第8話

21
2024/06/12 12:48
月季遙
月季遙
..かり、錨、起きて。
黒月錨
黒月錨
ん....?
自身を呼ぶ声で目を開くと、そこには遙が居た。
黒月錨
黒月錨
....遙..?
月季遙
月季遙
うん。そうだよ。錨と話がしたいんだ。
遙が優しく微笑んで言う。ああ、心があったまる。安心する。落ち着く。
黒月錨
黒月錨
ん、いいよ。
了承をすると、遙が少し顔を歪めた。
月季遙
月季遙
別れよう。
黒月錨
黒月錨
ッえ、
息が詰まって、世界が歪む。揺れる。
ぐにゃぐにゃとした視界でも、哀しそうに微笑む遙の顔は見えて、どうせなら見えない方が良かったと思った。
呼吸が速くなっていって、涙が溢れてきて、自分の服の裾をギュッと握り締めて耐える。
嫌だ。
何か悪い事をしてしまったのだろうか?やっぱり素っ気ない態度がいけなかったのだろうか?
後悔とか罪悪感とか沢山の重いものが一気に伸し掛かってきて息が出来ない。
月季遙
月季遙
別れたら、暫くすれば俺の事忘れるだろうから。彼奴何だったんだよって、そう思って。
そんなこと言わないで。
遙のこと忘れられるとか舐めるな。忘れられないから困ってるんだろ。忘れられないから、こうやって、苦しくて、それで。
それで、ずっと、この先も、ずっと、一緒に居たいって、そう思うんだろ。
違う。
忘れられないかなんて分からない。
でも、ただ、遙との思い出を、シャボン玉みたいに一瞬だったと未来で思ってしまうのが嫌なんだ。一瞬の、幸せだったって。それが嫌だ。彼奴何だったんだよって思えたって、そう思う未来の自分が許せない。
言いたい事は沢山あるのに、喉が張り付いて声が出ない。意味もなく空気を出して、これでお終い。いつもこうだ。
......これで良いのか?
このまま、終わってしまっても。
黒月錨
黒月錨
..................いや、だ
月季遙
月季遙
..何で?呪い合う関係になっても良いの?
俺が死んで、呪い合って、それでも良いの?
一度声を出せれば、後はすらすらと言葉が出てくる。どうせ終わってしまうなら、今言ったって良いだろ。
黒月錨
黒月錨
呪い合っても良い。生きていたって何だって、愛ってそんなものだろ。僕だって、ずっと一緒に居たいって言って、遙のこと呪ってるんだ。
黒月錨
黒月錨
ずっとそんな風に呪いあって生きていきたいと思ってる。だから一緒に居るんだろ。
月季遙
月季遙
......本当に良いの?俺が呪霊になって、錨を呪ったとしても。
黒月錨
黒月錨
良いよ。寧ろ呪えよ。俺も死んでも死ななくても呪ってやるから。
そう言うと、遙が吹っ切れたようにカラッと笑った。心から笑っているんだと分かるこの笑顔が好きだ。
月季遙
月季遙
そっか。
遙が消えていく。それと同時に肩が重くなっていって、遙に呪われたのだと実感する。
遙は死んだ。
呪術師である限り、恋人の死も受け入れられる人間でなければいけない。
でも、呪術師だから死んだ遙と一緒に居られるのだと思うと、悪くない。

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