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第76話

66.愛莉目線
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2026/02/23 17:15 更新
愛莉side

「三宅ってほんとブスだよな」


「俺があの顔だったらマジ死ぬわ」


「うわこっち見たキッショ」


「えー愛莉ちゃんは可愛くないから
 一緒に遊びたくなーい」




顔を見られる度に降りかかる罵詈雑言の雨。


ブス、キモい、死ね、消えろ、こっち見るな。





可愛く生まれなかっただけで生きる価値すらないと無慈悲に押された落印。


私だってなりたくてこんな顔選んだわけじゃない。


得意な勉強も運動もできなくなっていいから、せめて可愛い顔がほしい。


外に出ても恥ずかしくない綺麗な顔がほしい。






なーんて、子供の私じゃ叶えられるわけもない夢をいつも空想していた。





三宅愛莉
三宅愛莉
(今日も上靴びちょびちょだし…)


こんなことして何が楽しいのだろうか。


一体どんな徳を得るのだろうか。

三宅愛莉
三宅愛莉
(考えてもキリないよね)


今日も職員用のスリッパを履こう、そう考えて歩き出した時だった。

伊織あなた
なんで上靴あるのに履かないの?


振り向くとポニーテールの可愛い顔つきの女の子が首を傾けて私を見つめていた。

三宅愛莉
三宅愛莉
いや…あの…
伊織あなた
え、濡れてる!これって…
糸師凛
糸師凛
見りゃ分かるでしょいじめだよ
糸師冴
糸師冴
ほっとけよ馬鹿
伊織あなた
こんなのほっといていいわけないよ!
先生に言わなきゃ…
三宅愛莉
三宅愛莉
やめてください!!


勝手に話を進める女の子の手を反射的に掴んだ。

三宅愛莉
三宅愛莉
そんなことしたら、もっと酷いこと
されるかもしれない…親も呼び出されて…


ハッとして掴んだ手を離した。








「三宅の机に当たったら三宅菌がつくぞ〜!w」









いつか言われた言葉を思い出して心臓がゾクゾクと脈打った。

こんな綺麗な子の手なんて触ったら何言われるか。

三宅愛莉
三宅愛莉
(触っちゃった触っちゃった
触っちゃった触っちゃった…)
三宅愛莉
三宅愛莉
ご、ごめんなさ…


温かい手が私の手をぎゅっと握りしめた。

伊織あなた
じゃあどうにかしなきゃね!
糸師凛
糸師凛
先生に言わずに解決する
方法なんてねぇだろ
糸師冴
糸師冴
アホらし、勝手にやってろ
伊織あなた
えー


ピンク髪の人はため息をついて階段を登って行ってしまった。

伊織あなた
凛ちゃん同じ学年でしょ?
どうにか出来ない〜?
糸師凛
糸師凛
どうしろってんだよ
伊織あなた
あ!凛ちゃん休み時間側にいてあげて!
私も休み時間教室行くからさ!
糸師凛
糸師凛
別にそれぐらいならいいけど…
三宅愛莉
三宅愛莉
だ、ダメですよ!
そんなことしたら2人まで…!
伊織あなた
大丈夫大丈夫!
凛ちゃん友達いないし
糸師凛
糸師凛
おい
伊織あなた
私も凛ちゃんと冴しかいないもん、
それに2人は外面悪いから多分大丈夫
糸師凛
糸師凛
お前もある意味有名だよ
伊織あなた
そーなの?
糸師凛
糸師凛
…とにかくコイツの側に
いればいいんだろ
三宅愛莉
三宅愛莉
あの…嫌じゃないんですか?


2人の会話を遮り、私はおずおずと2人を見つめた。

三宅愛莉
三宅愛莉
私みたいなのと一緒にいるなんて…


こんなブス、一緒にいると恥ずかしいでしょ?




2人は目を合わせた。


そして女の子の方が笑顔でこちらを見た。

伊織あなた
虐められてるの見過ごす方が嫌だよ
糸師凛
糸師凛
まああなたがこう言うし
三宅愛莉
三宅愛莉
……じゃあ…お願いします


そんなふうに人に優しくされたのは初めてだった。


他人の温かい温度に触れたのも初めてだった。










それから2人は本当に休み時間一緒に過ごしてくれるようになった。


あなた先輩と凛くん、そして冴先輩はサッカーが好きらしく、私はあなた先輩と凛くんにサッカーを教えてもらったりもした。


私を虐めていた人達も、この3人には手出しできないらしく、虐めはどんどん減っていった。

伊織あなた
ねぇ、多分筋いいし愛莉ちゃんも
サッカー部入りなよ!!
伊織あなた
凛ちゃんと冴もそう思うでしょ?
糸師冴
糸師冴
興味ない
糸師凛
糸師凛
いいんじゃない
三宅愛莉
三宅愛莉
あ、ありがとうございます…


