その言葉が落ちたあと、時間が止まったみたいに静かになる。
冗談でも軽口でもない声で言われたそれを、うまく受け止めきれなくて、すぐに返事ができない。
視線を外したら逃げたことになりそうで、でも見続けるのもしんどくて、どうしたらいいのかわからなくなる。
そこで一度言葉が止まった。
何て言えばいいのか迷って、結局いちばん素直な形に落ちて、
山中くんがゆっくり手を伸ばして、テーブルの上の手にそっと重ねる。触れたところから熱が広がって、思わず指先に力が入る。
そのまま距離が近づいて、息がかかるくらいの位置で止まる。そっと触れるキスに、頭の中が真っ白になる。
もう少し、と思ったところで、廊下の方から足音が近づく気配がして、はっとして距離を離した。
慌てて席に戻って、何事もなかったみたいにパソコンに向かう。山中くんも同じようにデスクに戻って、いつもの顔で画面を見ている。
視線だけそっと向けると、目が合って、どちらともなく少しだけ笑いそうになる。
外に出ると、さっきの出来事がじわじわと実感に変わっている。
並んで歩いていても、少し距離が近い気がするし、カップルなんてこんなもんか?なんて、意識してしまう。
改札の前で立ち止まって、いつも通り別れるはずの場所なのに、今日はそれが少しだけ違う意味を持っている気がする。
気づいたら、自然と笑っていた。
山中くんは一瞬だけ驚いた顔をして、それからすぐに表情を崩して
言われた瞬間、反応する間もなく腕を引かれて、そのままぎゅっと抱き寄せられた。
そのまま少しだけ強く抱きしめてから、ゆっくりと離れる。
名残惜しそうに一歩分距離を取って、それでも視線はそのままで。
軽く手を振ると、山中くんも同じように手を上げて、少しだけ笑っていた。
改札を抜けて一歩進んだ瞬間
さっきまでなんとか保ってたものが、一気に溢れるみたいに、現実が追いついてくる。
好きって言われて、付き合って、キスして、抱きしめられて。
全部がちゃんと起きたことだって、山中くんとしたことだって実感した瞬間、足に力が入らなくなって、その場でしゃがみ込んだ。
手で顔を押さえながら、さっきの表情を何度も思い出してしまう。
クリスマスの夜。
絶対に特別なことなんて何もないと思っていたのに、気づけば一番忘れられない日になっていた。












編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!