家の門が見えたところで、あなたは足を止めた。
そう言ったのに、月島は歩く速度を落とさない。
山口も何も言わず、隣にいる。
結局、二人は門の前までついてきた。
あなたの下の名前が小さく言うと、月島が眉を上げる。
山口がくすっと笑う。
門の向こうには、いつもの家。
けれど今日は少しだけ特別に見える。
あなたの下の名前が素直に言うと、月島は視線を逸らした。
山口が手を振る。
二人の背中を見送りながら、
胸の奥がじんわりと暖かくなる。
ひとりになったのは、門をくぐったあとだった。
玄関を開けると、母が出迎える。
少しだけ静かなリビング。
制服を脱ぎながら、今日のことを話す。
やがて夕食の時間が近ずいたころ。
玄関のドアが勢いよく開いた。
少し息を切らした兄が、
制服姿のまま立っている。手には箱。
まっすぐに視線が向けられる。
差し出された箱の中には、小さなケーキが四つ。
ぶっきらぼうなのに、どこか照れている。
三人でケーキを囲んだとき、
また玄関の音がした。
今度は父。
そして父の手にも、ケーキの箱。
兄が固まる。
母が笑いここらえる。
箱を開けると、ホールケーキ。
静かな張り合いに、あなたの下の名前は吹き出す。
父が笑う。
母が兄を見る。
その言葉に、あなたの下の名前は少し目を丸くする。
テーブルの上には、小さなケーキとホールケーキ。
四人で囲む食卓は、思っていたよりにぎやかだった。
父が穏やかに言う。
兄と父の声が重なる。
一瞬の沈黙。
そして、笑い声。
守られているというより、
ちゃんと大事にされている。
食後、お皿を片付けていると、
リビングのテーブルの上で、短く電子音が鳴った。
兄のスマートフォン。
兄はそれを何気なく手に取る。
一瞬だけ、表情が変わる。
あなたの下の名前は気づかない。
母も父も、洗い物の音に紛れている。
画面に表示されていたのは___
牛島からのメッセージ。
短い通知。
兄はそれを既読にし、静かに画面を伏せた。
その声は、いつもより少しだけ低かった。
甘い匂いの残るリビング。
けれどほんの少しだけ。
空気が変わった気がした。












編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!