部屋の机に広げられた紙を、
僕はぼんやりと眺めていた。
花畑の日のスケッチ。
それから、あなたが描いた絵。
拙い線で描かれた花や、
僕たちの姿。
僕は一枚の紙を手に取った。
そこには、
花冠を被ったジュニヒョンと、
その隣で少しだけ笑っているあなた。
思わず目を閉じる。
最初に会った頃のあなたは、
何も知らなかった。
言葉も。
笑い方も。
誰かと一緒にいることも。
だけど少しずつ色んなことを覚えて。
名前を呼ぶようになって。
笑うようになって。
自分から話しかけるようになって。
花畑では、あんなに楽しそうだった。
なのに今は。
あの日よりもずっと遠くにいる気がした。
胸の奥が苦しくなる。
その時、スングァンの言葉を思い出した。
『今は心を閉ざしてる状態だと思う』
『無理に思い出させないで』
『安心させてあげて』
僕たちが焦ったところで、
あなたは戻ってこない。
僕は机の上のスケッチブックを手に取った。
そして部屋を出る。
あなたの部屋の前。
ノックをするけど、返事はない。
分かっていた。
それでも僕はドアを開けた。
部屋の中は静かだった。
ベッドの上に座るあなた。
窓の外を見ている。
振り向きもしない。
僕は椅子を引いて、
ベッドの横に座った。
スケッチブックを開く。
ページをゆっくりめくった。
花畑の日。
みんなで撮った写真を元に描いた絵。
花冠をつけたジュニヒョンと
笑っているホシヒョン。
花を抱えているあなた。
小さな花の絵。
少し歪だけど、
一生懸命描いたのが伝わる。
返事はない。
でも僕は気にせず続けた。
窓の外を見たままのあなた。
何も返ってこなくても、
それでもいい。
今のあなたにとってそれが最善なら。
いつかきっと、大丈夫になるから。
ページを閉じる。
そして、僕はあなたを見た。
痩せた身体。
包帯だらけの腕。
少し動くだけでも痛いはずなのに、
まるで何も感じていないみたいだった。
その姿が苦しくて。
僕の声だけが寂しく響く。
風がカーテンを揺らした。
白い髪がさらさらとなびく。
優しく。
ゆっくり。
言い聞かせるように。
その時だった。
ぽたりと何かが落ちる。
あなたの頬を伝うものが見えた。
涙だった。
表情は変わらない。
声も出ない。
瞳も相変わらず虚ろなまま。
だけど止まらない涙。
助けてから初めてだった。
何も感じていないわけじゃなかった。
全部消えてしまったわけじゃなかった。
あなたはちゃんとここにいる。
僕はそっと頭を撫でた。
柔らかい髪。
何が変わっても、あなたはあなただから。
声が震えそうになる。
それでも笑った。
返事はない。
だけどきっと大丈夫。
泣けるなら。
苦しいって思えるなら。
まだきっと、戻ってこられる。
僕たちはずっと待ってるよ。
何日でも。
何ヶ月でも。











編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。