千切side
あなたとのデートは、つい時間が過ぎていくのを忘れてしまうほど楽しい。
度々見せるあどけない笑顔に何度も胸が高鳴る。
…でも、あなたの様子がおかしい。
いつもと同じ眩しい笑顔、優しい声色、のはずなのに。
どんな反応をするだろう。
好奇心と試すような感覚で、俺はあなたの袖を掴んだ。
一瞬、きっと多くの人は見逃してしまう程の一瞬、困ったように、罪悪感を抱いたかのように瞳を揺らした。
先程見た顔がフラッシュバックした。
トイレ休憩を挟んだ時、あなたは先に出て俺を待っていた。
俺ははっきり見た。
まるで悪いことをしているかのように、思い詰めた表情をしていた。
クソッ
あなたにあんな顔させたのは俺だ。
凛からあなたを奪い取ると決意したはずの心も、あなたの苦しそうな横顔を見ればたちまち吹き飛んでしまった。
最初から俺にあなたを奪う覚悟なんてなかったんだ。
あなたを傷つけまで奪うなんて俺にはできない。
俺には三宅のような覚悟がない。
ほんとダセェ奴…
あなたはとっさに俺の服の裾を掴んだ。
そうだよな、お前はそういう奴だよな。
慌ててあなたは駆け出した。
ふわりと甘い香りが漂った。
満面の笑みで叫んだあなたはそのまま振り返ることなく走っていった。
ベンチに腰掛けて空を仰いだ。
あなたの香りが残って、消えてくれない。
でと、不思議と心残りはない。
きっとアイツが最後まで笑っていてくれたからだ。
ありがとうを言わなければならないのは俺の方だ。
ごめん、ありがとうあなた。
三宅に負けんなよ。
あなたside
なんとかギリギリ電車に間に合い、私は荒い呼吸を整えながら席に着いた。
揺られる電車の中で、私はすっかり眠ってしまっていた。
___ろすぞ
お前なんか____
あんたなんか__ _ __ればッ!
もう疲れ_____…
目が覚めると涙が頬を伝っていた。
お父さんとお母さんの夢、最近見てなかったのに…
空港で冴に聞かれたからだろうか。
どうして急に親について聞いたりしたんだろう。
冴はパパとママとそこまで深い面識はない。
もしもパパとママじゃなくて、お父さんとお母さんについて聞かれたのだとしたら…
冴にも凛にも、この事は知られたくない。
私の心の奥深くに閉ざされた記憶。
学校でもどこでも親の話になる度に隠してきた。
この事を知っていていいのは世界で私だけだ。
♡&☆please
どんどん明らかになる夢主ちゃんの過去…。
なんかあのスポットライトみたいなやつしていただけたら嬉しいです!💓
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。