第69話

68話 青色終着点
1,612
2023/06/13 22:45 更新
___卒業。
春の香りが鼻を掠める
ばぁう
ほらほら~もっと寄って~!
行くぞー
ボタンを押したばぁうくんが駆け寄る

僕はまひとくんとゆきむに挟まれた
しゆん
これ何秒設定にした?
ばぁう
んっとね、10。
まひと
あ、ほらほら。ろく!
そうま
ごー
ゆきむら
よん
ばぁう
さーん!!
しゆん
にぃ~
てると
いちぃ
かしゃ、と鳴ったシャッター音は周りの雑音でよく聞こえなかった
まひと
撮れた~?
そうま
お、撮れてる撮れてる
ゆきむら
いいじゃん
ばぁう
お~!後でグルの方送っとくなー
しゆん
……桜
てると
綺麗だよねえ…
桜を背後に撮った僕らの写真
それぞれ背丈の違う、大人っぽい姿が映る
しゆん
やっぱりそっくりだわ。てるちゃんの髪
てると
……みんな言うよね、それ
しゆん
まじでそっくりだからね
周りからはすすり泣く様な声が聞こえる
なのに僕等6人は誰も泣いていなくて
卒業証書が入った筒をぐ、と握る
まひと
まさかばぁうくんとそまちゃが同じ大学とはねえ
ばぁう
腐れ縁ってやつよ
そうま
丁度いい所だったんだよな、近さとかも
ゆきむら
あー…僕もあそこ目ェつけてた
まひと
ゆきむもまさかのまさかだったね。完全に名門校っていうか一流大学じゃん
ばぁう
そー!!合格発表のとき全員で泣いて喜んだやつな!
そうま
受験前電話したらありえないくらい暗い声聞こえてきたの覚えてるわ
ゆきむら
現役合格ぜってえしてやる、ってがち頑張った
まひと
あのゆきむがねえ?
ゆきむら
どのゆきむだよ
ゆきむら
てかまひともすげえとこなんだろ、どっかの経済学部
まひと
あー…
ゆきむほどじゃないけどね。
ちょっと意地はってるだけだよ
ばぁう
てかしゆんとてるちゃんまた同じなんだろ?
しゆん
え?ああ、そうだね
そうま
まあでも納得だよな、同じとこ行く未来しか見えない
てると
……そうかな?
それに他の4人はうんうん、と頷く
ふいに強い風が吹き抜ける
ばぁう
っだっ!!!
花びらほっぺたに直撃したんだけど!銃撃されたかと思った!!いった!
そうま
目が…目がぁ…
まひと
この2人はギャグ要員なのか
しゆん
そうまが泣いてる…
大丈夫だぞ、卒業しても俺らは一緒だ
ゆきむら
多分それ違う涙だわ
てると
……
目の前を花びらが一枚、通った
見える世界が違う。


視えるいろが違う。


気のせいなんだろうけど、きっと、なにか違う
てると
……ねえみんな
『幸せ』なんてものは、決して一人では見つけられなくて


誰かと過ごす心地よい日々を見つけて初めて


その輪郭を成した
てると
ありがとう。
花が唄うように、静かに笑い合う姿が好きだった。
空にのるように、弾む会話が好きだった。
まひと
こちらこそ、ありがとう
手まりが転がるように笑いかけるその顔が
ばぁう
てるちゃんもありがとう!!
雨上がりのように晴れやかなその仕草が
そうま
俺からもありがとう。
陽だまりのようにあたたかいその姿が
ゆきむら
…ありがと
葉が照らされるように綺麗なその声が
しゆん
…ありがとう。
これからも、よろしくね
花が咲くように僕を落ち着かせるその掌が
てると
……
好きで、大好きで。


満たされた気持ちになって。
ばぁう
よおし!全員ダッシュ!!!
つられるように駆け足になる
校門前で全員立ち止まる。一歩超えたら、僕らは卒業だ


消え入る声で呟く
てると
ほんとに…ありがとう…
きっと、いくら「ありがとう」と言っても足らない。

涙で滲む景色も、灰となって散っていく視界も

君らとなら、進んでいける気がして。

せーの!という誰かの声と共に




僕らは明日に向かって跳んだ。
______________________________________________

駅のホーム。


しゆちゃに海にでも行こう、と誘われた
やっぱり今日は卒業式の学校が多いみたいで、結構ホームに人がいた
てると
……卒業だねぇ
しゆん
早いね、一年って。
人の隙間を通りながら、しゆちゃと会話をする。


横に並べないから、顔が見えない
しゆん
……ひとつさ、心残りというか、願望があるんだ
てると
なあに?
間を開けて、しゆちゃが口を開く
しゆん
……
しゆん
…てるちゃんに、もっと早く、会えてればなあって
しゆん
思うんだ……
変なこと言ったな、なんて笑うしゆちゃに僕も口を開く。


わかるよ、僕も、不安だから
てると
……僕も、同じこと思ったことあるけど
てると
何度生まれ変わっても、何度やり直しても、
今のしゆちゃと会えた瞬間が、一番好きだと思う
しゆん
……
てると
それは、言い切れるから。
しゆん
……そっか、
うん、と、しゆちゃの満足そうな声が聞こえる
思わず顔が綻ぶ。これが惚れた弱みってやつかな、なんて考える

他の誰でもない、しゆちゃだから。
君と出会ったあの瞬間から、ずっと、好きで
笑っていて欲しくて、幸せになって欲しくて、
僕よりずっと、長生きしてほしくて。
てると
ねえ、しゆ…
”ドンッ”
てると
ちゃ........
あれ、なんて声すら出なかった


日常は一瞬で崩れる、とはこのことか、なんて頭の隅で考えた

感じたのは、強い衝撃と頭を打った痛み

そして、朦朧とする意識の中、微かに聞こえた電車の音。

”___ッ!!”
他に、何か……


……ああ…

しゆちゃ、ごめん…



______________________________________________

最後に見えたのは、灰色だった。

微かな意識の中で聞こえたのは、中3の頃から変わらない君の声。
泣いてるの?
しゆちゃは泣き虫だなあ……


そして何かに触れる暖かい感触。


それが唇だと気づくのにはそう時間はかからなかった。

ダメだよしゆちゃ。初めてのちゅーは好きな子としないと。君が言ったんじゃないか。


ああ、これ……走馬灯、ってやつ、かな…

そうまとう…

そまちゃ……


あ、…よにんもないてくれるのかな……

そっと唇が離れる

なんか…わるいきは…しないなあ……



そう思ったところで、僕の糸一本のような意識は途切れた

プリ小説オーディオドラマ