。
小さな両手で抱え込むようにお尻をさすって。
甘えたいのにすぐ甘えには来れない大晴に
ズボンを穿かせたら「…おしりっ…ひりひりするぅぅ…っ」と涙目で見上げられる。
「そんな痛くしてへん。」
「いっぱいいたかってん…っっっ」
お仕置きされた今だけは
情けない幼い泣き顔でそんな風に誠也に反論して、
それでも受け止めてもらえて
軽々抱っこされて。
恥ずかしいし甘えたいし、
顔を隠すように誠也のTシャツの胸に
ほっぺをこすりつけるようにして引っ付いた。
「はいはい、痛かってんな。」
片手で覆えるほど小っちゃな背中を
ぽん、ぽん、ぽん、とあやすように優しくたたく。
「んぅ…っ…いたかったぁ…っ…」
ホンマに大晴は手ぇかかる…
とは本人には今は言わないでおいてやるけど。
急に危ないことをしたかと思えば
焦って逃げ出して、そのくせ
怪我さしてたらどうしようなんて
罪悪感に耐えられなくなって泣き出したりして、
ちゃんと叱ってやらないと
モヤモヤも晴れず気持ちも切り替えられないし、
甘えるのは下手くそだし、手はかかる。
小さな背中をひっくひっく揺らして
やっと安心して抱っこされている大晴を、
「まだ泣いてるんっ?たいせーもやろーやー!」
と庭のビニールプールの中から幼い小島が呼ぶ。
少しだけ顔をあげた大晴は、
遊びたそうでもあるけれど
また顔を伏せてぎゅっとしがみついた。
「水遊びせえへんの?」
「やる…っ…」
そう言うから下ろそうとしても
腕も足も使ってしがみついて、離れない。
「なんっ……どしたん?」
聞き逃しそうなぐらい
とてもとても小さな声で返ってきた。
「………まだだっこぉ……っ……」
「わかったわ」
縁側に座って、
抱っこして、ひっついている大晴をそのままにして
小さな背中を撫でていると、
すでにプールの中でステンっと滑ってしまって
全身びしょ濡れで
めちゃめちゃ楽しそうな幼い晶哉が、
「あ!!せーやくんっっおれもだっこしてくださいー!」
と走ってきて無理やり引っ付こうとする。
「ちょっ…佐野っ…待ってっびしょ濡れやん」
“待って”も何も聞いていなくて、
きゃっきゃしながら
誠也の右腕側に無理やりくっついてきて、
こっちの服もびしょびしょ。
「あー…誠也くんのタオルも用意しときますね」
庭に立っていた正門に言われる。
「まさやー!あそぼーや!
たいせーー!!」
退屈になった小島が、
こちらに水鉄砲もとい結構水が飛ぶウォーターガンを向けようとしている。
「ちょっ…小島っ待ってっ」
さすがに誠也が焦っていると、
正門が落ち着いた声で、
「こじけん、ここ狙える?狭いからこじけんには無理か?」
と庭の木にあいた小さな穴を指さした。
その言葉に、ムキになった小島が体を方向転換して
狙いを庭の木に変える。
「むりやないっ!まっさんっおれできるでっっ」
「えー?ホンマに?」
「できる!見ててや!!」
小島がそちらに集中してくれて、
誠也は助かった…とホッとひと息。
「………おれも水鉄砲やりたい……」
やっと顔を上げた涙を拭いた大晴が、
小さい声で言う。
「行ってき」
「たいせーの、ここにあるで」
正門に水鉄砲を差し出されて、
「…やった!おれもやるー!!」
とやっと膝の上から下りて、
元気に走り出した。
「佐野はやらへんの?佐野ー?」
びしょ濡れのまま誠也に横から寄りかかって寝そうになっている。
「そんなビショビショのまま寝んといて」
そう言っても起きようとするはずもなく。
「正門ー、佐野拭きたい!タオル取ってー!」
「あ、晶哉拭いときます」
大きなバスタオルに包み込むように
膝の上の晶哉を正門が受け取った。
「誠也くん、あっちのふたり…」
「…いやや。絶対ビショビショなるやん。」
「もう濡れてるんやからいいやないですか」
「めんどくさいもん。」
拒否している間にも
小島が幼い声で「せーやくんっ、
それとってー!!」と呼び寄せている。
「なんで俺…自分で取り来いや」
「とってー!とらんと水かける。」
「なんで脅されなアカンねん…」
めんどくさ…となりながらも、
結局付き合う。
「せーやくんっ!こじけんが水かけた!」
「たいせーもかけてたやんっ」
「おれはちがうとこねらっただけやってっ」
「そんなんあとから何とでも言えるやんっ」
「わざとかけたやんかあっ」
「喧嘩するな。どっちもびしょ濡れなんやからええやろ、水かかったぐらい」
「よくないっっ」
「せーやくんっ見てたやろっ?」
「もう、めんどくさいから喧嘩するんやったら水遊びやめるで」
その言葉に2人は顔を見合わせた。
「…っけんかせえへんっ!な?たいせー!」
「おんっ!せえへんからまだやるー」
ご機嫌を直したちびたちの水遊びに付き合う
昼下がり。











編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。