あの笑顔が、脳裏にこびりついて離れなかった。
意味を知ってしまったら、俺は、どうするのだろうか。
「星崎?なにしてんの〜」
振り返ると、ギターを背負った栖原がいた。
「いや、なんも」
「あなたの名字と喋ってたじゃん」
なんだ、見てたんだ。
「見てたの?」
「うん。……最初から全部。……星崎が何しようとしてんのかは知らねぇけどさ、一応伝えておくよ」
栖原が真面目な口調になる。
「あなたの名字の彼氏ってさ、性格にちょーっとクセあるタイプなんだよね。1年の頃、それが原因で孤立して……で、気にかけたあなたの名字が話しかけた。そこから全部始まった」
そういえば、1年の頃、栖原とあなたの名字は同じクラスだったっけ。
あなたの名字の彼氏のことは、存在しか知らなかった。顔も声も性格も、何もかも知らなかった。
そして、気になる言葉があった。“そこから全部始まった”という言葉。まるで、現在進行形で何かが起こっているかのようだった。
「……何、そこから全部始まったって」
「本人に聞きなよ。……絶対に答えてくれないと思うけど。星崎が相手なら尚更ね」
さっきからずっと、引っかかる言葉ばかりだ。
多分、栖原はあなたの名字の身に何が起こっているのか知っている。
「じゃあ、栖原は全部知ってるってこと?」
「知ってるよ。結構前に、あなたの名字から全部聞いたから」
全部知っている上で何もしないのはおそらく、何をしても無駄だということがわかっているから。
でも、それでも助けたい。
だって、好きだから。
「もしかして、助けたいとか考えてる?」
ぎくりとする。
「まぁ、そう思うよな。俺も、助けられるなら助けたいと思ってる。……でも、無駄だよ」
「無駄……」
「2人が付き合ってるのはさ、お互いが相手を好きって思ってるからじゃない。彼氏の方はあなたの名字に好意を持ってるかもしれないけど……あなたの名字は違う。“可哀想”っていう気持ちがさ、根底にあるんだよ」
首を傾げた。
「“私以外の居場所がない、可哀想な人”、“私がいないとダメな人”……みたいな気持ちだと思う。共依存、みたいな?わかんねーけどさ」
栖原はギターを背負い直して、眉を下げて笑った。
「……ま、ただの憶測だから忘れていいよ。じゃ、俺これから部活だから。じゃあな」
ひらひらと手を振りながら、曲がり角に消えていった。
取り残された俺の心には、モヤッとした何かが渦巻いていた。
寝て起きても、昨日のモヤモヤは残っていた。
今日こそ、どんな手を使ってでも引き止めなきゃ。
その日、あなたの名字は学校に来なかった。












編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!