第64話

これは熱のせい
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2023/03/23 10:35
額に伝わる冷たい感触に目が覚める。
風峰
あっ!湊斗起きた?
最初に目に入ったのは、俺を覗き込む拓だった。
湊斗
た、拓!?
どうやって入ってきたのか、何をしているのか聞きたいことは山ほどあったが、驚きすぎて上手く言葉が出てこない。俺の驚く姿に疑問を浮かべた後、すぐに納得した顔になった。
風峰
やっぱり寝惚けてたのかぁ
湊斗
えっ、何が...?
風峰
んー?なんでもなーい
湊斗
いや、俺なんか変なこと言ってた?
風峰
変なことは言ってないよ〜
記憶を探るが、自分にとって都合のいい夢を見た記憶しかない。拓が部屋に居て、素直になってみたけど結局自分の嫉妬をぶつけただけで...と思い出している内にあることに気づいた。恥ずかしさや照れから顔がどんどん熱くなっていく。
湊斗
わ...忘れて......
風峰
えっ?
湊斗
ぜん、ぶ...思い出した、から...
風峰
えぇー...
残念そうに声を漏らした後、考え込んでいるような間があった。
風峰
やだ
キッパリと言う拓に少しイラッとして、壁の方に向けていた顔を勢いよく拓の方に向ける。
湊斗
やだってお前なっ...!
振り返った途端、片手で顔を挟まれる。行動の意図が分からず、黙っていると拓が口を開いた。
風峰
やーっとこっち向いてくれた
離さないと言うように手をしっかり掴まれる。
風峰
なんで俺の方見てくれなかったの?
湊斗
見て、た...
そう言いながらも手を離された顔は、拓の足元を向いている。
風峰
......
しばらく黙っていた拓は急に俺の肩を掴み、ベッドに押し倒す。
湊斗
えっ?はっ?
俺が混乱している間に拓はベッドの上に乗り、顔を挟むようにして両手を置く。所謂床ドン状態だ。
湊斗
た、拓...?
風峰
これだったら嘘つけないかなって
湊斗
えっ、いや...あの...
嘘をつくどころか話すことすら出来ない。床ドンというものに慣れていないのもあるが、恥ずかしすぎる。顔を逸らそうとしてもずっと上から見つめられているから、逸らし辛い。
湊斗
拓に...風邪、移るじゃん......
風峰
えっ?
拓の顔を見上げれば、それだけ?と言いたそうな顔をしている。
風峰
俺に移したくなくて...?
湊斗
そうだってば...
少し拗ねているような言い方で言うと拓がの顔が近づいてくる。
湊斗
ちょっ!たっ...!
風峰
いいよ
湊斗
え?
動けば唇が触れるというところまで来て、そう言う。思わず目を瞑っていたが、拓の言葉に目を開けた。
風峰
移していいよ
湊斗
どういう...
風峰
湊斗に移されるなら別にいい
湊斗
なっ...
驚きで言葉を失っていると拓にこつんと額同士をぶつけられる。
風峰
どうする?
湊斗
拓に移ったら...
もう熱のせいにして...
そう自分の中で言い訳をして、拓の目を見つめた。
湊斗
俺は...寂しい......
風峰
!?
拓は俺の予想外の言葉に驚いている。離れるかと思いきや俺に乗ったまま倒れ込む。
湊斗
拓...!俺、病人っ!ゴホッゴホッ...
大声を出したせいか咳が出る。それでも拓は退かずに俺の顔を真横から覗いている。
重いし、絶対悪化した...!
風峰
なぁ湊斗
湊斗
な...に......
咳で少し喋るだけでも痛いが、声を絞り出す。拓は、俺の頬に手を当てながら話を続けた。
風峰
一緒に暮らさない?
湊斗
...は?

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