一時は、どうなるかと思ったけれど……。
劇は、大盛況で幕を閉じた。
緞帳が降りて観客の姿が見えなくなった瞬間、地見先輩があたしの背中をバシッと叩いた。
そう言って地見先輩は笑うけれど。本当に、謙遜なんかしていなかった。
地見先輩や千春ちゃんの演技。練習でも二人の演技は素晴らしかったけれど。舞台上での二人の演技を見た瞬間、あたしの肌はぞわりと総毛立った。
自分とは、格が違うと。
そして、思い知らされた。所詮あたしは、女優の娘でしかないと。
熱い声援も、鳴り止まない拍手も。それを向けられるているのは、あたしじゃない……。
千春ちゃんが、あたしを励ましてくれる。
『夏目さんが、見ていたから』
なんて、そんなこと。言えるはずもなくて……。
あたしは言葉に詰まってしまう。
地見先輩がニヤリと笑う。新しいおもちゃをもらった、子どものように。
高校を卒業するまで、このことは誰にも言えない。夏目さんへの気持ちも、夏目さんとの微妙な関係だって。
もうすぐ卒業してしまう三年生とは、違うのだから。
※
部室という名の家庭科室へ戻ると、一気に緊張がほぐれていった。
膝から力が抜け、崩れるようにイスにへたり込む。どうやら、想像以上に緊張していたらしい。
舞台を降りたというのに、膝の震えが止まらない。
母は……地見先輩と千春ちゃんは、どれだけの緊張と重圧を乗り越えてきたんだろうか。
地見先輩の手が肩に触れた時。
その手を振り払うように、強い言い方をしてしまう。
どうしてだろう?
地見先輩を前にすると素直になれず、強がりを言ってしまう。
地見先輩の態度に反発したわけじゃない。どちらかといえば、地見先輩の気づかいは嬉しかった。だからこそ、戸惑ってしまうのだ。
夏目さんに似ている地見先輩の振る舞いや声に、ドキドキしてしまう自分がいるから。
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。