その日は朝からバタバタしていた。
年末前で仕事が立て込んでいて、気づけば定時を過ぎても席を立つ人は少ない。
普段よりもオフィスの明かりが長く残っていて、どこか落ち着かない雰囲気が続いていた。
一通りの作業を片付けたつもりでも、細かい修正や確認が積み重なって、なかなか区切りがつかない。
時計を見るとすっかり夜になっていた。
軽く返しながらも、キーボードを打つ手は止めない。
やっとのことで最後のファイルを保存した。
山中くんは一度だけ頷いてから、席を立って、
そのままデスクの横にある小さな冷蔵庫の前まで行って、扉を開けて、
何してるんだろうなんて思って見ていると、箱を一つ取り出して戻ってきた。
中には、二人分くらいの小さなケーキが入っていた。
そう言いながら、コンビニの袋からフォークを取り出した。
椅子を少し寄せて、一つのデスクを挟む。
口に入れた瞬間、スポンジ生地がふんわりととろけて甘さが広がった。
思ったよりもちゃんと美味しい。
そのまま何口か食べ進めていると、
山中くんは少しだけ視線を逸らして、フォークを持ち直して、
そのあと、もう一口すくった。
軽く押しつけられて、差し出されたフォークに口を近づける。
結局、観念したみたいに口を開けると、山中くんはほんの少しだけ笑って、ゆっくりとフォークを差し出した。
今度は自分が同じように差し出したら、
山中くんは一瞬だけ驚いた顔をして受け取った。












編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!