休日の昼下がり。
俺と大夢は、大学から少し離れた静かな古本屋街を歩いていた。
大夢が、俺のために探してくれた以前から気になっていた絶版本があるという店を目指して。
薄暗い店内に足を踏み入れると、紙とインクの古い匂いが心地よく漂っていた。
俺は真剣な顔で資料を探し、大夢はその隣で、時折そっと埃を払ってくれる。
「ねえ、理人。この表紙、すごく理人っぽいよ」
大夢が、古びた哲学書を指差して笑う。
「そうか?」
思わず口元が緩む。
大夢は、俺の繊細な部分や、普段は誰にも見せない興味を、
いつも自然に、そして肯定的に受け入れてくれる。
「理人はさ、いつも自分の考えてることを外に出さないけど……僕は知ってる。
理人の頭の中は、こんなに広くて、面白い世界なんだって」
その言葉に、胸の奥がじんわりと温かくなる。
京介と匠海のような強い引力はない。
けれど、大夢の存在は、俺にとっていちばん安心できる確かな場所だった。
「ありがとう、大夢。お前といると、俺の考えすぎるところも、
神経質な部分も、全部……“俺の一部”として許される気がする」
店を出て、陽光の差し込む古いカフェに入った。
大夢はミルクティーを、俺はいつものブラックコーヒーを注文する。
ナプキンに星のような図形を落書きしていた大夢が、ふと顔を上げて言った。
「ねえ、理人。僕たちの愛って、コーヒーみたいだよね」
「コーヒー?」と聞き返すと、大夢は柔らかく笑った。
「うん。苦味(周りのプレッシャー)もあるけど、理人がいるから全然平気。
それに、自分の意志で選び続けるたびに、こんなに温かくて心地よくなるんだ」
大夢の言葉はいつもシンプルで、俺が研究で複雑に考えてしまう「愛」の定義を、
いつも一瞬で超えてくる。
「そうやね、大夢。俺たちの愛は、誰にも強制されない。
自分たちで淹れた、一杯のコーヒーだ」
そう言って、俺は大夢の手に自分の手を重ねた。
そこにあるのは、激しい熱ではなく、互いを支え合う信頼の温もり。
運命の糸なんていらない。
俺たちの愛は、この静かな日常の中で、
最も確かな永遠の誓いとして、ゆっくりとけれど揺るぎなく育まれていく。












編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。