人生で初めて褒めてもらえた。


凛くんから褒めてもらえたのも嬉しくて、だから私もサッカーをしたいと思った。

三宅愛莉
三宅愛莉
(あなた先輩はすごいな…)


女子サッカークラブだけじゃ飽き足りず、男子のサッカークラブに混ざって、しかも活躍している。


勉強も運動もできて性格もよくて、おまけに顔まで可愛い。


どうして冴先輩を選んだのか分からないけど、ルックスだけだと2人はよくお似合いだ。




…羨ましい。




でも私は凛くんが好き。


例え報われない想いでも凛くんだけを見ていられるだけで幸せだから。




伊織あなた
今回は私の方が沢山きめたね

伊織あなた
凛ちゃーん、髪の毛くくってー!

伊織あなた
はいはい凛ちゃんは可愛いね〜

伊織あなた
凛ちゃんのそれ一口ちょうだいよ



凛くんを見つめれば見つめるほど、その横にいるあなた先輩が羨ましくなる。


凛くんと同じ目線で話せるあなた先輩が羨ましい。


凛くんに心を許されているのが羨ましい。


私もあなた先輩みたいに何一つ欠落部分がなく綺麗に生まれてきたら、きっともっと自分に自信のある強い女の子になれたんだろうな。


そして、凛くんの横にいても恥ずかいなんて感情一つ生まれないのだろう。

三宅愛莉
三宅愛莉
(こんなのひがみだよ…)


助けてくれた人をひがむなんて、私は性格まで可愛くない。





冴先輩がいなくなって数週間が経った時、あなた先輩が過呼吸になって練習中に倒れた時があった。

三宅愛莉
三宅愛莉
先輩大丈夫ですか!?
伊織あなた
ハァッ!ハァッ!おと…さ…ごめ…ッ!
三宅愛莉
三宅愛莉
お父さん?
伊織あなた
さッ…ハァッ……え…ハァッ!


女子サッカークラブで練習していた時のことだから、凛くんは知らない。


私は家に帰ってこのことをお母さんに話した。

愛莉母
愛莉母
あなたって伊織の?
三宅愛莉
三宅愛莉
うん…過呼吸になりながら
お父さんって
愛莉母
愛莉母
あー…
三宅愛莉
三宅愛莉
お母さん何か知ってるの?
愛莉母
愛莉母
昔有名になったのよ、
伊織さんとこのご夫婦と
あなたちゃんのこと


あくまで噂でどこまでが本当かは分からない。




でもお母さんが聞いた話によると、
通訳の仕事をしていたあなた先輩のお母さんはあなた先輩を産んでから仕方なく仕事を辞めたらしく、
会社が倒産してしまってからあなた先輩のお父さんは暴力を振るうようになった。


子育てにも虐待にも疲れたお母さんは自殺、
お父さんは飲酒運転で人を轢き殺し自分も事故で死亡したらしい。
まだ小学生だったあなた先輩を残して。
三宅愛莉
三宅愛莉
そんなことが…
愛莉母
愛莉母
これは秘密だからね、
そんなことより手伝ってちょうだい。
あんたがうるさいから少ない給料で
習い事させてあげてるんだから












羨ましい












私はその話を聞いた時、嫉妬と悦楽、二つの感情が浮き上がった。


あなた先輩の過去まで羨ましい。


そんな過去があれば誰だって同情したくなる。


なんて可哀想で哀れな可愛い子、と。


私の顔がブサイクで虐められていたこと、家計が厳しくてなんとか母親に許しを乞いながらサッカークラブを続けていることなんて、誰も同情しないだろう。


100人に聞けば100人があなた先輩が可哀想だと言うだろう。


こんな見た目でこんな貧乏な家に生まれるより、可愛く生まれて虐待された後イケメンな兄弟と仲良くできる人生の方が幸せに決まってるのに。



でも、同時に嬉しかった。


完璧に見えるあなた先輩にもそんな卑しい過去があったのだと。


あなた先輩は犯罪者の娘なんだ。


つまりあなた先輩にも穢らわしい血が流れている。





最低だとは自覚してる。


でもその時私は確かに悦びに浸った。


















♡&☆please✨

待っててくれた皆さんありがとう♡

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