俺が熱を出したあの日からよく家に拓が来るようになった。
あの後、結局目が覚めた頃には次の日になっていて、俺も熱が下がったので学校に行った。
日に日に拓の荷物も増えていくので、合鍵を渡すと、1週間に6回は放課後や朝から家に来るようになった。そして、今。拓が持ってきたソファに座らされ逃げないように肩を掴まれている。拓がなんでそんなことをしているかと言うと
最近分かったことは、意外と拓は独占欲が強いこと。青野や稲葉と話しているとそんなにないが、クラスメイトや他クラスの奴と話していると必ずと言っていい程話に入ってくる。
俺の腕を片手で掴み、俺の頸に近づいてきた。
頸に噛みつかれ、痛みが走る。すぐに離れるが、俺の頸を見て満足したような顔をした。
拓に噛みつかれた所を離してもらった手で押さえていると、鏡を見せられた。
手を離し、鏡に映る自分の頸を見る。噛み跡が頸にはっきりとある。
そう言いながら、物置に絆創膏を取りに行く。
大きめの絆創膏を持って行く。鏡を見ながら、噛み跡が隠れるように絆創膏を貼る。
絆創膏を理由もなく触る。
そう言って、「行こ行こ!」と俺の背中を押してきた。断る時間もなく、拓の家についてしまった。
2人...?
疑問はあったが、1つ深呼吸をしてから待ってくれていた拓に頷く。拓が玄関の扉に手をかけた。
毛先が金髪の髪をくるくると巻き、ポニンテールにしている女の子が出てきた。半ズボンに半袖の服。この子が拓の妹だろう。
拓と似た笑顔を浮かべ、「どうぞ」とリビングに向かうように促す。リビングには既に優しそうだが、どこか疲れた表情を見せる男が座っていた。
立ち上がり、俺の前に立つ拓のお父さん。
拓は頭に手を押さえ、溜息をため息を吐いている。
言い合いをしている拓達を置いて、俺の顔を覗き込んだ。
人の前でそう言うのは、恥ずかしくて顔を下に向ける。
少しビクッとなるが、怒っているわけではないことは分かった。
そう言いながら、俺を抱き締める。
拓のお父さんはそう言って出て行った。残された俺と拓、麗美さんの間で沈黙が流れる。
訳の分からない話をされ、俺の頭は混乱していた。
麗美さんとそんな会話をした後、拓が後ろから抱きついてくる。
詳しくことを教えられないまま、拓の家を後にした。そして、そのまま向かった先は......病院だった。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!