
私はあなたの下の名前、駆け出しのシンガーソングライターだ。
今日は、サノス主催のライブハウスでの対バンイベント「Welcome to the Thanos world!」に参加していて、今ちょうど私の出番を終えたところだ。
パチパチパチパチ(拍手)
舞台袖に捌けると、主催者のサノスがマイクを持ってステージに向かう準備をしていた。
こっちに気づいて欲しくてじーっとサノスに目線を送っていると、パッと目が合った。
ちゃらけた笑顔でこちらにウインクを飛ばすと、ステージまで颯爽と歩いていく。
ステージに立った瞬間、数秒前に私にウインクしてきたサノスとは別人のようにプロのラッパーの表情に切り替わり、観客を煽り始める。
客席は歓声で溢れていた。
〜♪(前奏)
サノスが観客側にマイクを向けると、観客もしっかりレスポンスする。
私も舞台袖からずっと、ラップを披露しているサノスを見ていた。
サノスとは同じ事務所の同期で、やっている音楽のジャンルは全然違うが、とある打ち上げのときにふざけた者同士で意気投合して仲良くなった。友達としては5年目の付き合いになる。
しかし、私には誰にも言えずに秘めていることがあった。それは1年前からサノスに恋愛感情を抱いていることだ。
鈍感なサノスなので、本人すら全く私の気持ちには気づいていない。その証拠に、今日も私の目の前で可愛い女の子にナンパしに行っている。
わー…女の子ちょっと迷惑そう〜…
ここは私が止めに行こうか…
私はサノスを引っ張ってライブハウスを出た。
振り向くと、さっきサノスにナンパされた女の子がこちらに両手を合わせて軽く一礼する。
打ち上げは行きつけのクラブペンタゴンで催され、今日の対バンに出た人ほとんど全員が参加している。
アーティストとはいえ、サノスが呼び寄せた人たちだ。みんなお酒が好きなので、すごいペースで飲む人ばかりでにぎやかだった。
カウンターでナムギュさんと話しながらホールを見渡す。サノスはいつも通り、両サイドに女性アーティストを座らせて鼻の下を伸ばしている。
右隣には先ほどナンパされていたミナというアイドルが苦笑いで座っていた。
図星です…ええ、私隠すの比較的得意だから誰にもバレてないと思ってたのに〜…
ナムギュさんやるなあ…
ナムギュさんはおもむろに会場にあるマイクを2本取って、片方のマイクを使って話し始めた。
サノスは女の子たちに手を振って席を離れると、ホールの真ん中に立ち、ナムギュさんからマイクを受け取った。
すると次の瞬間、ナムギュさんからとんでもない提案が飛んでくる。
確かにナムギュさんの前で、たまにふざけてサノスとラップバトルしたことはあるよ?!でもアーティストさんたちの前ではしたことないって…!!とんだ無茶振りすぎる…!!
ええ〜…?!お酒入ってるからか周りも意外とノリ気じゃん…
〜♪(ヒップホップ音楽)
うわ、私の番だ…ここはいつものノリでとにかく思ったこと並べよう…
サノスに中指を立てて煽った顔をして見せる。
サノスは笑って髪をかきあげる。
サノスは私に手を差し伸べた。
笑い合って握手をする。
パチパチパチパチ(拍手)
すると、サノスが握手した手を引き寄せて軽くハグしてきた。タバコ混じりの香水の匂いがふわっと香る。
好きな人からのハグはもちろんドキッとしたが、彼にとっては誰にでもしていることなので何の意味もないだろう。
席に戻るとナムギュさんがニヤニヤしていた。
ナムギュさんはテキーラのショットを2つ持って、私とサノスに渡す。
ナムギュさんに煽られ、テキーラを一気飲みした。そこから少し酔いが回ってくるのが分かった。
まあそれはあるけどさ……同じ業界でやってく以上仕方ないよ……
あぶないあぶない、感心しかけてた…
でもラブソング作ったことなかったし、歌の幅を広げる良いチャンスではあるな…ナムギュさんの提案、アリ…!!
気づいたら誰かの背中の上で揺られていた。ナムギュさんから飲まされすぎて後半の記憶が全くない…
焦って目を見開くと、紫の髪の毛が見えてサノスだということが分かった。
サノスは立ち止まって私の方を見た。
サノスは私をおんぶしたまま、再び進む。
サノスって一見チャラくて何も考えてなさそうに見えるけど、さりげなく気遣いができる人なんだよな…そういうところが好きだ…
って、待って!私あれから記憶ないけど、記憶がない間にサノスに変なこと言ってないよね…?!
