第36話

届かない js
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2026/07/04 15:00 更新



スングァンの治療が終わる頃には、

少しずつみんなも落ち着いて。

だけど、誰もいつもみたいにはいかなかった。

静かすぎるほどの空気が痛くて。


sg
今日はお風呂無理かな



包帯を巻き終えながら、

スングァンが小さく呟く。

足は固定されている。

羽にも傷があった。

身体中に包帯。

やっと傷が治ってきたところだったのに。

痛々しいなんて言葉じゃ足りなかった。


sg
無理させないでね
js
うん



僕は頷いて、

あなたを抱き上げる。

もともと軽かった身体が、

さらに軽くなった気がした。

心の分の重さがなくなりでもしたみたいに。



部屋へ戻る。

あなたは何も言わない。

暴れもしない。

泣きもしない。

ただ静かだった。


js
あなた、綺麗にしてあげるね



ベッドに座らせて、

濡らしたタオルを取りに行く。

少しでも綺麗にしてあげたかった。

顔や体を拭く。

それから羽。

ゆっくり。

傷に触れないように。

白かった羽は、

汚れと血でところどころ固まっていた。

タオルが赤くなる。

その光景に胸が苦しくなる。



僕は花畑の日を思い出した。

太陽の光を受けていた羽。

風に揺れていた羽。

あの日、確かにあなたは笑っていた。

なのに今は。


js
……



言葉が出ない。

視線を落とせば、

どこを見ても包帯ばかりで。

細い身体を覆う白い布。

その下にある傷を想像してしまう。



苦しかった。

守るって決めたのに。

助けるって言ったのに。

結局また、

こんな目に遭わせてしまった。

気付けば涙が落ちていた。


js
ごめんね



こんな風に謝ったって、

あなたの傷が癒えるわけでもないのに。


js
守れなくて



そっと抱きしめる。

壊れてしまわないように優しく。

だけど、あなたが抱き返してくれることはない。

ただそこにいるだけ。


js
……



これ以上ここにいたら、

もっと泣いてしまいそうだった。

僕はゆっくり身体を離す。

毛布を掛けて。

乱れた髪を整えて。


js
おやすみ



返事はない。

それでもそう言って、

部屋を後にした。



リビングへ降りる。

電気は点いていた。

ソファにはジョンハンが座っている。

僕を見るなり、

少しだけ眉を上げた。


jh
泣いたの?
js
だったら何



思っていたより

刺々しい自分の声に恥ずかしくなる。

だけどジョンハンは何も言わない。

ただ少しだけ視線を逸らした。

僕はジョンハンの隣に座る。

しばらく沈黙が続いた。


js
……許せないよ
js
あんな風になるまで、



ぽつりと零れる。


jh
そうだね
jh
……きっとみんな
殺してやりたいって思ってるよ



ジョンハンの横顔をみる。

目には静かに怒りが燃えていて。


jh
だけど、なによりも
jh
あなたが元気になることが先だろ



分かっているんだ、自分でも。

今はあいつらに構ってる暇なんかない。

あなたのことだけを考えて動くべきだって。

今あいつらに何かしようとするのは無謀だ。

それでも有り余るほどの

悔しさと怒りの行き場がどこにもなくて。


js
……やっぱり、
js
あなたがあんな風になったのは
記憶が戻ったからなのかな



実験についての資料を見ていたときに、

苦しそうにしていたあなたを思い出す。

もし、全て思い出していたなら、

どんなに苦しかっただろうか。



jh
かもね



静かな返事。

ジョンハンは少し考えてから言った。


jh
……でも、それだけかな



ジョンハンが視線を落とす。


jh
攫われた時
jh
父親の話してたじゃん



その言葉に、

僕は顔を上げた。

防犯カメラの映像の中で、

男が言っていた。

“お父さんが探している”

あの言葉。



js
……



胸の奥がざわつく。

ジョンハンも同じことを考えていたらしい。


jh
研究所の責任者
jh
もしかしたらあいつは、
jh
……あなたの父親かもしれない



息が止まりそうになった。

もし本当にそうなら。

あなたは。



実の父親に。

閉じ込められて。

傷付けられて。

実験されて。

利用されて。

あげく、用済みだと言われて。



js
そんなの……



言葉にならない。

ジョンハンも何も言わなかった。

部屋のある方を見る。

人形のようなあなたの姿だけが浮かぶ。


jh
どんな、気持ちだっただろうね



僕は答えられなかった。

あなたの傷は、僕たちが想像していたより

ずっと深くて、酷くて。



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