第63話

甘え#風峰
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2023/03/23 13:29
放課後になり、ひなちゃんにメールを送る。
筒深
あっ!拓くん!
送って数分経ってから、ひなちゃんが教室に顔を出した。鞄を持って、扉の方に歩いて行く。
筒深
はい!これが頼まれていたものだよっ
そう言って、渡されたのはピンクの鈴がついた鍵。
筒深
場所はメールした場所ね!
「じゃあね〜」と手を振って帰っていくひなちゃんを見送っていると、夏目達が後ろから覗き込む。
青野
どこの鍵?
ん?秘密☆
稲葉
どっか行くのか?
うん!俺も行かなきゃだから、また明日な〜
手を振って、注意されない程度で廊下を走って行った。
稲葉
どこ行くんだろうな?
青野
俺に聞かれても分からないよ
稲葉
でも予想は出来るだろ〜?
青野
...留沼の家だろ。メールからも分かるけど明らかに体調悪そうだったし
稲葉
あぁ...なるほど
納得した稲葉を見て
青野
部活行くぞ〜
鞄を持って教室を出て行った。
ここか
ひなちゃんに教えてもらった湊斗の家に着く。最初にインターホンを押すが、返事がない。
仕方ないよね☆
ひなちゃんから借りた合鍵を鍵穴に差し込む。
失礼しまーす...
玄関を開けて、中を覗く。見た感じリビングに湊斗は居ないようだ。
勝手に入り、部屋の扉を開けていく。空き部屋やお風呂など。数個目の扉を開けた時、湊斗がベッドの中で眠っていた。
湊斗の部屋かな...?
リビングには5個のマネキン、湊斗が眠っている部屋にはベッドの反対側に布やら針やらが固まって置かれている。他にもリビングの机や勉強机にはミシンが置かれていたりした。
起こすのも悪いので、静かに部屋を出ようとするとモゾモゾと布団が動いた。
留沼
拓...?
まだ眠そうな目をした湊斗が上半身を起こして、名前を呼ぶ。
えっ、あっ、その...これは...
怒られると思い、言い訳を考えていると湊斗が小声で呟いた。
留沼
夢か...
え?
聞き取れず聞き返すとフラフラした足取りでこちらに歩いてくる。
えっ⁉︎湊斗、安静にしてないと...!
そう言えば湊斗がフラッと倒れそうになる。
湊斗!
そのまま倒れれば針で怪我をしてしまう。慌てて湊斗を支える。
危なかった...
湊斗の方を見ると、キョトンとした顔をしてすぐに口角を緩ませる。
留沼
ありがと〜。拓
...!?
み、湊斗が素直...!?
驚いていると湊斗が俺の胸に頭を埋める。
み、湊斗?
留沼
もうちょっとだけ...
嬉しい!けど...
体調悪いんだろ?寝とかないと
そう言えば湊斗は頬を膨らませる。
かわいい...!!❤︎
固まりそうになるが、湊斗を抱き上げる。いわゆるお姫様抱っこ。暴れるかな?と思ったが、湊斗は大人しく抱かれていた。
湊斗、熱は?
留沼
38度越え...
えぇ!?動いちゃダメじゃん
湊斗のおでこに手を当てると確かに熱い。
昼ご飯は?
留沼
食べてない...
布団を顔の半分まで被り、呟くように言う湊斗。
薬は?
フルフルと首を横に振り、俺の方をじっと見つめる。
じゃあ、お粥作ってくるよ。そうは言ってもコンビニで買ってきたものだけどね
立ち上がって部屋を出ようとすると、裾を引っ張られた。後ろを振り返れば、湊斗が親を引き止めようとする子供のような表情を浮かべている。
留沼
行かない、で...
そう頼まれたら断れるわけもなく、その場に座る。
行かないよ
そう言えばホッとした顔をする湊斗。頭を撫でれば、気持ちよさそうな顔をした。
寝ようなぁ
留沼
ぁ...
手を離したら、残念そうな声を出した。
ん?
留沼
もっと...撫でてほしい...
湊斗が甘えてる...!
固まっていると湊斗が泣きそうな顔になっているのが目に入った。
湊斗!?
留沼
お、れ...拓に嫌われた...?もう...要らない?
急に湊斗にそんなことを言われて、混乱する。俺が湊斗を嫌うことはあり得ないし、そう思われるようなことをした覚えもない。完全ではないが、なるべく落ち着かせ怖がらせないような表情で聞く。
な、なんで?
留沼
だって...拓は女が好きだし...
ん?
留沼
俺じゃ、不釣り合いだし...
んん?
ちょっ、ちょっと待って...!
留沼
えっ...?
いや、まぁ女の子は好きだけど湊斗に向けてる好きとは全く違うし、湊斗は別に不釣り合いじゃないよ!?
留沼
で、でも...俺は嫉妬ばっかりしてるよ...?拓の元カノの話だって...拓が女と話してたら嫉妬するし...
湊斗の話には驚きもしたが、それ以上にただ「かわいい...」と思っていた。俺のために嫉妬して、不安になっている湊斗を可愛いと思う自分に軽蔑のような感情を向けながら湊斗に話しかける。
俺だって湊斗が女の子と話してたら嫉妬するよ?女の子だけじゃない。俺とは別の誰かとだって。ずっと俺のことを見てほしいって思っちゃう
留沼
そう、なの?
うん。エンスポの時だって湊斗が茜ちゃんと話してるの見て嫉妬したし、幼馴染に連れて行かれた時だって。だから、湊斗と一緒!
留沼
一緒...
目を輝かせながら、復唱する湊斗。
俺はどこにも行かないから今は寝て体調戻そ?
留沼
うん...!
俺の言葉に安心したのか湊斗はすぐに眠ってしまった。しばらく湊斗の寝顔を眺めた後、その場を立ち上がる。俺の手を握る湊斗の側にもう少し居たいが、お粥を作っておきたい。
すぐ戻るから
軽く頭を撫でれば頬を緩ませる湊斗に元気をもらいながら、部屋を後にした。
甘えてる湊斗可愛かったなぁ

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