SHRが終わって、放課後になる。
あなたの名字の席を見ると、やっぱり、もういない。
あの子は、放課後になるとすぐに教室を出る。毎日そんな感じだから不思議に思って、本人に聞いたことがある。「用事があるだけだよ」って一応答えてくれたけど、なんか、誤魔化されている気がする。
「あなたの名字ってさ、毎日放課後何やってんの?」
「……本人に聞きなよ」
東風谷が眉間に皺を寄せていることに気づきつつも、気にせず話し続ける。
「本人には聞いたよ。聞いたけどわかんなかった」
「じゃあ、知られたくないってことなんじゃないの」
阿久津さんの冷めた声。ペンを動かしたままで、顔すら上げてくれなかった。
本当に人に知られたくないことだとしたら、ますます知りたくなってしまう。
「もう一回聞いたら答えてくれるかな?」
「いや、無理でしょ」
「ほんと、星崎ってあなたの名字ちゃんのこと好きだよね」
色々な人にそうやって言われるけど、俺、あなたの名字のことが好きって一回も言ったことないんだけど。なんでバレてるわけ?
まぁ、否定するつもりはないけどね。
「んー、うん」
ずっとペンを動かしていた阿久津さんが、手を止める。
「……星崎くんは知らないの?」
「なにが?」
「あなたの名字ちゃんに、……彼氏がいること」
頭の中が真っ白になった。
……わけでもなく、ただ、首を傾げた。
「え、知ってるけど」
好きだと自覚する前から知っていた。あなたの名字に、高校に入ってすぐにできた彼氏がいることなんて。
「じゃあ、知ってるのになんで……」
「好きになっちゃいけないなんてこと、ないでしょ?付き合ったらダメなのはわかってるけどさ」
普通のことを言ったはずなのに、阿久津さんは驚いた顔をしているし、東風谷に関しては完全に呆れている。
「え、何、2人とも」
「一途でいいねって思ってただけ」
「絶対思ってないじゃん」
次の日の放課後。例のごとく、あなたの名字はすぐに教室を出た。
俺の足は、考える間もなく動き出していた。
「ねぇ」
あなたの名字の腕を掴むと、少し大袈裟だと感じるくらい肩を跳ねさせた。
合ったその目は、酷く怯えていた。
「っ、……あ、星崎か……どうしたの?」
「今日、暇かなって」
「……ごめん、今日も予定あるんだよね」
いつもの答え。
そう言われても、食い下がらなかった。
「何しに行くの?」
「買い物行くだけだよ」
「じゃあ俺も──────────」
そう言いかけると、あなたの名字は腕を振り払って、一歩後退した。
まずい、踏み込みすぎた。と思った。
「ごめん、……お店閉まっちゃうから、もう行くね」
「……うん」
見せてくれた笑顔は、なぜか、引き止めてほしそうだった。












編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!