第51話

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2025/04/19 15:00 更新


S.COUPS side






シュアが、俺のことを見つめる。

…これは、俺が声をかけろということなのか?




いや、そこまで言ったんならお前が言えよ…とも思ってしまったが、別に良い。


















「なあジョンハナ。俺がさ、お前に違和感を感じた瞬間は一回しかなかったんだよ」




しかも、それは本当に最近だった。









「お前が潜入を引き受けた後の会議。その時が初めてだった」






「いつものお前なら、もっと策を考えることも、もしくは引き受けた理由をしっかりと説明することもできた」







「…なのに、あの時。お前は何も言わなかったな。ただ謝って、それが自分の役割だって。」












全てを知って、その言葉の意味がわかった気がする。







「ジョンハナ、一つ言いたいんだ。」







ジョンハナはこちらを向かない。


だから、どんな顔をしているのかはわからない。












ただ、俺の次に続く言葉を待ってくれているようだった。






















「名前、呼んでくれないか」











メンバーの一部から、少し呆けたような雰囲気が出た。



まあ、それもそうだろう。


言うことがまさかの「名前呼んで」だとは誰も思うまい。




















「呼んで?ジョンハナ」







「おれの、名前」




















ジョンハナは静かにナイフを持った手を下ろした。


そして、静かに。



小さな声で




けれど聞こえるように、そっとつぶやく。























「…………すんちょら」




















すると、ジョンハナはゆっくりとこちらを振り返る。



涙なんて流さず、ただただ、希望を失った黒く虚な瞳をしていた。


それは、見ているこっちまで苦しくなるもので、













「…もっと、呼んでよ」










「…………すんちょる、」






何回も、小さく俺の本名を呼ぶ。



何回か呼んだ後、俺と目があう。


その瞳は、黒く、けれども丸く美しい。




だんだんと、瞳が揺れてくる。


…そうだ、それでいい。それでいいんだ。俺はそれを望んでいた。










今にも泣きそうになるジョンハナに、俺は思いっきり抱きついた。



押し倒すほど、強く。

潰してしまうんじゃないかってくらい細く薄いからだを、しっかりと、優しく。







「…すんちょら、すんちょ、ら」




「うん。ジョンハナ」






肩が震え出し、ついにはぽろぽろと、大粒の涙をこぼし始めた。







「すんちょら、うぅ、ぁ、う…………」


















まるで小さなこどものように、一つひとつ


言葉を紡いでいく







「おれ、もう、わかんない。何?おれって何?」





「だって、おとうさん、おかあさんも、死んじゃ、った。俺のせいで、おれが、おれが」

















「おれがしねばよかったのに」




















その一言に、俺は怒鳴る勢いで言い返した。


その言葉は絶対にだめだ。それは、お前が言うべき言葉じゃない。







「ジョンハナ。お前は生きてていいんだよ。な、その2人は、お前になんて言った?幸せになれ、とか?そんな言葉がなくても、きっと2人はお前のことは本当に愛していたんだよ」





「お前がこんなにも優しい子に育ったんだ。あの2人も、凄く嬉しかっただろうし、何より生きていてほしいと思っているんじゃないか?」









ぐすぐすと、俺の肩に顔を埋めて黙って話を聞くジョンハナ。

時折鼻水を啜る音もする。



少し服が心配になったが、まあいいだろう。






「少なくとも、俺たちは絶対にお前を死なせたりなんかしない。俺たちは、お前が大好きで仕方がないんだよ」





「自分が死んだ方が良かった、なんて言わないでくれ。誰の命にも、代わりになるものなんてない」





「たとえ代わりに死んでも、命はその人自身のもののみだから、意味を成さない。それなら、俺はお前に生きてほしいよ、ジョンハナ」













ひっく、としゃくりをあげて泣き続ける。

しかし、先ほどまでは下に垂れていた腕を、俺の背中に回し、服をぎゅう、と握った。


















「すんちょら、ちょら。おれ、いいの?」

















「うん。」
















「おれと関わった人は、優しい人たちは、どんどん苦しんでいっちゃう。おれと、一緒にいたから」




「おれは、たくさんの人を不幸にした」





















「そんなの、ジョンハナのせいじゃないよ」












とんとん、と落ち着かせるように背中を叩く。


ジョンハナは静かに顔をあげて、俺を見つめた。











そして、ゆっくりと口を開いて

































「……お、れ、生きててもいいの?」



















「だれかを不幸にしちゃう、おれが、生きててもいいの?」





「太陽みたいなみんなと、一緒にいて、いいの?」














ああ、本当。


世の中というのは理不尽だ。







優しい人ほど、こんなにも苦しむなんて。









「…いいんだよ。ジョンハナ。………ありがとう、生きててくれて」





そして、と付け加える。



























「おかえり」























その一言を合図に、全員がジョンハナに近寄った。



泣きつく者もいれば、静かに見守る者も。





















「ヒョン、ありがとう、ありがとう。ごめんね、僕、ひどいことしてたね」






ドギョマが泣きながらジョンハナに謝った。が、ジョンハナは自分も泣きながら、ドギョマのことを抱きしめた。













「しかた、ないよ。あんなの忘れててよかったのに。なんで、きちゃったの…本当。だめだって言ったよ、おれ。おれに似ちゃだめだって。言ったのに」

















「……でも、ありがとう。お前も、おとうさんたちは忘れないでいてあげて。みんなで呼んだもう一つの名前も、忘れないでいて」















ドギョマの本名、ソクミン。



これからはそっちで呼んでやろうか、なんて考えていると、隣にシュアとウジがやってきた。


なかなか珍しい組み合わせだ、なんて。















「ヒョン、ありがとうございました。お疲れ様でした。」




ウジはぺこり、と頭をさげ、俺に礼を言う。


けれど、俺は礼なんかいらないし、と考える。







メンバーたちと戯れる(?)ジョンハナと、パンと、いつのまにか来ていたもう1人のロボットのような奴が、ボスを引きずって出ていくのを見る。














butterは、これでしばらくは動けないだろう。政府ももちろん。


壊滅はしなくていいかな。というか、もう、いいのかもな


































「ウジ、もう、いいよ。終わるか」

















俺のその一言に、2人は目を丸くさせる。




けれど、それは一瞬だった。








すぐにいつもの顔になって、なんならシュアは笑っていた。














「クプスらしい。急に物事を自己完結して、終わらせる感じね」





何か文句でも?という気持ちを込めて、じとりとシュアを睨む。










「まさか。文句なんてないからね。僕も賛成だよ。butterが動けなくなった今、僕たちの目的はもうない」




おどけたように肩をすくませ、シュアはジョンハナのほうに逃げていった。



ウジは、まだその様子を見守っている。




















「ヒョン。俺も、賛成です。」












「みんなで、もう終わりにしましょう。もう、俺たちは裏にいなくていいです」



















ウジはじっと俺を見つめる。


何度も見たその瞳。



宇宙のように深く、愛のある瞳だ。この瞳を持つ、頼り甲斐のある弟は、いつも以上に穏やかな顔をしていた。




































ジョンハナ。


お前が書こうとしていた物語の結末からは大きく外れただろうな。


でも、これが俺たちの望むハッピーエンドなんだよ。














夜にしか強くなれなかった俺たちの、最後の復讐が終わって


もう、夜にいなくてもよくなった俺たちの、最高な結末。



































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