第18話

6,909
2020/12/01 13:33
「おはよ~」




次の出勤日。




腰の痛みがまだ取れなくて、湿布を貼って出勤した。






京「おはよ」




すでにデスクに座っていた京本が挨拶を返してくれた。





「…」




京「ねぇ、」





座ると横の京本が椅子をスライドさせて肩と肩が触れるほどの距離まで近づいて、小声で話される。






京「…こないだ、どうなったの?」




「あー…」






言いづらい…




非常に言いづらい。






私の表情を見て何かを察した京本。







京「…バカッ」




「…」






なんて言うから何も言えなくなる。





京「ほんとバカ」





そう言って自分のデスクに戻っていった。






京本がぷりぷりと怒ってるけど、多分私が100悪いからしょぼんとする事しかできない。









その日、京本に気を遣いつつ仕事をしていると佐久間から連絡が来た。





佐『俺今なにしてるでしょーか』




という謎のメッセージ。





『え、なんだろう。お出かけ?』




なんて返すとすぐに既読がついた。





佐『ぶっぶー!!正解は、嫁探しでした~』




嫁?と思っていると、一緒に添付された写真。




あぁ、秋葉原にいるのね。





『アニメ好きなんだね』




佐『そー!もうだいっすき!!』






知らなかったなぁ。




というか、こーゆーどうでもいい内容の連絡が来たのは今日初めてだった。





今まで佐久間からの連絡は基本今日会える?の一択だったから。
ちょっと頬が緩みながら連絡を返して、携帯を置いた。







京「…顔」




「え?」




京「緩みすぎ」




「あっ…」






指摘を受けて急いで顔を戻す。




京「…」





でも、思い出すだけでにやけてしまう自分がいた。




だめだだめだと思っても結局は佐久間の思うツボというか。


手のひらで転がされてるというか。



それでもいいんじゃないかと思い始めた私はもう手遅れなことに気づいていた。




だから、






『今週も会える?』





なんて、安い誘いを初めて自分からしてしまったんだ。
佐「おまたせ〜」



金曜日の仕事終わり、いつもみたいに駅で待ち合わせをした。


今日の佐久間も無駄にお洒落で、オーバーサイズのシンプルなトップスを綺麗に着こなしていた。


ちらりと見える鎖骨とその間にあるほくろに少しドキッとしたのは内緒だ。



「お疲れ様」


佐「んふ、あなたからのお誘い初めてで興奮しちゃったよ」




「…そうだっけ?」



なんて誤魔化した。



今日は先にご飯を食べに行こうということで、チェーンの居酒屋に入った。




佐「かんぱーい!」



お酒があまり強くない佐久間。


そんなとこもギャップだなぁなんて思ったりして。



私は今日も可愛くないビールを飲む。







「…佐久間について質問ってしてもいい?」




正直、わからなかった。



いわゆるセフレという立場の私は、佐久間のプライベートに踏み込んでもいいものなのか。




佐「んにゃ?」



「私との実験って、実際に彼女との…その…」



ちょっとというかだいぶ言いづらくてごもごもしてしまう。



佐「…なあに?」




私の質問の意図を汲んだのか、頬杖をついて口角を片方上げて私を見る。あざとい。




「…してる、もんなの?」




これが限界だ。


私の中の伝える力としてはこれが限界。




佐「なに、気になっちゃう?」


「…まぁ」


佐「んー、んふ、そうだなー」




佐久間が楽しそうに、思い出すかのように視線を逸らした。




「やっ、、ぱいい。」










佐「あ、そお?」



「うん…うん。」




やめよう。


気になるけど、本命の彼女を抱いた話なんて耐えられる気がしない。









佐「…あのさ」



「うん?」
佐「いつもさ飲んでる男ってだれなのー?」 



「え、職場の後輩…」



佐「もしかしてそいつとも…」

「違うよ!」




佐久間の質問の意図がわかって思わず食い気味に言ってしまった。


ビッチだと思われたくはない。


そりゃナンパにホイホイついてった私は、そういう風に見えたかもしれないけど。



誰でも良かったわけじゃない。



「…違うから」





少し大きい声を出してしまったことが恥ずかしくて、誤魔化すようにビールを飲み干した。



佐久間、前にも誰と飲んでたのって聞いたじゃん。



男って言ったら少し冷たい空気が流れた気がしたもん。覚えてる。



その質問に対して、どこか期待してしまう私は甘いのだろうか。
あのあとホテルへと向かい今佐久間はシャワー中。




私はシャワーを浴び終わって、バスローブ姿でベッドに座ってはいるものの…
      


これから始まる行為に胸が高鳴って落ち着かない。






ガチャ




佐「ふぃ〜〜ただいま〜」



「おかえり」



はい、と言って今日も私は下だけタオルを巻いた上裸の佐久間にお水を渡す。


私分かってるでしょ?なんて浅いマウント。



佐「んふ、ありがとー」




相当喉が乾いていたのかゴクゴクと水を飲んでいる。



「早っ」



思わずでた私の言葉に反応してちらりと視線を動かした。



グイッ



「っ…んっ……」




そのまま後頭部を押さえられながら口移しで水を流し込まれる。


苦しい。




「っ……っはぁ……」




唇が離れると溢れた水が顎を伝う。




それを視姦している佐久間にゾクゾクとした。




ペットボトルを置いて佐久間が私を押し倒した。



最初は触れるだけのキスも、次第に濃さを増していく。


それだけで私は果てそうだし、優越感に浸れる。



今日はどんなことをしてくれるのだろう。



そんな期待が高まっていく。





