彼…レグと真っ正面で目が合う。そんなレグの瞳に思わずショウはたじろいでしまった。
大きい瞳孔はまるで此方側を引きずり込む様な……。一体、これをなんと現せば良いのだろうか?
……そう、まるで底無しの沼の様だ。
一度入ったら二度と抜け出す事が出来ない、底無しの沼。
その途端、彼と目を合わせてはいけない様に思えてしまい、思わずショウは目を反らしながら己の名を名乗ってしまう。
過ぎた後で、ショウは今更ながらも深く後悔した。
友好的な彼に向けて己はなんと失礼な態度を取ってしまったのだろう。と
せめてでもの償いと云うべきなのだろうか。
ショウはレグの差し伸ばされた手をそっと触れ、握手をしてみる。
人間にしては温もりの無い手の平。
彼は本当に人間なのだろうか?
ふと、そんな考えが浮かび上がってしまう。
しかしこれはあまりにも失礼だ。
そんな考えは胸の中に締ってしまおう。
レグは静かに微笑むと、後ろに待機しているライ達をチラリと覗く。
どうやら思った以上に興味があるようだ。
彼の視線に気が付いたライは目を細めながらも、わざわざレグの真っ正面に立ち、目を合わせるとショウに続いて名を名乗った。
レグは肩を竦めながら倒れているヒューマロイドを一瞥する。
そして深く溜め息を着いた。
どうやら悩み事があるようだった。ショウ達は思わず顔を見合わせる。
どうやら嫌な予感は的中していたようだ。
ヒューマロイド。
彼の口からこの単語が出るとは予想しておらず、思わずショウは分かりやすく反応してしまった。
そんなショウにライは迷いも無く、肘鉄を食らわす。
先程の反応はだいぶ不味かったらしい。
この際、たじろぐ事無く、はっきりとそうライは返した。
真っ直ぐな彼の答えと態度に、レグは感心したようにふ~ん、と呟いた。
レグのその一言で今度はハクトが明らかに反応する。
この同時にショウ達は悟った。
彼を敵にまわしてはいけない、と。
徐々に不穏な空気に流れていく中で、必死に話題を変えようと、ユイは我に返り慌てて疑問を口にする
それに…とレグは肩を竦めながらも言葉を続ける。
思わず再び顔を見合わせてしまう。
正直自分達自身も分かっていない事だったからだ。
答えに迷いながらもショウは正直に言う事にする。
彼はそこまで云うとこれ以上深追いする様な素振りは見せなかった。
配慮してくれたんだろうか?
彼なりの優しさにショウは少しながらも警戒が解けるような気がした。
ほっとしたのも束の間。
不意に聞き慣れない殺意も含まれた低い声が響いたと思いきや、見てみれば先程まで倒れていたヒューマロイドが此方を睨みながら立ち上がっているではないか。
しかしレグは状況を把握しつつも、慌てるような素振りを一切見せる事無く、涼しい顔でヒューマロイドと向かい合う。
ふと、レグがヒューマロイドの一言に反応する。
しかし彼とショウ達は一体、何の事を言っているのかさっぱり分からなかった。
人間なのか?と疑う点は幾つかあるが、実際根拠は無い。
ショウ達がレグの謎の台詞に疑問を抱く中、当の本人のレグは、殺意剥き出しの相手に向かって平然と背中を向けた。
…あるまじき行為だった。
そんなレグの大胆な行動に火が着いたのか、ヒューマロイドの表情が一層、険しくなる。
一部始終見ていた野次馬達は面白い展開になりそうだと思い込み、また一段と騒ぎ始めた。
これは不味い展開と成りつつある。
騒ぎ始める野次馬や殺意剥き出しのヒューマロイドを気にも止めずに不意に彼はライに声をかける。
実に淡々とした様子だった。
躊躇いも無く彼の口から出た言葉。
平然と先に居るヒューマロイドを指差しながら。
ライは一瞬目を見張るが直ぐ様彼の言葉の意味を理解し、何時もの様に面白そうに目を細めた。
怒涛の展開に追い付けないショウ達はただ、軽やかな足で前に出るライの背中を見送る事しか出来なかった。
相手がメイスを構える中、ライは背中にかけらている武器のグレイブを手に取ろうともせずに、徐々に距離を縮めていく。
見ている此方が緊張してきた。
不意にライが口を開く。
ケラケラと笑いながらライは肩を竦める。
しかし目は笑っていなかった。
まるでゴミを見る様な…汚物を見る様な…そんな目をしていた。
そんな彼の目にショウは若干恐怖を覚えた。
出会って初めて見た、彼の新しい感情だった。
平然を装いつつ彼は笑っているが、ショウから見た彼は、まるで怒りを無理矢理抑えている様に見えた。
鼻で笑う様にライは大袈裟に声を荒げながらも言葉を続ける。
ライの響く声でその場がシィン、と静まり返った。
野次馬達も静まり返った頃、暫く黙り込んでいたルチルは、怒りで震えた腕でメイスを再び構える。
火に油を注ぐ、とはまさにこの事であろう。
完全にライの思惑通りに動かされたルチルは怒り任せに距離を詰めると同時に、異常能力を発動させる。
勢いよく振り下ろされるメイス。
怒りと殺意だけが込められた単純な攻撃をライはひらりと簡単に避ける。
そのまま振り下ろされた乗ったメイスは、地面に勢いよく直撃した。
ルチルは一瞬衝突した衝撃で鈍い顔を浮かべる。
しかし続け様に追撃を試みようとメイスを再び振り上げると今度は横に振り払った。
狙いは腹部。ライは軽く屈むと高く跳躍し、またもや彼の攻撃を避けた。
そしてついでと言わんばかりにライはルチルの顔面に向けて回し蹴りを食らわせる。
ルチルは大きくよろけ、一度距離を取った。
そんなルチルに更に追い討ちをかけようとライはニヤリと笑う
再びルチルが先制攻撃を始めようとする。
しかし何度も振り下ろしても、何度もフェイクをかけても一度もライに攻撃が届く事は無かった。
むしろ掠りもしなかった。
徐々に体力が一方的に削れていく中、ルチルの体にも異変が現れてきた。
ふと、遠くで見ていたハクトがルチルの異変に気が付く。
ライとルチルの戦いに唖然としていたショウ。
何故ライは防戦一方で通しているのだろうか?
