前の話
一覧へ
次の話

第6話

5話 君と二人で
9
2025/10/17 14:36 更新
夜明け前の空は、静かに白み始めていた。

二人は、郊外の無人駅にたどり着いていた。
始発まであと十五分。ホームには誰もいない。
カバン一つに詰めた日用品と、少しの食料。それが全てだった。
梨玖りく
でんしゃにのったら、もうもどれないね
梨玖の声は、ほんの少し震えていた。
それでも、その手はしっかりと悠斗の袖を握っている。
藍崎あいざき悠斗ゆうと
戻らなくていい。もう“あっち”には、俺たちの居場所はない
悠斗は優しく答えた。
梨玖が頷いた時、遠くから電車の音が聞こえてきた。

それは、終わりと始まりを告げる音だった。
列車の中は、ほとんど乗客がいなかった。
二人は一番後ろの車両に腰を下ろし、窓の外に流れる景色を見つめた。
梨玖りく
どこまでいくの?
藍崎あいざき悠斗ゆうと
行けるところまで
梨玖りく
ふふっ、なんだか、まえみたえほんの、ものがたりみたい
藍崎あいざき悠斗ゆうと
現実なんだけどな。めっちゃくちゃ怖いし
そう言って笑う悠斗に、梨玖もつられて笑った。
ほんの一瞬でも、笑える時間があることが救いだった。
やがて列車が峠を越え、山間の景色が広がっていく。
静かで、どこまでも続くような緑の中。
梨玖りく
ここならぼくたち、みつからないよ!たぶん!
藍崎あいざき悠斗ゆうと
そうだな。住めそうな場所があればいいんだけど…
悠斗はポケットから、小さな折りたたみ地図を取り出した。
印をつけた候補地が三つ。どこも山の中、電波も届かないような場所ばかりだ。
列車は小さなトンネルに入り、一瞬、世界が闇に包まれる。

けれどその手の温もりだけは、確かに隣にあった。

行く先は未定だ。
明日、捕まるかもしれない。
何年も逃げ続けることになるかもしれない。

それでも構わなかった。
藍崎あいざき悠斗ゆうと
大丈夫。世界中を敵に回しても、俺はお前の味方だ
梨玖りく
ぼくも!どんなせかいになっても、ゆーとのとなりにいる!
それは約束だった。

誰にも聞こえない場所で交わした、世界でたった二人の誓い。

やがて列車は、誰も知らない無人駅に静かに止まる。

二人は、手をつないだまま降りた。
澄んだ朝の空気が、体にしみ込む。

新しい一日が始まる。
正しさも、常識も、法律も、全部ない場所で。

でも、ここが――

二人だけの「正しさ」が、生きていける場所。

もう迷わない。

たとえこの世界が間違っていても。
いや、間違っているからこそ。

二人は、生きていく。
静かに、強く、そして――一緒に。

プリ小説オーディオドラマ