“Chapter 2-13 始まるなら、それが ~二人だけの午後の欠席 #3 と『また明日』~”
あんまり慣れないカラオケでも。
歌がうまい人と一緒だから楽しいのかな、とか。
楓麻のキャラなのか、分からないけど。
何だかんだであれから数時間――
途中でお昼ご飯用に持って来てたお弁当を食べたり、パフェやポテトなんかまでちゃっかり頼んで食べちゃったりしたけど。
気が付いたら、夕方になってた。
「もう、こんな時間」
「うん」
飄々と、私の3倍位軽々歌ってたけれど、全然声が枯れてる様子とかも無くて。
(なんか、すごい)
感心してしまう位。
ってそれに気が付いたらフツーに付き合ってしまった私も私なんだけど。
地味に普段よく聞く好きな曲とかも歌っちゃったし。
そもそも、そんなに親しくない男の子と何時間もカラオケとか過ごしてしまったことがちょっとびっくりだったりする。
「楽しかったね」
何の屈託もなくそう言い放つ楓麻に若干戸惑いつつ、
「きょ、今日はありがとう」
と何と無くお礼を述べてみたりして。
「でも、あっお会計――」
そこで、大事なことを思い出しちゃった。
(カラオケに入ったのが13時前くらいで、今が17時半だから、えっと)
放課後って言っても、授業が終わって直ぐだと誰かに会うかもしれないって話になって。ちょっとだけ時間をずらそうって話になったから。
でも結局、そうするとカラオケの利用時間が跳ね上がっちゃってること今更改めて気付いたりして。
「まぁでもフリータイムで入ったし、俺半額クーポン持ってるから。多分かなり安いと思うよ」
さらっと言い放つ。
「だから、エミちゃんと割り勘で。あっでも俺が誘ったし……やっぱ食べたパフェ代だけにしよっか」
「え、ええっと」
「うん、じゃあエミちゃん400円で。あと俺が払っとく」
何て言うか、有無を言わさない感じで。
「あ、ありがとう」
って言うのが、何だか精一杯だった―――
*
「じゃあ、この辺で」
最寄り駅は一緒で。でもそこからの方向は全然別方向な私達は、駅に降り立ったところでサヨナラする感じになった。
「今日は、ありがとう」
何だかんだで楓麻のノリに巻き込まれてた感は否めないけど。
「痴漢も助けてくれて。カラオケにも連れて行ってくれたから…何て言うか、その。気が紛れたかも……っていうか…」
「なら、良かった」
目を細めて、笑う。
「まぁ、何かあったら話位なら聞くよ」
その顔は屈託なくて。少し私に向かって屈みこんだ表情の後ろから、無造作に揺れる癖っ毛が覗いている。
「ありがとう」
「じゃあね」
にこり、と手を振るとそのまま離れていく。
私もその仕草につられて何と無くぼんやりしながら手を振った。
*
その夜。軽く事情は途中で連絡してはいたけれど、ハナに朝の待ち合わせに行けなかったことを改めて謝った。
ハナは怒りもしないで、あっさり許してくれたし、それより何より痴漢に遭った私のことを心底心配してくれた。
何と無く、それから今日颯麻と起こった出来事をメッセージで話したりして。
ハナは私に起こった痴漢も心配してくれたけど、それより異性の楓麻とカラオケに行ったことの方に興味津々みたいだった。
“また明日、詳しくその話聞かせてね――”
そんな言葉がハナから返って来たのを、私は覚えている。
うん。全くと言っていいほど。
その“また明日”って言葉の続きがどうなるかなんて、想像もしていなかったんだ……
そして、長い一日を忘れるかの如く。
深い眠りに落ちて行った。
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。