私が今立っている場所、分かりますか?
あの…待ちに待った場所です。
…そう。
ここは市内でも1番大きいホール。
まあ、文化会館を想像してもらったらいいかな。
今、その舞台裏で楽器を運びながら
本番まで待ってます。
あ、あの学校は私たちの学校の前か…
千波先輩とか、手に持って演奏する楽器達は
もう少し奥の部屋で音程を合わせてから此方へ来る。
なので、ここには打楽器の私と、
この先輩しかいない…!
…やっぱ、打楽器人手不足だよね。
結構力には自信がある。
これでも握力平均は超えてるんだ。
やっと私たちの番だ。
ふたりで目配せをし、同時に前を向いた。
前には観客のよく見える大きなステージがある。
ある程度楽器の置く場所は覚えてる。
だけど、少し心配な所はちゃんと先輩に聞かないと。
とりあえず、一通りの楽器の設置は終わった。
あとは千波先輩、海先輩、のめ先輩達の入場を
待つのみとなった。
私達は先輩たちの堂々とした入場を見届けた。
そして、私達は自分の楽器の前に1歩を進めた。
先生が指揮棒を振り上げた。
一斉に合奏のできる体勢になる様は、
まるで波のようだった。
サックスやフルートが一斉に演奏を始める。
コントラバスの低音も加わり、
音に立体感が増していく。
イントロの終わりの部分あたりから
トランペットが場を盛り上げてゆく。
全体の爽やかなメロディーが、私たち
打楽器の背中に乗ってくる。
その瞬間はとても穏やかで、優しかった。
――――――――――――
曲の終盤、私のソロが始まる。
その時、瞬く間に全体が、私のメロディー
を乗せてゆく背中へと変わった。
私は次々にその虹のような背中を、
走るように奏でていく。
滑らかに、自由で、大胆に……!
終盤、私は自分で架けた虹の道を走った。
走って奏でて、虹のかかった空の
雲の形は、それぞれの音の様な、
華やかな雰囲気をまとっている。
全ての楽器の音が、余韻を残して消えていった。
ホールにはまだ残像の様な響きが残っている。
先生が指揮棒をあげた時が、終わりの合図だ。
私達はそれを頼りに背筋を伸ばし、
観客の皆に、誠意で感謝を伝えた。
先生の言葉に続くように、
部員全員の、空気の吸う音が聞こえた。
その瞬間、パチパチという拍手と、歓声が聞こえた。
鳴り止まぬ心臓の音を無視して、
私はキラキラとしたこのホールを見回した。
緊張による脈の速さは、いつしか
やり遂げた達成感による脈の速さになってたんだ。
そのくらい、このスポットライトが当たる
風景が私にとっての宝物になったんだ。
先輩も成し遂げたような良い顔をしている。
先輩の目には、観客が沢山写っていた。
…やっぱり、おんなじ気持ちだったんだ。
この時の先輩はただの笑みを浮かべただけじゃない。
今までに見たことがないくらいの、
満面の笑みだった。
もっともーっと、見る人の幸せを
願っていけたらな。
先輩と一緒なら、できるような気がするよ。
#2:定期演奏会編 終
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編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。