先生が眉間を指でキュっと摘まみながら
「お前は残酷だね」
いつか聞いた台詞を呟く。
「......オレはお前と居たら自分を制御できなくなるって言ったの、覚えてる?」
「...はい...」
「そんな顔するんじゃねーよ、理性無くなんだよ」
「え...」
「今までの我慢が台無しになるだろうが」
いつもより乱暴な言葉遣いに、こんな時なのにドキっとして
一度ドキっとした胸は、どんどん早打ちになる。
「オレの気持ちも知らないで」
先生の目が、ジロリと私を見た。
「お前、ムカつく」
何か答える隙なんてくれない先生に手首を掴まれて、今来た道を逆戻り。
「先生...!」
「......」
「先生、ごめんなさい、あのっ...」
「......」
私を引っ張りながら早足で歩く先生の後姿に声をかけても、振り返ってくれないどころか返事すらしてくれない。
何が何だか分からなくて、涙も引いた。
先生の早足に小走りでついて行くので精一杯。
ほんの数分前に飛び出した部屋のドアを先生が開けて、強めに背中を押され玄関に入ると
後ろ手に鍵を締めた先生が、私の鞄を奪うように取りあげて床にボスンと置いたと思ったら
私の頭の上で両手首を先生の手でまとめられ、ジッと見詰められた。
...まただ...またこの表情...
辛そうなのに、悲しそうでは無くて
だけど、その中に全然知らない色を感じる。
ジリ...とにじり寄られて少しづつ後退すると、私の背中は玄関の壁にトンとぶつかった。
「逃げんなよ...」
私の肩におでこを乗せて、先生が小さな声で話す。
「...逃げたんじゃないです...」
「あんなの追い掛けるしかねぇじゃん...」
「...面倒臭い、ですよね...」
「面倒臭いわ、追いかけっこなんて。嫌いだわ」
顔を上げない先生の柔らかい髪を見る。
押さえられてる手首が、少し痛い。
「...駆け引きなんか、あなたには出来ないの分かってんのにな」
「...先生...」
「いっつも真っ直ぐ過ぎて、相変わらず真っ白で...もう、オレ...」
「......」
やっと顔を上げた先生の鼻と、私の鼻の先が触れた。
「限界なんて、とっくに超えてんだよ...」
ハァ...と息を吐いた先生の消えそうな声。
「でも汚したくなくて、...オレはね、簡単にお前を汚せるから」
「......」
「綺麗に大人にしてやりたいって、ずっと考えてたんだ...なのに...」
先生が、私の唇を甘く噛んだ。
痛くは無いのに、ジンと痺れる。
「お前は、残酷だね」
唇に、先生の熱を感じた。
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。