第2話

始めてしまえば
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2026/09/08 00:01 更新



懐かしい人の夢を見た。
大好きな彼女は何かを話してるのに、その声は波音にかき消されて届かない。





『何?何を言うとるん?』

『ーー』

『こっち向いてくれんと分からんて』

『ーー』

『なぁあなたの下の名前?』





そうや、あなたの下の名前や。
思い出した彼女の名前をもう一度呼ぶ。楽しそうに笑うあなたの下の名前が俺の声に気がつき振り向く。
晴天の海辺が、急速に進み暗闇へと変わる。振り向いた彼女に笑顔はなかった。





『あなたの下の名前?』

『ーー』

『え?』

『……もう友達には戻れないよ』

『……何で今言うん?』

『だって君から始めたんだから』

『そうやけど……ちゃうって」』

『あたしが終わらせなきゃ』

『ちゃうッ……嫌や!あなたの下の名前ッ!』





伸ばした手から逃げるように彼女が遠くなる。
何でなん?嫌や言うてるやん……離れんといてよ





『……バイバイ、あなたのあなただけの向井さんの愛称』




















「どれやったかな?」



休日の午前中、久しぶりにカメラのデータ整理をした。あの夢を見た日から、仕事中も時折あなたの下の名前の事を思い出す。もうどのくらい前やろか……



「これや……懐かし」



写真の中の二人はどれも笑顔だった。懐かしさに自然と目尻が緩む。大好きなあなたの下の名前がそこにいる。俺が撮った写真の間に、時々紛れてるあなたの下の名前が撮った俺。



「俺、めっちゃデレててキモ(笑)」



カチカチとマウスを動かしていると1枚の写真に手が止まる。雨上がりの夕暮れ時、雲間からさす陽が街並みを染めている。そこに写るあなたの下の名前の後ろ姿。



「あなたの下の名前……」



友達の関係を壊したのは俺からやった。好きを自覚してからは、誰にも取られたくなかった。
芸能人と一般人。それでも彼女の傍にいたいと願った……




















『あなたのあなただけの向井さんの愛称忘れっぽいから、絶対にあたしの事忘れるよ』

『アホ、忘れるわけ無いやろ。何言うてんねん』

『そうだと嬉しいな(笑)約束だからね』

『そもそも別れんよ。安心せぇ』

『……』

『大丈夫やって、あなたの下の名前はそのままでおってくれればええ』

『……あなたのあなただけの向井さんの愛称もだよ』



















フォルダ内を1枚1枚確認する度、幾度となく蘇る記憶。忘れるわけ無いって約束したのに……
あなたの下の名前はきっと分かってたんやな。ごめんな、



「……ふぅ」



もう泣きはしない。これは覚えてるあなたの下の名前との約束。




ㅤ⠀​​ ーーいつか思い出しても絶対に泣かないでーー




最後に見せた彼女は、どんな顔をしていたか……







「ごめんな、最後に泣かせて……」



もう君にあげれるものは何も無い。
でもあなたの下の名前が笑顔で居てくれていればなんて、贅沢な願いだけさせてな。





もう恋人でも友達でも無い、大好きな人へ。











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