前の話
一覧へ
次の話

第75話

65.仮面
868
2024/05/19 03:00
千切side



あなたとのデートは、つい時間が過ぎていくのを忘れてしまうほど楽しい。


度々見せるあどけない笑顔に何度も胸が高鳴る。



…でも、あなたの様子がおかしい。


いつもと同じ眩しい笑顔、優しい声色、のはずなのに。


伊織あなた
千切くん!次どこ行きたい?


どんな反応をするだろう。


好奇心と試すような感覚で、俺はあなたの袖を掴んだ。
伊織あなた
ッなに?


一瞬、きっと多くの人は見逃してしまう程の一瞬、困ったように、罪悪感を抱いたかのように瞳を揺らした。


伊織あなた
もしかして今楽しくない!?
私の行きたいとこ行ってるもんね、
ごめんね





千切豹馬
千切豹馬
(そんなに俺が可哀想かよ…)





先程見た顔がフラッシュバックした。


トイレ休憩を挟んだ時、あなたは先に出て俺を待っていた。


俺ははっきり見た。



まるで悪いことをしているかのように、思い詰めた表情をしていた。






クソッ










千切豹馬
千切豹馬
本当に最低だな、俺は
伊織あなた
……え

あなたにあんな顔させたのは俺だ。


千切豹馬
千切豹馬
本当に俺はダッセェ奴だ


凛からあなたを奪い取ると決意したはずの心も、あなたの苦しそうな横顔を見ればたちまち吹き飛んでしまった。


最初から俺にあなたを奪う覚悟なんてなかったんだ。


あなたを傷つけまで奪うなんて俺にはできない。


俺には三宅のような覚悟がない。



ほんとダセェ奴…



伊織あなた
そんなこと言わないで


あなたはとっさに俺の服の裾を掴んだ。

伊織あなた
辛いこと克服して、今も走り続けてる
千切くん見てダサいなんて言う奴いる
はずがない、そんな奴私がぶっ飛ばす!























千切豹馬
千切豹馬
ブハッ
伊織あなた
なに!?
千切豹馬
千切豹馬
そんなこと言ったら、俺あなた
のこと諦められないじゃん
伊織あなた
それは困るけど…
伊織あなた
千切くんに自分を責めて
ほしくなくて


そうだよな、お前はそういう奴だよな。



千切豹馬
千切豹馬
…やっべ、行けあなた
伊織あなた
なんで?
千切豹馬
千切豹馬
お前とのツーショット、
三宅に送ったんだよ
伊織あなた
えぇ!?千切くん共犯だったの!?
千切豹馬
千切豹馬
今気が変わった!消そうと思ったら
既読ついてるから既に保存されてても
おかしくねぇ!
伊織あなた
えええええ!
千切豹馬
千切豹馬
今凛と2人でいるらしいし、
こっから神奈川なら行けるだろ!?
伊織あなた
そんな無茶な、けど行ってくる!


慌ててあなたは駆け出した。


ふわりと甘い香りが漂った。
伊織あなた
あ、千切くん!
千切豹馬
千切豹馬
ん?











伊織あなた
ありがとう!!!







満面の笑みで叫んだあなたはそのまま振り返ることなく走っていった。






千切豹馬
千切豹馬
…あんなの反則だろ


ベンチに腰掛けて空を仰いだ。


あなたの香りが残って、消えてくれない。




でと、不思議と心残りはない。


きっとアイツが最後まで笑っていてくれたからだ。


ありがとうを言わなければならないのは俺の方だ。


ごめん、ありがとうあなた。


三宅に負けんなよ。







あなたside


なんとかギリギリ電車に間に合い、私は荒い呼吸を整えながら席に着いた。


揺られる電車の中で、私はすっかり眠ってしまっていた。







 


 
    ___ろすぞ
 


お前なんか____
      
  
           
      あんたなんか__ _ __ればッ!






         もう疲れ_____…



伊織あなた
ハッ


目が覚めると涙が頬を伝っていた。


お父さんとお母さんの夢、最近見てなかったのに…



空港で冴に聞かれたからだろうか。



糸師冴
糸師冴
…なあ、お前の親…
糸師冴
糸師冴
元気にしてるか
伊織あなた
え、あ…うん、ママもパパも元気だよ
糸師冴
糸師冴
…そうか





どうして急に親について聞いたりしたんだろう。


冴はパパとママとそこまで深い面識はない。



もしもパパとママじゃなくて、お父さんとお母さんについて聞かれたのだとしたら…


伊織あなた
(知られたくない、)


冴にも凛にも、この事は知られたくない。


私の心の奥深くに閉ざされた記憶。


学校でもどこでも親の話になる度に隠してきた。


この事を知っていていいのは世界で私だけだ。



















♡&☆please



どんどん明らかになる夢主ちゃんの過去…。


なんかあのスポットライトみたいなやつしていただけたら嬉しいです!💓

プリ小説オーディオドラマ