目覚ましが鳴る少し前に、あなたの下の名前は目を覚ました。
制服に着替え、髪を整え、鞄を持って階段を降りる。
リビングの明かりはすでについていた。
兄は制服姿で、スポーツバッグを肩にかけている。
短い返事。
ちょうど靴を履き終えたところだった。
兄はあなたの下の名前が降りてきたのを確認して、ほんの一瞬足を止める。
それだけ。
小さく頷いて、兄は家を出て行った。
ドアが閉まると家は少し静かになる。
朝食を食べ終えたころ、インターホンが鳴った。
玄関を開けると、山口と月島。
三人は並んで歩き出す。
朝の空気はひんやりしている。
山口が優しく聞く。
月島が小さく鼻を鳴らす。
通学路には同じ制服が増えていく。
校門が見えた。
大きな建物が太陽に照らされている。
三人並んだまま、校門をくぐる。
高校一日目が、静かに始まった。
その頃。
兄は校門をくぐり、体育館前で足を止めた。
振り向けば、
牛島若利。
その隣で手を振る
天童覚。
いつものやり取り。
牛島が言う。
短い確認で終わる。
ふと天童が兄の手元を見る。
兄のスマホケース。
透明なケースの内側には、小さな写真が一枚挟まっている。
少し前に撮った、私服のあなたの下の名前の写真。
柔らかく笑っているやつだ。
兄はちらっと見て、何でもない顔をする。
天童がくすっと笑う。
牛島が静かに言う。
迷いのない返事。
天童が軽く首を傾げる。
兄は少しだけ間をおく。
それだけ。
あなたの下の名前が自分で撮った入学式の写真は、まだスマホの中。
見せるつもりはない。
あれは家族用だ。
天童はにやっとする。
即答。
でも否定が少し早い。
牛島が淡々とまとめる。
兄は小さく息を吐く。
体育館の中からボールの音が響く。
歩き出しながら、兄はポケットにスマホを入れる。
ケースの中の写真がわずかに揺れる。
あなたの下の名前は知らない。
自分の写真が、毎日一緒に朝練へ連れて行かれていることも。
兄がさりげなく、でも当たり前みたいに話題にしていることも。
同じ朝。
違う場所。
けれどちゃんと繋がっている。












編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!