第19話

お守りの段
275
2025/05/04 08:00 更新
春の気配が忍術学園の空気にうっすらと混じり始めたある日の朝。
朝露がまだ草の上でキラキラと光っていて、鳥のさえずりさえまだどこか眠そうに響いている。

そんな時間に、あなたの下の名前はひとり訓練場の裏手にいた。
いつもなら生徒たちの元気な声が聞こえる場所も、今はまだ静まり返っている。
あなたの下の名前は、手のひらに収めた小さなお守りを見つめた。

手縫いで夜な夜な作ったそれは、少しだけ縫い目が歪んでいるけれど、どこよりも想いがこもっていた。
(なまえ)
あなた
渡せるかな……
つぶやいた声は風にさらわれ、木々の葉のざわめきに紛れて消えた。

やがて、足音が一つ、二つ。軽やかに近づいてくる。
竹谷八左ヱ門
あ、いた! おーいあなたの下の名前!
振り返ると、竹谷が任務の支度を済ませてこちらに向かってきていた。
いつもの笑顔、だけどどこかキリッとしていて、少しだけ、距離を感じる。
今日、彼は外の任務に出る。危険が伴うやつだ。
(なまえ)
あなた
……早いね
竹谷八左ヱ門
へへ、気合い入ってっからな。あっちの班と合流するまで、時間かかるっぽいけどよ
(なまえ)
あなた
うん……そうだよね
あなたの下の名前は俯いたまま、なかなか言葉を続けられない。
竹谷は首を傾げる。
竹谷八左ヱ門
なんか、あったか?
(なまえ)
あなた
……ううん。えっと……
袖からそっと、お守りを取り出した。
桜の刺繍と、ふわっと香るほのかな匂い。
それをそっと差し出すと、竹谷は目を丸くした。
竹谷八左ヱ門
これ……?
(なまえ)
あなた
お守り。私が作ったの。下手だけど……その、任務、危ないかもしれないって聞いて……
竹谷八左ヱ門
お前が……!? マジで……!
竹谷は受け取ったお守りを見つめて、そっと親指で布をなぞる。
少し顔が赤い。
竹谷八左ヱ門
……へへっ、こういうの、初めてかも。手作りとか
(なまえ)
あなた
そ、そう? よかった……。少しでも、守ってくれたらなって……
竹谷は顔を上げて、真っ直ぐ夢主を見た。
その目はいつもより真剣だった。
竹谷八左ヱ門
お前って……さ、ほんっと、すげぇよな。優しくて、強くて……何でもできるのに、こういうのもちゃんとできんだもんな
竹谷八左ヱ門
ありがとな。マジで。すっげぇ嬉しい。……絶対、大事にする。任務、ちゃんと生きて帰ってくるから
あなたの下の名前はうなずいた。
(なまえ)
あなた
気をつけてね
竹谷は頷いて、ポケットにそっとお守りをしまいながら、背を向ける。

でも、その背中はどこか名残惜しそうで、少し歩いたところでふと振り返った。
竹谷八左ヱ門
……なあ、帰ってきたらさ。なんか食いに行こうぜ。甘いもんでも。お礼も言いてぇし
(なまえ)
あなた
……うん
笑顔を交わし、竹谷は行った。

あなたの下の名前は、その背中が見えなくなるまでずっと立ち尽くしていた。

風が通り過ぎていく。彼の胸の中で、お守りが小さく揺れた。

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