梵天
付き合ってます
解釈違いを起こしたらバックしてください
『兄貴誕生日おめでと』
5月26日0時丁度にピコンと音を鳴らし震えたスマホの画面を見てみると、竜胆からお祝いのメッセージが届いていた。
『ありがと』
とだけ返す。俺が何故こんな時間まで起きているのか。自分の誕生日だから?皆からメッセージが届くのを楽しみにしているから?違う。いや完全に違う訳でもないけれど。
理由は1つ。恋人からのメッセージを待っているのだ。俺の恋人は三途春千夜、梵天のNo.2だ。春千夜と付き合ってから初めての俺の誕生日。本当は一緒に過ごしたかったが、誘う前に春千夜の出張が決まってしまったので誘えなかった。
00:01
スマホのデジタル時計が動く。
…連絡、こないな。
「…なんっでこねぇんだよ!」
時計はもう午前1時を指していた。
1時間待った。1時間も待ったのだ、俺が。普通恋人にメッセージとか送らないか?今日職場で会えるならまだしも、会えないんだよ?
「チッ、もう寝よ」
スマホをベッドサイドに置いて、布団に潜る。
何なんだよ、期待して損した。確かに、連絡くれだなんて言ってないし、誕生日なんて拘る歳でもないけれど。でも、期待くらいするじゃんか。付き合ってから初めての誕生日なんだし。
ブー ブー ブー ブー
「ッ誰だよ。こんな時間に」
誰からか電話が掛かってきた。苛立ちながら布団から出る。九井か?だったら仕事か、誰かに投げようかな。そう思いながら画面を見た。
「!!」
画面には『三途春千夜』と書いてあった。急いで電話を取る。
『も「もしもし」しもし』
嬉しすぎるあまり言葉を被せてしまった。ヤバイ、恥ずかしい。
「…」
『…蘭?』
「なに」
少し言い方がキツくなったが仕方がない。
『誕生日おめでと』
「…ありがと」
2秒程間を空けてから返事をする。すると、どうやら俺の不機嫌を察したらしい春千夜が聞いてくる。
『今日、てか昨日か。何かあったのか?』
「別に」
『いや絶対なんかあっただろ』
「ないって」
少しイライラしてしまう。20秒程前は喜んでいたのに。
『じゃあ何でそんな不機嫌なんだよ』
「そんな大した理由じゃないよ」
『ふーん…まぁお前が話したくないなら別にいい』
「ん」
コイツがしつこく聞いてくる人間じゃなくてよかった。あと2回聞かれてたらぶちギレてた。
『…寝てると思った』
「寝ようとしてたところにお前が電話掛けてきたんだろ」
『そうだったのか?悪いな、寝るとこ邪魔して』
「全くだよ」
寝てると思ってたのに電話掛けてきてくれたのか、なんて少し嬉しくなった。
『本当は0時丁度に電話掛けようと思ったんだけどよ、取引先のジジイが中々帰らしてくれなくてよ』
「…そうだったの?」
『おう。んで今やっとホテル着いたからお前に電話した』
「ふーん。そっか…ははっ、そっか!」
何だ、そうだったのか。本当は0時丁度にって、思ってたんだ。…嬉しい。誕生日とか記念日とかに興味なさそうな春千夜が、誕生日を祝おうと。
『どうした急に』
「んー?べっつにー?」
『んだよ、俺が連絡しなかったらから拗ねてたのかよ?』
「はぁ?別にそう言う訳じゃないし!」
『へぇ?ま、いいよ』
図星を突かれて思わず咄嗟に言い返してしまった。これでは、はいそうですと言っているようなもんなのに。案の定面白がってるような声で返事されたし。
「本当にそう言うのじゃないからな」
『はっ、可愛いなぁ。帰ったら夜にたくさん愛してやるよ』
「…夜だけかよ」
夜だけなのかよ。朝と昼は愛してくれねえのか、このケチ。
『……今日の夕方には帰る』
「え」
ちょっと待って、本来帰ってくるのって明後日だよな?それを今日??無理じゃね?
『夜、準備しとけ。あと覚悟もしとけ。俺の家で。それじゃあ』
「おい、まっ」
ツーツーと電話が切れた音が俺の耳が拾う。え?まじで帰ってくるの?てか俺墓穴掘った??嘘だろ、本気で言ってんの?頭が軽くパニック状態になっている俺に、スマホがピコンと連絡を知らせる。
見てみると春千夜からだった。
『今日、明日と明後日休むって九井に言っとけ』
あ…終わったわ
終わり
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。