第64話

63話 結ぶ願い
1,170
2023/06/04 02:31 更新
てると
……
ゆきむら
……
帰路を歩いていると、家の前でチャイムを鳴らそうとしている人を見つけた
思わず立ち止まる
てると
ゆ…きむ……
知的に光る黒の瞳がこちらを覗いた
ゆきむら
……久しぶり
今度は、目を逸らさない
______________________________________________
てると
…何週間ぶり?
家の前の壁に並んで寄りかかって話す
ゆきむら
3週間と2日と7時間
てると
細かいね…
ゆきむら
まあ……
ゆきむは空を見上げて話す。

僕もつられて上を見た
てると
……
灰色が光る。

寒いなあ、なんて手元を摩った
ゆきむら
……僕、さ…
てると
うん?
ゆきむら
昔からの夢があって……
押し黙るゆきむ
てると
、?
ゆきむら
官僚にさ…なりたかったんだ……
てると
……え、
ゆきむら
影で活躍するのに憧れて、かっこよくて
……結構勉強頑張ってたんだけど…
『眠い。勉強しよ』
『有意義が1番良い』
てると
……
あんまり上手くいかなくてさ、とゆきむは笑う
ゆきむら
兄貴に話してみたんだ、1回そのこと。
ゆきむら
そしたら……
ゆきむら
『かっけえ』って。『似合ってる』って。言ってくれた。ぜってえなれるって励ましてくれた。
てると
……
僕もそう思う。

……あぁ、そうだ、そうだよ。



『てるは何になりたい?』


「お姉ちゃんのお嫁さん!」


『お嫁さんかあ…』


『じゃあ、お姉ちゃん、てるのお婿さん
立候補しちゃおうかな』
ゆきむら
その時さ、ああ…って思ったんだ
ゆきむら
僕は、『居場所』が好きなんだ、って
てると
……居場所…
ゆきむがこくりと頷く
ゆきむら
てるとのときも、兄貴のときも、
いる意味が欲しくて、大切にされたくて、自分がいていい場所を求めて。
光る。光る。

髪の毛先、瞳、空に伸ばした細い腕。

そこには包帯が掛かっていて
ゆきむら
……
空に伸ばした手を握るゆきむ
ゆきむら
あれから、景色が変わった気がするんだ
ゆきむら
……空が青くて、太陽が光ってて…
ゆきむら
なんか、広い。
てると
……諦めちゃ、ダメだよ
ゆきむら
何を?
夢を?
てると
……
てると
全部。
ゆきむら
……
驚いた顔の後、ふ、と笑った
ゆきむら
そうだな…
わざとらしく上を向く
てると
この世界にはまだ、ゆきむの知らないことが沢山あるからね
ゆきむら
ふはっ、知った口ききやがって
てると
…っ!//
みっ、みんなで心配してたんだからなぁ!
ゆきむら
はいはい、w
…ありがとな、ほんと
ゆきむら
僕はさ、居場所が好きなんだ。求めてたんだ。だから…
ゆきむら
…誰かの居場所を、守る人になりたい
てると
……応援、してるね…
意外だった。


ゆきむが”誰かのため”と口にするのは。



それだけ、変わったんだ
ゆきむら
……てるとさ、
てると
、?
ゆきむら
変わったよな、…多分
てると
へ?
多分ってなんだ。多分って……


…そんな変わった?
ゆきむら
顔つきが…
違う、気がする…
てると
……、
自分の胸を抑える


……変な感じだ。スッキリしたような…


刺さった矢が抜けたような…
ゆきむら
なんかあったか?
てると
……
吸い込まれそうな黒の瞳が揺れる


前髪で隠れた片目がちら、と見えた
てると
……
深く息を吸い、口を開いた
______________________________________________
ゆきむら
……へぇ、
てると
…意外と驚かないもんだね、
ゆきむら
あぁ、まあ…
うちも酷いもんだし
ゆきむら
あと…
てると
ゆきむら
そういう時、頼るのがしゆんってのは、
なんか、癪。
「嫉妬」。そんな二文字が頭に浮かぶ


思わず口元が弧を描いた
てると
はは、幼稚園児か
ゆきむら
わかんねえだろうな、人タラシが
てると
……言い方…
ゆきむら
事実だわ。
ふと、ゆきむが僕の手をとる


なんだ、と思うと突然体が浮いた
てると
……わ、
ゆきむに持ち上げられた。

僕より低い位置にあるつむじを見つめる
ゆきむら
…もっと可愛い声出ねえの
「きゃっ♡」とかさあ、なんて言うゆきむの頭を小突く
てると
……
しゆちゃにも同じようなこと言われた…
ゆきむら
まーたアイツか
拗ねるゆきむに思わず苦笑を零す
てると
ゆきむ力持ちだねえ
ゆきむら
それなりにな









ゆきむら
……なあてると
てると
ん?
ゆきむら
世界って広いんだな
ありがとう、気づかせてくれて
微笑むゆきむを上から見つめる


笑みが零れた
てると
なにを今更、w
てると
まあ…でも……
ゆきむら
でも?
てると
…なんでもないっ!
僕がぐいーっと仰け反るとゆきむは慌ててふらついた
ゆきむら
ちょ、わ、危ない
てると
…ふふ、
てると
…もう、いなくならないでね
ゆきむら
……
ゆきむら
うん、
約束する
小指が差し出される

片手で支えられるなんて力持ちだなあなんて思いながら、微笑する
てると
約束、ね。
てると
…おかえり、ゆきむ。
ゆきむら
ただいま、てると。
その言葉と同時



細い小指に、自分の小指を絡めた
______________________________________________
でもね、この世界、僕の視界はモノクロの世界で。
そんな中から幸せの色を見つけるなんて無謀な希望を掲げて

笑ってくれよ。

プリ小説オーディオドラマ