何か企んでいるのだろうか?
軽快に攻撃を避け続けているライをショウはしっかり観察する。
特に何か変化は無い。
果たしてどんな展開になるのか。
若干胸騒ぎを覚えながらもショウは目を反らす事無く、彼らの戦闘を眺めていた。
その時だった。
遂に体力的や精神的にも限界を迎えたのか、ルチルは大きくメイスを振り上げると雄叫びを上げながらライに向かって振り下ろした。
何度も似た様な攻撃。
今度も避けられるだろうと思ったが、しかし。
ライは何時もの様に避けずにただ己に向かって振り下ろされているメイスを眺めているだけだった。
思わずショウは声を上げてしまう。
その同時だった。
タイミングをまるで見計らっていた様に、メイスに触れるで直前ライはバックステップで躱す。
またもやメイスは床に衝突する。
その同時にその場で嫌な音が響き渡った。
『ギシャアアァアァアッッ』
ルチルは悲惨な光景を見て、目を見張る。
ルチルだけでは無かった。
その場に居ると野次馬も。ショウ達も目を見張った。
細かい機械の破片が辺りで飛び散る。
地面に落ちた際に、軽い金属音が響いた、
それと共にルチルが先程まで握っていたメイスもゴトリと重い音を立てて地面に落下する。
ルチルは大きくよろけながらも後ずさった。
あまりにも衝撃的な展開だった。
思わずショウは息を飲む。
彼はたった今、"壊れたのだ"。
…いや、"自ら壊れに行った"…に近いだろう。
異常能力の使い過ぎによって起こる副作用で、一撃一撃が積み重なって行き、知らぬ内に体が衝撃に耐えられずに徐々に崩壊が始まってしまっていたのだ。
怒りと殺意と異常能力によって込められた強力な攻撃は、自らを滅ぼす程の威力だったのだ。
もし、一撃だけでも諸に貰ってしまっていたら、ただ事では済まなかった無かっただろう。
…もしかして彼は危険を承知の上でこれに賭けたのだろうか?
だとしたら相当な勇気が必要だ。
まずショウには出来無い戦い方だった。
両腕を失った事で戦う事すらも出来無なってしまったそんなルチルにライは首を傾げる。
ルチルの反応を面白がりながらもライは地面に落ちたルチルの壊れた腕を拾い上げる。
それと共に彼に向けて一言放った。
腕を放り捨てながらライはまた目を細める。
実に愉快そうだった。
しかし、ただ睨む事しか出来無いルチルは、絶体絶命に近い状況だった。
なんとしてもこの状況から抜け出さなければ。
徐々に詰め寄ってくるライに次第に焦りながらもルチルは言葉を探す
冷ややかな笑顔を浮かべながらライはルチルの頬を殴り付けると、倒れ込んだ彼に更なる追い討ちをかけようと馬乗りになる。
そうしている内にも、ルチルの言った通りなのか何処かで甲高い悲鳴が響いた。
野次馬達は何事か!と悲鳴を聞きつけ、また騒ぎ始める。
そんな中、レグはライの元へと歩み寄る。
慌てて我に返ったショウ達は、レグの後に続いた。
レグの言葉を返しながらもライは再びルチルの顔面を殴る。
諸に攻撃を貰ったルチルは、簡単に延びてしまった。
そんな彼を一瞥しながら、満足そうに立ち上がりレグと再び向かい合う。
清々しい表情であった。
レグは空を見上げながら言葉を続ける。
今度こそレグと目が合った。
しかし今度は目を反らさなかった。
しっかりと彼の瞳を見た。
そうしないと駄目な気がしたからだ
ショウ達は暫し顔を見合わせた。
☆
一方、アメストリア帝国と対するバスカルト帝国のバスカルト研究所では最近のアメストリア帝国の動きについて話し合っていた。
不意に青年がヒューマロイドの、と言う単語を聞いた途端、明らかに表情が曇る。
彼の言葉にただ彼女…ベロニカ・アイネは頷くことしか出来なかった。
突然背を向けたと思いきや青年、シリウス・ロイナーは歩き始める。
そんなシリウスに、慌ててベロニカは後に続いたのであった。
少しずつも運命の歯車が狂い始めている。
ーENDー





















編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。