___卒業。
春の香りが鼻を掠める
ボタンを押したばぁうくんが駆け寄る
僕はまひとくんとゆきむに挟まれた
かしゃ、と鳴ったシャッター音は周りの雑音でよく聞こえなかった
桜を背後に撮った僕らの写真
それぞれ背丈の違う、大人っぽい姿が映る
周りからはすすり泣く様な声が聞こえる
なのに僕等6人は誰も泣いていなくて
卒業証書が入った筒をぐ、と握る
それに他の4人はうんうん、と頷く
ふいに強い風が吹き抜ける
目の前を花びらが一枚、通った
見える世界が違う。
視えるいろが違う。
気のせいなんだろうけど、きっと、なにか違う
『幸せ』なんてものは、決して一人では見つけられなくて
誰かと過ごす心地よい日々を見つけて初めて
その輪郭を成した
花が唄うように、静かに笑い合う姿が好きだった。
空にのるように、弾む会話が好きだった。
手まりが転がるように笑いかけるその顔が
雨上がりのように晴れやかなその仕草が
陽だまりのようにあたたかいその姿が
葉が照らされるように綺麗なその声が
花が咲くように僕を落ち着かせるその掌が
好きで、大好きで。
満たされた気持ちになって。
つられるように駆け足になる
校門前で全員立ち止まる。一歩超えたら、僕らは卒業だ
消え入る声で呟く
きっと、いくら「ありがとう」と言っても足らない。
涙で滲む景色も、灰となって散っていく視界も
君らとなら、進んでいける気がして。
せーの!という誰かの声と共に
僕らは明日に向かって跳んだ。
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駅のホーム。
しゆちゃに海にでも行こう、と誘われた
やっぱり今日は卒業式の学校が多いみたいで、結構ホームに人がいた
人の隙間を通りながら、しゆちゃと会話をする。
横に並べないから、顔が見えない
間を開けて、しゆちゃが口を開く
変なこと言ったな、なんて笑うしゆちゃに僕も口を開く。
わかるよ、僕も、不安だから
うん、と、しゆちゃの満足そうな声が聞こえる
思わず顔が綻ぶ。これが惚れた弱みってやつかな、なんて考える
他の誰でもない、しゆちゃだから。
君と出会ったあの瞬間から、ずっと、好きで
笑っていて欲しくて、幸せになって欲しくて、
僕よりずっと、長生きしてほしくて。
”ドンッ”
あれ、なんて声すら出なかった
日常は一瞬で崩れる、とはこのことか、なんて頭の隅で考えた
感じたのは、強い衝撃と頭を打った痛み
そして、朦朧とする意識の中、微かに聞こえた電車の音。
”___ッ!!”
他に、何か……
……ああ…
しゆちゃ、ごめん…
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最後に見えたのは、灰色だった。
微かな意識の中で聞こえたのは、中3の頃から変わらない君の声。
泣いてるの?
しゆちゃは泣き虫だなあ……
そして何かに触れる暖かい感触。
それが唇だと気づくのにはそう時間はかからなかった。
ダメだよしゆちゃ。初めてのちゅーは好きな子としないと。君が言ったんじゃないか。
ああ、これ……走馬灯、ってやつ、かな…
そうまとう…
そまちゃ……
あ、…よにんもないてくれるのかな……
そっと唇が離れる
なんか…わるいきは…しないなあ……
そう思ったところで、僕の糸一本のような意識は途切れた












編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。