静まり返った部屋に、
時計の針の音だけがやけに大きく響いていた。
とっくに就寝時間は過ぎているのに、
あなたは布団の中で何度も寝返りを打っていた。
目を閉じるたびに浮かんでくるのは、海斗と海人の顔。
無邪気に笑う顔も、
ふとした瞬間に見せた真剣な表情も、
全部が鮮明に蘇る。
海斗と過ごした時間は、どこか胸が熱くなるような、
まっすぐで強い想いに包まれていて。
海人といる時間は、安心するのに、時々
不意打ちみたいに心を揺らしてくる優しさがあって。
どっちも、大切で。
どっちも、幸せで。
——だからこそ、選べない。
ぽつりとこぼれた声は、自分でも驚くくらい弱かった。
あなたはゆっくりと上半身を起こすと、
ベッドから抜け出す。
足元の冷たさに少し肩をすくめながら、
部屋の隅にある棚へ向かった。
そして、奥にしまってあったアルバムを引っ張り出す。
少しだけ埃をかぶったそれを、そっと開いた。
1ページ目。
そこには、まだ幼い3人がいた。
泥だらけで笑っている日。
手を繋いで帰っている後ろ姿。
誕生日ケーキを囲んで、
顔をくしゃくしゃにして笑っている写真。
自然と、頬が緩む。
でもページをめくるたびに、
ただの懐かしさだけじゃない感情が、
胸の奥にじわじわと広がっていった。
——この時、なんでこんなにドキドキしてたんだろう。
運動会の写真。
海斗が手を引いてくれた瞬間を撮られた一枚。
——どうしてこんなに嬉しかったんだろう。
帰り道の写真。
海人が隣に並んで歩いている、何気ない一枚。
その時は気づかなかった感情が、
今になってはっきりと形を持っていく。
胸が温かくなった理由も、
少しだけ息が苦しくなった理由も、
全部、ひとつに繋がっていく。
指先で写真をなぞりながら、あなたは小さく呟いた。
ページをめくる手が止まる。
そこに映っていたのは、
夕焼けの中で笑っている“ひとり”の姿。
あの日のことを、はっきりと思い出す。
何気ない会話。
何気ない距離。
でも、その一瞬だけ、
時間が止まったみたいに感じたあの感覚。
胸が、強く鳴った。
——ああ、あの時。
言葉にした瞬間、全部が腑に落ちた。
迷っていた理由も、
苦しかった理由も、
全部。
だって本当は
ずっと前から、決まっていたんだから。
あなたはその写真を、ぎゅっと胸に抱きしめる。
もう、誤魔化せない。
もう、“どっちも”じゃいられない。
静かな部屋の中で、ひとつだけ確かな想いが、
ようやく形になった夜だった。













編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。