第68話

病院
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2023/03/26 06:00
湊斗
病院...?
風峰
こっち
拓に手招きされ、1つの病室に入った。その病室は個室でベッドの上に1人の女の人が眠っていた。ベッドの上の名前プレートには、『風峰かぜみね 麗華れいか』と書かれている。
風峰...?もしかして...
風峰
久しぶり。"母さん"
湊斗
っ!?
拓の言葉に驚きを隠せない。
湊斗
拓...
風峰
ごめんね。ちゃんと言ってなくて
湊斗
いや...その...
どういう言葉をかければいいのか分からず、ただ黙っていると、拓が口を開く。
風峰
ほとんど昏睡状態なんだ。目が覚めても記憶が混濁していて...
拓のその説明に言葉を失った。「記憶が混濁」。それは、自分達との記憶を覚えていない時があると理解してしまったから。
風峰
ストレスが溜まって爆発したみたい。治るかは分からないって言われた
湊斗
そんな...
風峰
でも生きててくれてるなら、それだけいいんだ
そう言う拓の顔は泣きそうだった。
湊斗
......
何も言わずに拓の頭を撫でる。撫でようとは思っていなかったが、拓が暗い闇の中にいる独りぼっちの子供のように見えて、無意識のうちに撫でていた。
風峰
っ......今日は、さ...母さんにも伝えたかったんだ...
今にも泣きそうな声で言葉を紡いでいく。
風峰
一生大切にしたい人に...会えたよって...
湊斗
......
拓の目から一筋の涙が溢れた。それでも気にせず話を続けている。
風峰
だから...だから...っ
耐えきれず座り込む拓の背中を撫でながら、拓のお母さんに話しかけた。
湊斗
留沼湊斗です。拓と付き合っています。拓は優しくて、俺が持っていないものを持っている。でも完璧ではなくて...
拓のお母さんは動かない。でも、ちゃんと聞いてくれている気がして、伝えたいと思ったことを口にする。
湊斗
だから心配しないでください。拓のことは俺に任せてください
風峰
...!
湊斗
でも...拓の不安や悲しみを全て拭うことは出来ない。だから......焦らずに戻してください。赤の他人が無責任に言えることじゃないけど...お願いします
頭を下げた時、ピクッと手が動いた気がした。
風峰
た...く...
風峰
っ!母さん...⁉︎
勢いよく立ち上がり、ベッドの側まで拓は行く。目を瞑っている状態だが、口が少し動いていた。
風峰
良かっ...たね...
風峰
〜っ!
その後、再び口を開くことはなく眠っていたが、聞こえてきた声は温かく何もかもを包み込んでくれるような声だった。
風峰
ありがとう。湊斗
湊斗
ん?何が?
帰り道で拓から言われた言葉。お礼を言われるようなことはしていないので、疑問をぶつける。
風峰
母さんにああ言ってくれて。その...俺も嬉しかった
湊斗
...俺は素直に自分の気持ちを伝えただけ。それに...
風峰
それに?
湊斗
まだ伝えてないことあるし
顔を逸らさずに拓の目を見つめる。
湊斗
帰ったら...聞いてくれるか?俺が、拓を好きになった話
風峰
...!もちろん!!
俺が差し出した手をなんの戸惑いもなく掴み返す、拓と一緒に家に帰った。

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