首に触れる佐久間の唇に、



するりと外されるバスローブの紐に、



腰をなぞる佐久間の指に、



逐一反応する。







「っん……あっ、やぁっ………」



私のソコに顔を埋めて、執拗に舌を動かす。



そんな時でも佐久間は私から視線を逸らさないし、反応を見て楽しんでいる。





佐「…ふふ」



「…んっ!……っ…」



そのまま笑うもんだから、当たる息が舌とは違う刺激を与える。




私の体がビクついたのを見て佐久間がベッドの上にある箱に手を伸ばした。




「っ私も、する……」




その手を掴んで体を起こして佐久間にキスをした。



それを楽しそうに受け入れてされるがままの佐久間。



そのまま首筋に、鎖骨に、お腹にそして少し小さな突起にキスをする。



佐「んー、気持ちいね…」



だけどどこまでも余裕な佐久間は私の頭を撫でながら、愛撫を受けている。




もう一度顔を上げてキスをしながら、タオル越しに大きくなっている佐久間のソレに触れた。



佐「っ…」


少し歪む表情が嬉しくて、また私は感じる。



指で触れて、手のひらで触れて、タオル越しにそれを弄ぶ。



楽しい。






佐「…焦らしてる?」



「…こないだ焦らされたから」




なんで返すと佐久間は嬉しそうに笑う。





佐「ね、」



「んー…?」



佐「触って」




その言葉を聞いて巻いてあるタオルを解いて、直接ソレに触れた。



焦らしたからか敏感になっていて、指先で触れただけで反応しているし、透明な液がいやらしく垂れている。




「…」



佐「っ……はぁっ…」




私の中の奉仕したい欲が出てきて、そのまま口に含んだ。




佐「あっ…待って……出るっ……」





含んだ直後すぐに口いっぱいに広がる佐久間の液。





…苦い、でも私はまた飲み込んだ。






「っ…」ゴクッ



佐「…また飲んでくれたの?」




少し驚いた顔でそう聞くから頷いた。




佐「…ふふ、かわい」




そう言って両手で顔を挟んでキスをしてくれた。




それが嬉しくて、思わず微笑む。




自然に押し倒された後、ゆっくりと私の中へと入ってくるソレを感じた。




抱きしめられるような体制で動かされる。


それは大切にされてると勘違いしてしまうような行為だった。





時折首筋に埋めていた顔を上げて包み込むようにキスをする。






「んっ……っあ……っ…はぁ…はぁ…」








佐久間は私が果てたのを見て体を起こした。




体位が変わるかと思えばそのまま佐久間の手が首に伸びてきた。




「えっ……っ…」




突然のことに驚いたあと、軽く絞められる感覚にくらっとする。




佐「ふふ」



私が顔を歪めるとニヤリと笑う佐久間はその状態で、私の奥を突き出した。




さっきまでと違う感覚がして、呼吸が苦しくなる。


反射的に首を絞めるその指をどかそうと爪を立てた。



だけどそんな行動に意味なんてないみたいに、むしろ一層に力を込めて佐久間は私の首を絞め上げてくる。



「っ…ぅ……っは…っん……」



意識が散漫になっていく。

元々2回ほど果てている体は、すでに酸素が足りなくて苦しい。


手足が意志とは関係なく震える。
このまま殺されるのではないかと思うほどに。
  


なのに…苦しいはずなのに、私が感じているのは未だに快楽……悦楽に近いような感覚だった。



「っ……」



どんどんとぼやけていく視界の中で、佐久間の目は輝いて見える。


その目からは殺意や憎しみなんてものは感じられず、




愛情




それを感じた。





そのことに幸せを感じて、このまま殺されてもいいなんて狂った思想を持ったまま、目覚めるかもわからない、眠りへと私は落ちていった。
陽の光を感じて目を覚ました。


重怠い体が昨日の出来事を一瞬にして思い出させる。




「さく……」



横を向いて佐久間と呼びかけようとしたら、ベッドの上は私1人だった。




体を起こしてシャワー室を覗いたけど誰もいない。







急に、漠然とした不安に襲われた。



携帯を取り出して佐久間にコールをかけても一向に繋がらない。


メッセージを送っても既読にならない。





仕事?





でも、今までこんなことはなかった。



まだ、近くにいるかもしれない。



そんな淡い期待を抱いて、急いで服を着て部屋を出た。



フロントに行き支払いをしようとすると、



フロントの人「もうお支払いはお済みですよ」



「え……」


フロントの人「お相手の方が…」



「っ、何時頃ですか?」



フロントの人「えっ…と、3時間ほど前ですね」



「…」



さん、じかんまえ…




「…ありがとうございます」



カードキーを置いて、ホテルを後にした。



3時間前じゃ流石に探せない。



佐久間は私の家を知ってるけど、私は何も知らない。



家も、


仕事も、


彼女のことも、






佐久間自身のことも。




私は、何も知らないんだ。




無心のまま家に着いた。



携帯を見ても、折り返しは無いし既読もつかない。





鞄を置いて、洗面台に行き手を洗う。



鏡に映る自分が見えて、首筋には真っ赤な痕が残っていた。



その痕に触れて、昨日の佐久間を思い出す。




歪んだ笑顔を見せて、私の首を絞め上げた。



どんな気持ちでしてたの?



突然消えることを見越していたの?



今、佐久間はどこにいるの?




このまま佐久間に会えなくなるんじゃ無いかと、不安で堪らない。



自分がこんなに佐久間に依存していることに驚く暇なんてないほどに、私の心は押し潰されそうだった。





「っ……さくまっ………」    





返事の来ない名前を呼んで、私は泣き崩れた。


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