月明かりがテーブルを照らす。シルクが笑顔でティーポットを傾け、モトキのカップに紅茶を注いだ。
その声は優しく、けれどどこか、底なしの闇に続いているように聞こえた。
マサイが笑いながら、くしゃくしゃになった布を見せた。それは、Fischer’s結成当時のロゴを模した古いTシャツだった。
マサイの声が、一瞬だけ濁った。
その言葉に、空気が変わった。風が止み、鈴の音も、笑い声も、ぴたりと消える。あれほど賑やかだったお茶会が、まるで時間を失ったように静まり返った。
マサイは俯いたまま動かない。低く、掠れた声。
マサイが吠えた。狼の爪が机を叩き、木片が飛び散る。ダーマが肩を震わせ、ザカオが口元を押さえる。ンダホは悲しげにうつむき、シルクだけが、沈黙のまま微笑んでいた。
マサイが何かを言いかけた瞬間、シルクの指先が鳴った。パチン。ランタンが一斉に光り、 明るい音楽が再び流れ始めた。
シルクの声が、静かに響く。その笑顔は優しく、それでいて冷たい。マサイは唇を噛みしめ、小さな声で呟いた。
その一言に、モトキの背筋が凍る。昔なんて、どこにもない。じゃあ、今ここにいる彼らは誰だ?どこから来て、どこへ行く?そして、俺は本当に生きているのか?カップの中で紅茶が揺れる。その表面に映るのは、月ではなく、もう一人の自分の影だった。
モトキがかすれた声で言った。シルクは笑った。静かに、優しく、そしてどこか壊れたように。
ドアが静かに閉まる。モトキはひとり、部屋の中に取り残された。部屋はあたたかかった。壁にはオレンジ色のランプが灯り、ベッドはふかふかの白い布団に包まれている。抱き枕まで用意されていて、棚にはモトキが好きだったアニメのキャラクターグッズやカードが並んでいた。
呟きながら部屋を見回す。この空間は、まるで自分のために作られたようだった。どこか懐かしく、落ち着く匂い。窓の外では、ハロウィン・ミラージュの夜景がゆらめいている。
ベッドに腰を下ろすと、体が沈み込む。柔らかくて、包まれるような感触。眠ってしまいそうになるけれどそのとき、視界の端に何かが映った。部屋の隅。古びた姿見が立てかけられていた。表面には薄く埃が積もり、枠は木製で、所々がひび割れている。
近づいて、手で埃を払う。鏡の中に映るのは、自分。のはずだった。少し目を離して、また見る。そこに映っている自分が、一瞬だけ自分じゃなくなった。顔の輪郭が、違う。目の光が消えている。頬に黒い線のようなものが走り、その口がゆっくりと動いた。












編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。