第5話

4話 逃避行
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2025/10/17 14:36 更新
それは、ほんの些細なことだった。

いつも通り学校から帰ってきた悠斗は、玄関のドアに小さな違和感を覚えた。
鍵の差し込み口に、わずかに引っかいたような跡。
藍崎あいざき悠斗ゆうと
(…気のせいか?)
でも、胸の奥に広がるざらついた感覚は、ずっと消えなかった。



藍崎あいざき悠斗ゆうと
ただいま
梨玖りく
おかえり!
リビングで、梨玖が元気に迎えてくれる。
けれど、その背後には違和感がもうひとつ。

カーテンが、ずれている。外から覗かれたような形で。

悠斗は無言で窓を閉め、鍵をかけた。
藍崎あいざき悠斗ゆうと
梨玖、今日、誰か来た?
梨玖りく
ううん。ずっと、しずかだった!
その答えに嘘はないように思えた。けれど、悠斗の心は不安でいっぱいだった。
藍崎あいざき悠斗ゆうと
(誰かが…気づいた?)
隠れていたつもりでも、学校での言動、日常の立ち振る舞い、なにかが漏れたのかもしれない。
世の中は、人外に対して過剰に敏感だ。もし梨玖の存在がバレたら――
梨玖りく
ゆーと?どぉしたの?
我に返ると、梨玖が心配そうにこちらを見上げていた。
藍崎あいざき悠斗ゆうと
ごめん。ちょっと疲れてるだけ。夕飯、作ろうか
梨玖りく
うん!
笑顔を返してくれる梨玖に、悠斗は胸が痛くなった。
その夜――。

パトカーのサイレンが、アパートの外を通り過ぎていった。

窓の外を覗くと、2軒隣の建物の前に、警官と私服姿の男たちが立っていた。
人外の捜索。対象は不明。

けれど、悠斗は理解していた。
藍崎あいざき悠斗ゆうと
(もう、ここにはいられない)
翌朝、悠斗は学校を休むと決めた。
そして、少し震える手で梨玖に言った。
藍崎あいざき悠斗ゆうと
準備しよう。今日の夜、この家を出る
梨玖りく
…ふぇ?
藍崎あいざき悠斗ゆうと
追われてる。お前じゃなくても、俺たちみたいな存在は、きっといつか潰される。なら……逃げよう。今しかない
梨玖は、怖がるでも泣くでもなく、静かに頷いた。
梨玖りく
うん。わかった。いっしょに、いこう!
それは、8歳の子どもにはあまりに重い決意だった。

でも、梨玖の目には、迷いはなかった。
夜。バッグに最低限の荷物を詰め、二人はアパートを出た。
人通りのない道を、裏道を、駅の反対側へと歩く。

街灯の下、梨玖がぽつりと呟いた。
梨玖りく
こわい?
藍崎あいざき悠斗ゆうと
正直、めっちゃ怖い。でも……お前がいるから、大丈夫だと思ってる
梨玖りく
ぼくも……ゆーとがいるから、だいじょーぶ
手をつないで歩くその先には、まだなにも決まっていない未来がある。
でも、それでもいい。

なぜなら、この逃避行は――二人で選んだ、二人だけの正しさだから。

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