第111話

第110話「乗り越えるもの」
261
2023/03/21 12:00 更新
桜木 千春
桜木 千春
キララちゃん
小田原 キララ
小田原 キララ
……なに?
桜木 千春
桜木 千春
キララちゃんの気持ち分かる
桜木 千春
桜木 千春
……なんて、言えないけど
桜木 千春
桜木 千春
どうしても、キララちゃんに会ってほしい人が居るの
小田原 キララ
小田原 キララ
あたしに、会ってほしい人?
 千春ちゃんの真剣な眼差しに、あたしに会わせたい人が誰なのか。すぐに予想がついた。
小田原 キララ
小田原 キララ
(会いたくないな……)
 そう素直に言葉にしてしまったら、千春ちゃんはあたしを軽蔑するだろうか?

 そしてみんなは、あたしをどう思うだろうか?
桜木 千春
桜木 千春
えっと、びっくりしないでね?
桜木 千春
桜木 千春
全然、怖い人じゃないから
 カラカラと扉が開く。その向こう側に人影が見えた瞬間、あたしは固唾をのんだ。
小田原 キララ
小田原 キララ
どうして……
地見ちみ部長
なんで、社長がここに!?
杏子おばさん
杏子おばさん
「なんで」じゃないわよ。はぁ、全く……
小田原 キララ
小田原 キララ
しゃ、社長?
桜木 千春
桜木 千春
あれ? キララちゃんも、社長のこと知ってるの?
 知ってるもなにも……。

 社長と呼ばれたこの人は、父の姉。あたしのおばさんなのだ。
杏子おばさん
杏子おばさん
ああ、キララには話してなかったわね?
杏子おばさん
杏子おばさん
わたし、芸能事務所の社長なのよ
杏子おばさん
杏子おばさん
まあ、事務所と言ってもまだ弱小で。所属しているタレントも、ほとんど居ないんだけどね
地見ちみ部長
社長とキララちゃんって、知り合いなんですか?
杏子おばさん
杏子おばさん
そうよ。キララは、わたしの姪だからね
地見ちみ部長
姪!? こんな、かわいい女の子が!?
杏子おばさん
杏子おばさん
悪かったわね? かわいくないおばさんで
地見ちみ部長
冗談やて、冗談。社長、怒ったらべっぴんさんが台無しですよ?
杏子おばさん
杏子おばさん
もう。褒めればすむと思って
 そうは言いながらも、杏子おばさんは少し嬉しそうだ。
地見ちみ部長
そっか、だからか……。なんでうちみたいな弱小事務所に、エミリージョーンズが所属すんねやろと思ったら──
杏子おばさん
杏子おばさん
そんなこと、今はどうでもいいの!
杏子おばさん
杏子おばさん
それよりも、一体どういうつもりなの!? 映画を控えた大切な時期に、あんな茶番劇なんて!
杏子おばさん
杏子おばさん
現役の女子高生だってことは、映画の告知と同時に発表したかったのに……!
 杏子おばさんは大きくため息を吐いた。
小田原 キララ
小田原 キララ
ごめんなさい!
小田原 キララ
小田原 キララ
全部、あたしのせいなの
小田原 キララ
小田原 キララ
あたしが、劇に出られなくって……
 紅さんに会って過去を思い出し、気持ちの整理ができなくなった。今だって、彼女に会うと思ったら不快な気持ちになってしまった。

 前に進みたいのに、進めない。

 みんなに迷惑ばかりかけている。
小田原 キララ
小田原 キララ
あたしの……せいで
 その時。

 あたしの言葉を遮るように、高らかな声が響いた。
紅 色葉
紅 色葉
小田原さんは、悪くない!
紅 色葉
紅 色葉
悪いのは、わたしです!
紅 色葉
紅 色葉
わたしが……。わたしが、小田原さんをいじめたせいで、こんな事に……
杏子おばさん
杏子おばさん
その話、詳しく聞かせてもらえるかしら?
杏子おばさん
杏子おばさん
キララの保護者である、おばのわたしに
 杏子おばさんがゆっくりと紅さんに歩み寄る。その背に、怒りの炎を背負って……。




紅 色葉
紅 色葉
す、すみませんでした……
 紅さんは、しゃくり上げて謝罪を繰り返す。
杏子おばさん
杏子おばさん
すみませんでした?
杏子おばさん
杏子おばさん
そうね……。そんな言葉で許せるなら、警察も弁護士も必要なかったでしょうね……
杏子おばさん
杏子おばさん
ああ、まさか……。わたしのかわいい姪が、こんな酷いことをされていたなんて……
紅 色葉
紅 色葉
ごめんなさい! 本当に、本当に! 反省していますから……
 杏子おばさんにすがりついて子どものように泣きわめく紅さん。そんな姿を見ていると、可哀想に思えてきた。
小田原 キララ
小田原 キララ
杏子おばさん。もう、止めてあげて?
杏子おばさん
杏子おばさん
あらあら、キララは優しいのねえ? まあ、本人がそう言うのなら、仕方ないわね……
紅 色葉
紅 色葉
ほ、ホントですか!?
杏子おばさん
杏子おばさん
壊したものの弁償代。あとで弁護士の先生と相談して、あなたのご両親に請求しておくわね?
紅 色葉
紅 色葉
……はい
 紅さん力なく返事をしたあと、疲れたように肩を落とした。

 そんな紅さんを杏子おばさんは満足気に眺めている。
小田原 キララ
小田原 キララ
(これが、大人の制裁やり方か……)
地見ちみ部長
ホンマ、容赦ないな……
杏子おばさん
杏子おばさん
キララ
小田原 キララ
小田原 キララ
は、はい!
杏子おばさん
杏子おばさん
大人の話は、もう済んだから。あとは自分で決めなさい
小田原 キララ
小田原 キララ
決めるって、なにを?
杏子おばさん
杏子おばさん
それは──
 杏子おばさんは何かを言いかけて、口をつぐむ。
杏子おばさん
杏子おばさん
それは、わたしが決める事じゃないわ
杏子おばさん
杏子おばさん
キララが自分で考えて、自分で選ぶのよ
小田原 キララ
小田原 キララ
あたしが、自分で……
 未だにしゃくり上げて泣いている紅さん。その隣で彼女をなだめているのは梨々花ちゃんだ。
杏子おばさん
杏子おばさん
話したくなったら、いつでも相談に乗るわよ。わたしはキララの、おばなんだから
小田原 キララ
小田原 キララ
杏子おばさん……
 杏子おばさんは、目の前に居るのに。

 なぜだか少しだけ、遠くにいってしまったような気がした。

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