第2話

2三崎怜伊の事情
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2019/07/08 05:52
須崎 彩花(すざきあやか)
須崎 彩花(すざきあやか)
帰りまでに雨上がってくれてよかったよなあ。
そう言うと彩花は大きな水たまりを覗き込んだ。
三崎 怜伊(みさきれい)
三崎 怜伊(みさきれい)
まあ、そうだな。
正直天気なんでどうだっていいから適当な反応をすると、反応が冷たい、とふくれ面をされた。
そういうところが、愛くるしてたまらない。

須崎 彩花(すざきあやか)
須崎 彩花(すざきあやか)
なあ、ほんまに吹奏楽やめるん?
2、3歩先回りをして振り返った彩花の髪がふわりと揺れた。 
真っ直ぐ俺を見つめる視線のせいで返答に詰まってしまい、慌てて目を逸らした。
三崎 怜伊(みさきれい)
三崎 怜伊(みさきれい)
やめるよ。
須崎 彩花(すざきあやか)
須崎 彩花(すざきあやか)
なんで?
三崎 怜伊(みさきれい)
三崎 怜伊(みさきれい)
才能ないから。
あっそ、と彼女は背を向けてしまった。
中学のときよりも短くなったスカート、ポニーテールをほどいた髪、そして、ブラウスにうっすらとキャミソールの線が透けているのが見えて、自分の顔が赤くなっていくのがはっきりと分かった。
須崎 彩花(すざきあやか)
須崎 彩花(すざきあやか)
あ、先輩や!
彩花はあれだけ痛いと言っていたローファーの足で走り出した。
須崎 彩花(すざきあやか)
須崎 彩花(すざきあやか)
せんぱーい!
俺のことなんてお構いなしにスカートをひるがえして行った。
こんなの、中学からよくあることだった。

でも、彩花の走る背中を見るたび、
何度も何度も苦しくて悔しくなった。
三崎 怜伊(みさきれい)
三崎 怜伊(みさきれい)
おい彩花、そんな靴で走ったら転ぶぞ
余裕があるのを見せつけために…

わざとゆっくり歩いた。
わざと気だるげに話しかけた。
須崎 彩花(すざきあやか)
須崎 彩花(すざきあやか)
ええよ、そんなん
先輩が助けてくれるしー
ですよね、先輩、と彩花は兄貴を見上げた。
三崎 瑠伊(みさきるい)
三崎 瑠伊(みさきるい)
体が追いついたらねー
そう言うと兄貴はほわほわと笑った。
そういうところがむかつくんだ。
いかにもお人好しみたいな、誰にでも好意を振りまくような態度が嫌いなんだ。
三崎 怜伊(みさきれい)
三崎 怜伊(みさきれい)
兄貴はひょろいから無理だな
お前の重たい体は支えらんねーよ
須崎 彩花(すざきあやか)
須崎 彩花(すざきあやか)
はあー!?
これでも一応女子の平均やから!
三崎 怜伊(みさきれい)
三崎 怜伊(みさきれい)
助けて欲しいんならその態度やめた方がいいね、きっと
俺の言葉に、彩花はすっかり黙ってしまった。
言いすぎたかもしれない。

早くフォローを入れないと嫌われる。
でもなんと言えばいいかなんて分からない…
三崎 瑠伊(みさきるい)
三崎 瑠伊(みさきるい)
あはは、僕じゃ頼りないし
これから鍛えておくよ
三崎 瑠伊(みさきるい)
三崎 瑠伊(みさきるい)
怜伊、そんなからかい方はしない方がいい
はじめの言葉は彩花に優しく、
続く言葉は俺にだけ聞こえるように
少し冷たく言われた。
須崎 彩花(すざきあやか)
須崎 彩花(すざきあやか)
えへへ、じゃあ期待してます
須崎 彩花(すざきあやか)
須崎 彩花(すざきあやか)
ところで先輩…
冴山 桐子(さえやまとうこ)
冴山 桐子(さえやまとうこ)
瑠伊くん!
三崎 瑠伊(みさきるい)
三崎 瑠伊(みさきるい)
あ、桐子さん…どうも
桐子、と呼ばれたその女の人は
どうやら3年らしかった。

彩花は言いかけた言葉を飲み込んで、少し俯いてしまった。
冴山 桐子(さえやまとうこ)
冴山 桐子(さえやまとうこ)
2人は1年生?
瑠伊くんの知り合い?
大人しそうなその人は俺たちの方をゆっくりと見た。
三崎 瑠伊(みさきるい)
三崎 瑠伊(みさきるい)
えっと、弟の怜伊と
同じ中学だった須崎さん
彩花は小さくお辞儀をした。
どうやら緊張しているらしい。

それと、あと、これは俺の勘だけど、
勘であって欲しいことだけど、

彩花はその先輩にヤキモチを
やいているように見えた。
冴山 桐子(さえやまとうこ)
冴山 桐子(さえやまとうこ)
そっかあー
私、吹部の冴山です
よろしくね、と笑顔を向けた。
冴山 桐子(さえやまとうこ)
冴山 桐子(さえやまとうこ)
今日は、ふたりと帰るの?
三崎 瑠伊(みさきるい)
三崎 瑠伊(みさきるい)
え、あ、いや…
兄貴は困ったように俺を見た。
だから俺は、わざわざ気の利いた演技をきかせて兄貴を助けてやることにした。
三崎 怜伊(みさきれい)
三崎 怜伊(みさきれい)
いえ、自分、こいつと2人で帰るんで
失礼します
須崎 彩花(すざきあやか)
須崎 彩花(すざきあやか)
え、ちょっと、怜伊!?
彩花の手を取って急いで信号を渡った。
後ろで不機嫌な顔をしているだろうこともわかってた。
でも、それでも…
三崎 瑠伊(みさきるい)
三崎 瑠伊(みさきるい)
あ…えっと、置いていかれたし、一緒に帰ってくれる?
走りながら兄貴の声が聞こえた。
それから、冴山先輩の笑い声も。

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