第4話

第3話『少し遅れて、おめでとう』
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2026/03/02 05:00 更新
家の門が見えたところで、あなたは足を止めた。
あなた
ここでいいよ
そう言ったのに、月島は歩く速度を落とさない。

山口も何も言わず、隣にいる。

結局、二人は門の前までついてきた。
あなた
……過保護
あなたの下の名前が小さく言うと、月島が眉を上げる。
月島
誰の影響だと思ってるの
あなた
お兄ちゃん?
山口
自覚あるんだ
山口がくすっと笑う。
山口
でもさ、今日くらいはね。入学式だったし
門の向こうには、いつもの家。

けれど今日は少しだけ特別に見える。
あなた
ありがとう
あなたの下の名前が素直に言うと、月島は視線を逸らした。
月島
別に
山口
また明日ね
山口が手を振る。
あなた
うん、また明日
二人の背中を見送りながら、
胸の奥がじんわりと暖かくなる。

ひとりになったのは、門をくぐったあとだった。

玄関を開けると、母が出迎える。
おかえり、どうだった?
あなた
疲れた。でも、楽しかった
それならよかった
あなた
お兄ちゃん、まだ部活?
ええ。今日は少し遅いみたい
少しだけ静かなリビング。

制服を脱ぎながら、今日のことを話す。

やがて夕食の時間が近ずいたころ。

玄関のドアが勢いよく開いた。
ただいま!
少し息を切らした兄が、
制服姿のまま立っている。手には箱。
……遅くなった
まっすぐに視線が向けられる。
入学、おめでとう
差し出された箱の中には、小さなケーキが四つ。
ホールは重いからやめた
ぶっきらぼうなのに、どこか照れている。

三人でケーキを囲んだとき、
また玄関の音がした。
ただいま
今度は父。

そして父の手にも、ケーキの箱。
せっかくだからな
兄が固まる。

母が笑いここらえる。

箱を開けると、ホールケーキ。
……かぶった
もう買ったのか?
買った
早いな
今日くらいは
静かな張り合いに、あなたの下の名前は吹き出す。
あなた
食べきれないよ
明日も祝えるな
父が笑う。
甘いの苦手じゃなかった?
母が兄を見る。
今日は平気
その言葉に、あなたの下の名前は少し目を丸くする。

テーブルの上には、小さなケーキとホールケーキ。

四人で囲む食卓は、思っていたよりにぎやかだった。
高校は人が多いだろ
父が穏やかに言う。
あなた
うん
無理するなよ
あなた
うん
父と兄
困ったら言え
兄と父の声が重なる。

一瞬の沈黙。

そして、笑い声。

守られているというより、
ちゃんと大事にされている。

食後、お皿を片付けていると、
リビングのテーブルの上で、短く電子音が鳴った。

兄のスマートフォン。

兄はそれを何気なく手に取る。

一瞬だけ、表情が変わる。

あなたの下の名前は気づかない。

母も父も、洗い物の音に紛れている。

画面に表示されていたのは___

牛島からのメッセージ。

短い通知。

兄はそれを既読にし、静かに画面を伏せた。
あなた
…?どうした?
……なんでもない
その声は、いつもより少しだけ低かった。

甘い匂いの残るリビング。

けれどほんの少しだけ。

空気が変わった気がした。









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