あ、泥酔してもちゃんと隠し通せてる…!!私ナイス…!!
ナムギュさん、サノスの前でもそんなこと言って煽ったのか…グーパンは申し訳ないけど、それは殴られても仕方ない気がする…
えっ…?!何それ、どっちを答えるのが正解…?
「好き」って答えたらあんたどんな反応するの?でもここは本当に分からないから、危ない橋は渡らないで…
すると、サノスはハッと笑い出した。
サノス安心してる…ちょっと切ないけど、否定して正解だった〜…!!
サノスは手を上げてタクシーを止めた。そして、私を降ろしてタクシーに乗せる。
窓越しにサノスに手を振っていると、運転手がタクシーを進ませてどんどんサノスから離していく。
やっぱりサノスが鈍感で助かったし、切ないけどちゃんと気持ちを知ることができて良かった。
これからも近くにいれるだけありがたいと思って、この気持ちは冷めるまで胸の奥にしまっておこう。
私がせいぜいできることは、ナムギュさんのアドバイス通り歌にして発散することだけだ…
〜1ヶ月後〜
この日はサノスとの初めてのツーマンライブだ。
そして、私はこの日のためにある新曲を作っていた。
〜♪(前奏)
これはサノスへの気持ちを綴った歌だ。鈍感なアイツだからきっとこの程度では気づかないはずだ…と思い、この歌をサノス含む会場のみんなへ聴かせる。
本当はね、あなたが好き
最低なことを言っちゃってごめんね
ちょっとだけ素直になれない
思ってもないこと言っちゃってごめんね
本当はね、あなたが好き
余計なことまで言っちゃってごめんね
ちょっとだけ構ってちょーだい
面倒だなんて言わないで、ごめんね
照れ隠す子供みたいだ私
恥ずかしい気持ち全部捨てて
「今から会いに行ってもいい?」
メイクもヘアセットも全部あなたのため
あなた好みの可愛い女になりたいわ
意地張っちゃって強がっちゃって
嫌われてないかな?
本当はね、私もか弱い女の子
本当はね、あなたが好き
酔っ払ったふりして電話かけてごめんね
「本当はさ、寝れないんだろ?」
「そんなわけないわ」嘘ついてごめんね
照れ隠す子供みたいだ私
恥ずかしい気持ち全部捨てて
今から気持ちを伝えてみようかな
この前買ったあのファッション誌も
全部あなたのため
あなた好みの可愛い女になりたいわ
可愛い子ぶって上目遣いで
甘えてみようかな?
私だって、私だって
メイクもヘアセットも全部あなたのため
あなた好みの可愛い女になりたいわ
意地張っちゃって強がっちゃって
嫌われてないかな?
本当はね、私もか弱い女の子
本当はね、私気づいてほしかったの
パチパチパチパチ(拍手)
歌い終わり、拍手が鳴り響く。舞台袖に戻るとサノスが真っ先に話しかけてきた。
サノスは「やべっ」と笑い、ステージの方へと吸い込まれていった。
今日もまたサノスに嘘をつき、サノスは私の嘘に見事に騙される。でも今はそれで良い。
だって、関係が壊れる方が怖いから。本当は私も、か弱い女の子だもん。笑
〜END〜
NEXT▷▷「名前は片想い/indigo la End」
初めての試み、サノス落ちでした〜!いかがだったでしょうか…?
自分自身があまりサノスみたいな系統を好きになった試しがなかったので、どういう風に胸キュン要素を取り込もうかすごく悩みましたね〜💭
あとは、選曲も悩みました💭王道クズソング数曲も候補にあったのですが、それだと需要ない…?とか思ったり…
この作品の制作秘話としましては、私は完全ナムギュ推しなので、クラブペンタゴンでの情景を書いてる途中で「こっち(ナムギュ)とくっつきてえ〜」って何回もなっていました笑
というわけで、次回は「ナムギュとくっつきてえ」願望と、「他のキャラ落ちも書きてえ」願望の両方を叶えるべく、セミ・ナムギュの両方を相手にした曲パロを作ります!(まだ作ってない)
曲はindigo la Endの「名前は片想い」です!まさに同性愛の曲ですが、先に言っておくとセミと過剰にくっつくシーン(キス以上の表現)は考えてないので、腐表現(?)が苦手な方でも見やすい作品になると思います🙂↕️
仕事が始まったので、次の投稿はいつになるかわかりませんが、投稿した時は見てくれると嬉しいです💭












編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。