立川基地襲撃から1週間後。あなたの名前は立川基地の医務室で昏睡状態が続いていた。
左腕には包帯が巻かれ、右足にはギプスがあてられている。
閉じられた瞼も、長い睫毛も動かない。静かな寝息だけが聞こえる。
そんな病室に一人来客が。保科宗四郎だった。
飄々とした顔で入室して見舞いの花を花瓶に生ける。
赤いカーネーションの花。本来なら、母への感謝を示す花。でも、違う。
花言葉は、
「あなたに会いたくてたまらない」。
きっとあなたの名前には届かへんのやろうなと内心で自嘲しながらも、そうなることを願って生ける。
返答はない。
誰も見てないから、と理由を付けて静かに涙をこぼす。
おとんに防衛隊諦めろと言われた時やって、討伐で上手く行かへん時やってこんなに泣いたことはあらへん。
あなたの名前だけや。僕をこんなにさせといて、このまま寝てるだけなんて許さへん。
そんな状況に、もう一人来た。
第1部隊隊長の鳴海弦。
普段なら犬猿の仲として言い争う二人も、こんな状況では争う気にすらならない。
だって自分の最愛の人が、眠ったまま動かないのだから。
しっかりと釘を刺して出ていく宗四郎。
すやすやと眠る愛しい顔はこちらのふざけたセリフなど、聞いちゃいない。
そんな奴に呼びかけても意味はないので、隣で丸椅子に座ってゲームをする鳴海。
たまにちらり、と様子見をする。
答えが無いと分かっていても言わずにはいられない。
なぜならコイツとボクは同期だから。
誰がなんて言おうとボク達は同期で、ボクはコイツが好きだ。
だから、花の代わりにこれを贈る。保科のように花を贈るなんてできないからな。
細い腕に一度。鼻に一度ずつ、キスをする。意味は腕→「恋慕」、鼻→「慈しみ」。
こんなことで頬を染めてくれる奴じゃないことはボクがよく分かってる。
キスした理由は、ボクがしたかったのもある。だけどもう一つ。
幼い頃、孤児院の読み聞かせであった眠り姫の話。眠り姫は王子のキスで目覚め、ハッピーエンド。
そんな風になったら良いな、なんて愚直に願っても何も起きなかった。
ボクはこういう時、最強の肩書を呪いたくなる。最強は好きな女一人救えないのか。
その夜。あなたの名前の病室に一人、忍び込む影。
忍び込まれた本人は指一つ動かず、感知することすらできない。だが、その幼馴染が感知した。
ちょうど様子見に来た宗四郎が見たのはー、
次の瞬間には宗四郎は手刀を落とされ、気絶していた。
人影はゆっくりとあなたの名前に近づき、するりと頬を撫でる。
するすると病院着の腹部だけをめくりあげ、手を当てる。ずぶずぶと音立てて腹部に沈んだ。
少し手を動かして引き抜いて一度なでると、腹部は血が流れた後もなく、綺麗なままだった。
人影は窓からふっと消え、病室には眠り続けるあなたの名前と気絶した宗四郎だけが残された。














編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!