はる蘭
ホワイトデー
春千夜side
2週間前はバレンタインで蘭から手作りのチョコを貰った。なのでホワイトデーにお返しをすることにした。
にしても結構悩むな。最初は手作りのクッキーでも渡せばいいかと思っていたが、調べれば調べる程これを贈ったらいい、あれは贈ったら駄目と色々書いてあってどれを贈るか決めるのに時間がかかってしまった。
そして今日は3月14日、ホワイトデー。
あとはもう渡すだけだ。
「…緊張するな、これ」
バレンタインの時蘭が何故あそこまで緊張していたのか分からなかった。だって俺がお前からの贈り物を拒否するわけないから。だが贈る方になったら分かる。相手は喜んでくれるだろうか。もしいらないと言われたら。そんな考えがよぎる。
今日は仕事が終わったら、一緒に俺の車に乗って帰る約束をしている。俺はもう仕事が終わり車で待っている所だ。
「にしても遅いな」
時間を確認してみると22時半過ぎだった。今朝は仕事が終わるのは22時位と言っていたから30分近く遅れている。トラブルでもあったのだろうか。アイツも大変だな。そんなことを思っていたらブーとスマホが振動した。
「誰だよ」
仕事のことか?俺1時間くらい前に仕事終えてるんだけど。通知を見てみると蘭からだった。一気に機嫌がよくなるのが自分でも分かる。
『今終わった』
車で待ってる、とメッセージを送る。それから3分程経った頃、事務所から蘭が出てくるのが見えた。少しキョロキョロして俺の車を見つけ、パァァァと効果音がつきそうな笑顔で此方に走ってくる。
「ごめん、遅くなった」
「大丈夫だ。なんかトラブルでもあったのか?」
蘭が車に乗ってきてシートベルトを着けたことを確認し、エンジンをかけ車を走らせる。
「今まで仕事サボってた分が溜まってて、それで九井に終わるまでスマホ没収されてさぁ」
「そりゃお前が悪いな」
「うぅ~…」
部下の尻拭いなら可哀想だなと思っていたが、過去の自分のせいなら自業自得でしかないので同情はない。
「春千夜は今日早く上がったんだって?」
「21時半には終わってた」
「いいなー」
「それはお前がちゃんと仕事しないからだろ」
他にも色々話をしていたら蘭の家の前に着いた。もう着いちまったなぁ。少し寂しいが今日はもうお別れだ。けど、その前に渡さなきゃいけないものがある。
「蘭」
「ん?何?」
「コレやる」
後ろの席に置いてあったバッグから袋を取り出し渡す。
「!!」
蘭が袋を手に取り嬉しそうにふふと笑っているのを見て可愛いと思った。
「いらねぇなら捨てろ」
「いる!!!」
まだ中身を見てないのにいる!!!とこちらを威嚇して取られないよう袋を抱き締めている。
「まだ中身見てないだろ」
「仮に中見が犬の糞でも春千夜から貰った物だから取っておく」
「それは捨てろ」
糞は汚いだろ。というかまず、んなもんあげねぇよ。
「ねぇ、開けていい?」
「駄目」
「え!?何で!?」
「中身食べ物だからここで食べられると屑がこぼれる」
車汚されたくないし、と言う。取り敢えず喜んでいるから良かったと安心した。
「食べ物って何?」
「家に帰ってから確認してみれば」
「わかった。じゃあ、降りるね」
「おう」
ドアを開け閉める前に
「食べたら連絡するから」
と言われた。
「ん」
返事をすると、バン、とドアが閉まった。窓から手を振っているのが見えたので此方も手を振る。マンションに入って姿が見えなくなったことを確認し、ハンドルに頭を置いた。
「はぁ~…」
顔が熱い。緊張した。受け取ってくれて良かった。あとは連絡待ちだ。美味しかったと言ってくれたらいいな。
早く連絡こねぇかな。そう思いながら車のアクセルを踏んだ。
食べ物が何かは皆さんの想像にお任せします。
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。