第65話

提案
153
2023/03/24 06:11
突然の拓の言葉に思考が止まる。
湊斗
一緒に暮らす?誰と誰が...?
風峰
俺と湊斗
俺と自分を指差して言う。しばらく瞬きを繰り返した後
湊斗
はぁ!?
喉の痛みも忘れ、そう大声を出しながら飛び起きた。拓を突き飛ばしたわけではないので、拓もゆっくりと起き上がる。
湊斗
えっ?なんで?は?
風峰
アハハ。混乱してるね
湊斗
当たり前だろ!
驚きすぎて風邪も吹っ飛んでいったと思う。頭痛も咳もなくなった。ただ今は拓が急にあんなことを言い出した理由を考えるのに必死だった。
風峰
順を追って説明するね
湊斗
あぁ。そうしてくれ...
なんとなく正座になり拓の話を聞く状態を整えた。
風峰
湊斗、色々巻き込まれたりするし今日みたいに連絡ないと心配だから
湊斗
別にそんなに巻き込まれてないし...
少し頬を膨らませて拗ねると拓は「ごめんごめん」と言いながら、手を重ね俺の顔を覗き込む。
風峰
まぁ、それも1つの理由なんだけどね。俺も1人暮らしっていうのは湊斗も知ってるでしょ?
湊斗
あぁ...うん
貴杉さんが言っていたことを思い出しながら、頷く。
風峰
それで家賃とかは親が払ってくれてるんだけど、色々事情があって俺は大丈夫って言っちゃってさ。妹もいるし大変だろうなって
湊斗
妹いたのか...
風峰
うん。今中学3年生なんだ〜
湊斗
へぇ〜。なら、結構大変なんじゃないか?親御さん
風峰
うん。そうみたい。だから、これからは自分で稼ぐって親の意見を押し切って決めたんだけど...
湊斗
...?
そういえば拓ってバイトしてたっけ?と思いながら、続きを聞く。
風峰
今までバイトはしたことはあるんだけど、長続きしなくて...家賃が結構危ないんだよね
目を逸らしながら拓が言い終わる。口元は「あはは...」と笑っているが、目が焦っているように見える。
湊斗
それで俺の家に住もう、と?
風峰
うっ...ソノトオリデス
拓が住める部屋がないわけではない。逆に拓が住んでくれた方が空き部屋もなくなり、俺も罪悪感はなくなる。ただ俺の唯一の不安は、四六時中拓と同じ屋根の下で暮らすのに俺が耐えられるかということ。
湊斗
うーん...
しばらく考え込む。頭の中で、メリットとデメリットを天秤にかけた。ユラユラと揺れていた天秤だが、心のどこかで拓と一緒に居たいという気持ちがあったのかメリットの方に天秤が傾いた。
湊斗
...いいよ
風峰
ほんと!?
湊斗
うん。...ただし!家賃は半分出せよ?
風峰
それはもちろんっ!あっ、でも湊斗も大丈夫なの?湊斗って、バイト...
湊斗
あぁ、俺は仕事してるよ
風峰
へぇ......えっ!?仕事!?
湊斗
うん
風峰
どんな!?
湊斗
服作り。リングで依頼されたコスプレの衣装を作ってるんだよ
風峰
あぁ...それでマネキンとか布とか服作りに必要なものがあったのか
納得したようにベッドの反対側に固まって置かれている布やら針を見ていた。
風峰
ていうか、コスプレ?
湊斗
うん。昔からなんていうか...裁縫とか料理とか女が得意そうなことばっか出来て...
今までこんな話をしたのは、筒深兄妹以来だ。
湊斗
まぁ、それでひなちゃんが昔からアニメが好きなんだけどね...ひなちゃんの家に行った時に仕事の相談をしたんだ
得意なことを聞かれて、迷いながらもさっき拓に言ったことを話した。
湊斗
茜ちゃんや和も居て、皆で考えてた時にひなちゃんが、コスプレの衣装作りはどうかなって言ってくれてさ
風峰
ほぉほぉ
湊斗
コスプレしたいって人は多いけど、自分が思っている服がないとか金がとかで諦める人が多いらしくて
ひなちゃんにコスプレーヤーの人達の写真を見せてもらった時、そのキャラになりきっている姿や幸せそうな表情を見て、自分もその手助けをしたい、喜んでもらいたいと思った。
湊斗
それでひなちゃんに頼まれたキャラの衣装を初めて作って、意外と上手く出来て...それから、コスプレ衣装を作るのを仕事にしたんだ。...って、聞いてるか?
拓は、携帯を取り出し何やら弄っている。
風峰
聞いてるよ。...あっ!
携帯を弄りながら言われても、説得力ないと思っていると再び拓が声を上げた。
風峰
これ?
拓が見せてきたのは、リングでの俺のアイコン。何枚か完成した服の写真が投稿されている。
湊斗
は!?なんで、調べてっ!
風峰
だって、見せてって言っても見せてくれないでしょ?
湊斗
それは...
風峰
図星じゃん...
しゅんとする拓を見て、理由はないが罪悪感が生まれる。
湊斗
...これから実物見ればいいだろ...
風峰
え?
湊斗
仕事はここでするし...一緒に暮らすなら見れるだろ?
そう言えば目を潤ませて抱きついてきた。
湊斗
た、拓?
風峰
やっぱり湊斗のこと大好きっ!!
湊斗
お、おう...
突然の言葉に照れそうになるが、返事を返す。
ぐううぅぅ
湊斗
...!
風峰
湊斗...お腹空いた?
湊斗
〜っ!そ、そうだよ!朝にバナナ食べてそれから何も食べてないんだから!!
恥ずかしさから八つ当たりのように拓に言う。
風峰
そっかそっか。お粥あるけど食べる?
湊斗
......食べる
風峰
ん。じゃあ持ってくるね
そう言って、部屋を出ていく拓は宝物を見つけた子供のような足取りだった。

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