あなたの下の名前side
あれから数日後。
私達は水族館に行くことにした。
デートなんて久しぶりだから、緊張する。
いつもはTシャツとキュロットだけど……
今日は白ニットとロングチュールスカート。
ちょっと浮かれすぎだろうか…
いつもより少しカタコトになった歩き方と、
ぎこちない笑顔をなんとなく直してから、
集合場所に向かった。
外は思っているより暖かかった。
日陰は少し冷えているけど、
ひなたであれば、寒さもほぼない。
集合場所にある噴水は、
光の反射で水面が揺れ、綺麗に輝いていた。
正面から私を呼ぶ声がした。
呼んでいたのはもちろん大地。
こっちに小走りで向かってきている。
普段はキチッとした服だけど、
今日は少し腕のまくったトレーナーにデニム…
ラフな格好だ。
思わず見惚れてしまいそうなくらい、かっこいい。
本音を言うと、その姿は自分だけがみたい。
誰の目にも触れてほしくない。
まだ水族館にも付いていないのに、
私の心拍数はみるみる上昇していた。
そう言って私に手を差し出してくる。
手を繋いで欲しい…という事だろうか。
私はゆっくり、大地の手を取った。
入った瞬間、視界に入るのは多くの魚の水槽。
水草はゆっくり揺れ、魚は自由気ままに泳ぐ。
人工的な光で照らされた水槽内は、
酷く美しく見える。
大地の捜査への興味と好奇心に満ちた目は、
全て水槽の中に注がれていた。
さすがに私だって、魚にまでは嫉妬しない。…たぶん
端正な横顔から小さく呟かれた言葉に、
さっきまでの言葉を撤回したくなる。
無機物でもない限り、私は嫉妬するかもしれない。
あの後、深海や川辺の魚等…色々な所を回った。
これでやっと半分。残りは大水槽に、ペンギン…
メインと呼べるような物ばかり。
時間を忘れて回って居たから忘れていたけど、
もう針は12時を指している。
自分の空腹が無ければきっと気づかなかった。
大地はスパゲティ、私はオムライス。
水族館のレストランにエビフライがあったのは…
なんとも言えない気持ちになったけど。
「お待たせいたしました〜、
スパゲティにオムライスです。」
運ばれてくる料理からは、美味しそうな香りがする
オムライスを口に運ぶ。
ふわふわで、少し甘めの卵に、
程よい塩味のケチャップ。
1口、また1口と口に運んでいく。
大地も美味しそうに食べている。
輝くような目でモゴモゴと口に頬張っている。
…可愛い。
自分のスプーンを取り出し、食べようとする。
でもそれより早く、大地が自分のフォークに
スパゲティを巻き付けていた。
自分でも頬が紅潮しているのが分かる。
普段、自分がやっていることと変わらない…
むしろ、可愛げがある。
でも、でも…ッ
やるのとやられるのじゃ違うし…
大地のフォークは近くに迫っている。
もうこれが口に運ばれるのはきっとすぐだ。
もう、覚悟を決めるしかない…ないんだぞ…あなたの下の名前ッ
大地のフォークが口に運ばれる。
してしまった…間接だけど…
これもまた、塩味が程よい…美味しいな…
愛しい、と言わんばかりの目でこちらを見てくる。
さらに頬が紅潮するのが分かった。
自然に心拍数が上がっているのが分かる。
そう返す私を見て、大地は口を開いて言った。
次回へ続く。











編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。