突然の拓の言葉に思考が止まる。
俺と自分を指差して言う。しばらく瞬きを繰り返した後
喉の痛みも忘れ、そう大声を出しながら飛び起きた。拓を突き飛ばしたわけではないので、拓もゆっくりと起き上がる。
驚きすぎて風邪も吹っ飛んでいったと思う。頭痛も咳もなくなった。ただ今は拓が急にあんなことを言い出した理由を考えるのに必死だった。
なんとなく正座になり拓の話を聞く状態を整えた。
少し頬を膨らませて拗ねると拓は「ごめんごめん」と言いながら、手を重ね俺の顔を覗き込む。
貴杉さんが言っていたことを思い出しながら、頷く。
そういえば拓ってバイトしてたっけ?と思いながら、続きを聞く。
目を逸らしながら拓が言い終わる。口元は「あはは...」と笑っているが、目が焦っているように見える。
拓が住める部屋がないわけではない。逆に拓が住んでくれた方が空き部屋もなくなり、俺も罪悪感はなくなる。ただ俺の唯一の不安は、四六時中拓と同じ屋根の下で暮らすのに俺が耐えられるかということ。
しばらく考え込む。頭の中で、メリットとデメリットを天秤にかけた。ユラユラと揺れていた天秤だが、心のどこかで拓と一緒に居たいという気持ちがあったのかメリットの方に天秤が傾いた。
納得したようにベッドの反対側に固まって置かれている布やら針を見ていた。
今までこんな話をしたのは、筒深兄妹以来だ。
得意なことを聞かれて、迷いながらもさっき拓に言ったことを話した。
ひなちゃんにコスプレーヤーの人達の写真を見せてもらった時、そのキャラになりきっている姿や幸せそうな表情を見て、自分もその手助けをしたい、喜んでもらいたいと思った。
拓は、携帯を取り出し何やら弄っている。
携帯を弄りながら言われても、説得力ないと思っていると再び拓が声を上げた。
拓が見せてきたのは、リングでの俺のアイコン。何枚か完成した服の写真が投稿されている。
しゅんとする拓を見て、理由はないが罪悪感が生まれる。
そう言えば目を潤ませて抱きついてきた。
突然の言葉に照れそうになるが、返事を返す。
ぐううぅぅ
恥ずかしさから八つ当たりのように拓に言う。
そう言って、部屋を出ていく拓は宝物を見つけた子供のような足取りだった。
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。