自身を呼ぶ声で目を開くと、そこには遙が居た。
遙が優しく微笑んで言う。ああ、心があったまる。安心する。落ち着く。
了承をすると、遙が少し顔を歪めた。
息が詰まって、世界が歪む。揺れる。
ぐにゃぐにゃとした視界でも、哀しそうに微笑む遙の顔は見えて、どうせなら見えない方が良かったと思った。
呼吸が速くなっていって、涙が溢れてきて、自分の服の裾をギュッと握り締めて耐える。
嫌だ。
何か悪い事をしてしまったのだろうか?やっぱり素っ気ない態度がいけなかったのだろうか?
後悔とか罪悪感とか沢山の重いものが一気に伸し掛かってきて息が出来ない。
そんなこと言わないで。
遙のこと忘れられるとか舐めるな。忘れられないから困ってるんだろ。忘れられないから、こうやって、苦しくて、それで。
それで、ずっと、この先も、ずっと、一緒に居たいって、そう思うんだろ。
違う。
忘れられないかなんて分からない。
でも、ただ、遙との思い出を、シャボン玉みたいに一瞬だったと未来で思ってしまうのが嫌なんだ。一瞬の、幸せだったって。それが嫌だ。彼奴何だったんだよって思えたって、そう思う未来の自分が許せない。
言いたい事は沢山あるのに、喉が張り付いて声が出ない。意味もなく空気を出して、これでお終い。いつもこうだ。
......これで良いのか?
このまま、終わってしまっても。
一度声を出せれば、後はすらすらと言葉が出てくる。どうせ終わってしまうなら、今言ったって良いだろ。
そう言うと、遙が吹っ切れたようにカラッと笑った。心から笑っているんだと分かるこの笑顔が好きだ。
遙が消えていく。それと同時に肩が重くなっていって、遙に呪われたのだと実感する。
遙は死んだ。
呪術師である限り、恋人の死も受け入れられる人間でなければいけない。
でも、呪術師だから死んだ遙と一緒に居られるのだと思うと、悪くない。