第3話

畑のおばさん
37
2024/06/08 23:49
東京校から駅までは遠い。
高専内では術式を使って速く移動できるが、高専を出た後の駅までの道は地獄だ。遠過ぎて。そして電車が来るのを待っている時間も地獄だ。来なさすぎて。
とは言っても、神奈川分校だって郊外にある。だからもう慣れっこなはずなのだが、何せいつもは遙と一緒なので、1人でとなるとあまりにも苦行だ。
途中で綺麗な景色があれば写真を撮り、畑仕事をしている方達に話しかけられ、動揺しつつも少しお話をする。いつもなら遙の後ろに隠れて会釈程度しかしていないので、やっぱり慣れない。
畑のおばさん
あれ、そう言えばいっつものお連れさんはどうしたんだい?
黒月錨
黒月錨
え、ああ、遙のことですか?
畑のおばさん
そーそー遙君!今日は別々なの?
黒月錨
黒月錨
え、ああ、まあ。
畑のおばさん
そう。じゃあこのキャベツと苺、あの子と一緒に食べてちょうだい!
渡された袋には、美味しそうなキャベツが2つ、真っ赤ないちごが沢山入っていた。
黒月錨
黒月錨
..いいんですか?こんなに.....
畑のおばさん
いいのよー!だって今アンタ、すごい寂しそうな顔してるじゃない。遙君と話す口実として、ね。
もう遙はいないのに。
黒月錨
黒月錨
...じゃあ、頂きます。ありがとうございます。
畑のおばさん
うんうん、やっぱアンタ良い子ね!遙君が選んだだけあるわ!!
黒月錨
黒月錨
...ありがとうございます。
あれ、先程何かを思い出した気がするのに。
何だったっけ。いくら頭を捻っても思い出せない。珍しい。
黒月錨
黒月錨
....では、電車に乗らなければいけないので、失礼します。
畑のおばさん
うん!またここらに来たら話しかけてねー!!
黒月錨
黒月錨
はい。では。
ペコリと軽くお辞儀をして駅に向かう。
少し進んだところで振り返ると、さっきのおばさんが手を振ってくれていた。優しい。僕も振り返しておく。
そんなこんなで駅につき、遙のコミュ力の残響で僕の両手は野菜の入った袋でいっぱいになってしまった。何でこんなに野菜をくれるのだろう。嬉しいけど。駅に着いて座っていると、意外とすぐに電車が来た。珍しい。僕は案外運がいいのかもしれない。

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