帰るとまず飯を食べてから、自由に過ごしていた。
ソファに座って録画していたアニメを観ている拓の隣に座る。
そう聞けば拓はテレビの電源を切った。
1つ深呼吸をする。あの時のことを思い出しながら話し始めた。
♦︎中学2年
中学に入って2年間の間、俺は特に拓のことを意識していなかった。「よく話しかけてくる有名な女好き」。そんな認識。
でも、2年の夏休み明け。
拓とは別のよく話しかけてくる奴、新川。新川は拓の仲良くしたいというような話しかけではなく、俺を嵌めたいというような感じで話しかけてくる。
教室の真ん中で周りに聞こえる声で言う。周りから視線が集まった。
新川のその言葉で、周りが騒がしくなる。本人である新川は、一瞬ニヤッと口角を上げていた。
新川にぶつかるように転んできたのが、拓だった。
新川から離れた拓と目があって、何かが落ちた音が頭の中でする。
笑っている新川を真顔で見つめて、拓は言った。
新川は小さく舌打ちをした後、別の奴らと話していた。
歩いて行こうとする拓を引き止める。嫌がるわけでもなく振り向く。
その時の笑顔で俺は拓に惚れたんだって気付いた。
顔の前で大きく手を振り否定する拓。でも、しばらくして俺の話を思い出したのか「そっかそっか...」と1人で頷いていた。
ソファの上で三角座りをして、膝の上に頭を乗せ拓の方に向ける。
顔を下に向けていると拓が驚いた声を上げた。
あの時かよっ...
もう一度溜息を吐いてから、拓の膝に寝転がる。
拓に撫でられながら、意識を手放した。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!