六本木の夜
ネオンがうるさくて、人の声も多くて、なのに――居場所がない。
あなたはスマホも見ずに歩いてた。
迷ってる自覚はあるけど、戻る気もない。
フードを深く被って、誰とも目を合わせない。
深入りしない。
期待しない。
大切にしない。
関わらない。
そう決めてきた。
大切にした人は、消えた。
敬愛してた“あの人”も、気づいたらいなくなっていた。
それが世界のルールだと、もう知ってる。
だから冷たくなる。
だから距離を取る。
――それでいいはずだった。
そんなとき
「ねぇ、そこのお嬢ちゃん♡」
軽すぎる声。
後ろから、やたら余裕のある気配がする
振り返ると、派手なスーツの男。紫がかった髪に七三分け
「こんな時間にひとり?迷子〜♡」
そっけなく返して、そのまま歩こうとする。
一歩、距離を詰められる。
逃げ道を塞ぐ立ち位置。
男は楽しそうに首を傾げた。
あなたは一瞬だけ黙って――
小さく、舌打ち。
ポロッと出た、その一言。
空気が変わった。
男の笑みが、ほんの一瞬だけ消える。
次の瞬間、にっこり。
______ガシッ
手首を掴まれる
強くはない。
でも、逆らえない力。
さらっと言われて、逆に怖い。
車に押し込まれながら、あなたは思った。
走り出す車内。
隣で男がスマホを弄りながら言う。
あなたは窓の外を見たまま、何も言わない。
男は笑って、
「ま、いっか♡ そのうち全部聞くし」
なんて呟く
アジトに着く頃には、
胸の奥が、嫌な感じにざわついてた。
(まただ)
――
あの人の声が、頭の奥で響く。
あなたは、ぎゅっと拳を握った。
(今度は、何を失うんだろ)
梵天アジト
重たい扉が開いた瞬間、
空気が一段階、下がる。
コツ、コツ、と靴音を響かせながら
あなたを連れて中へ入る。
その声に、奥から即ツッコミ。
呆れた声で現れ、腕組みして、あなたを一瞥。
次の瞬間。
「――ふざけんなよ」
低くて、刺すような声。
ズカズカとピンク髪の男が歩いてくる
目が合った瞬間、あなたは反射的に一歩引く。
視線が、あなたに向く。
値踏みするみたいな目。
無言。
一瞬、空気が凍る。
一歩、近づかれる。
その圧に、
心臓が嫌な音を立てる。
(だいじょうぶ、慣れてる)
――その一言で。
ピンク髪の顔色が変わる。
クラゲ頭も眉をひそめた。
あなたは視線を逸らして、ぼそっと。
ピンク頭は舌打ちして、拳を握る。
そのとき。
奥の扉が、静かに開いた。
誰も音を立ててないのに、
全員の意識がそっちに向く。
――首領。
闇に溶けるみたいに立つ、マイキー。
一言だけで、場が完全に静まる。
紫髪が一歩前に出て、にこっと笑う。
首領の視線が、あなたに刺さる。
不機嫌そうに目を逸らして、
そう言い捨てた。















編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。